ミッテ区議会が「ベルリンの慰安婦像」の撤去反対決議! 日本はロビー活動でなぜ勝てないのか!?
日本が撤去を求めている「ベルリンの慰安婦像」は管轄のミッテ区のフォンダッセル区長の撤去命令にドイツ在住の韓国人団体「コリア協議会」が反発し、ベルリン行政裁判所に撤去命令の執行停止仮処分を申請したことから判決が出るまでの間、保留のままとなっている。
「ベルリンの慰安婦像」を巡る日韓の確執は外交戦の要素を呈し、日本では在独大使館のみならず、茂木外相、加藤官房長官までが乗り出し、ドイツ政府に撤去への協力を要請する一方、10月21日には外務省のホームページに「慰安婦問題に関する我が国の対応」のドイツ語版を載せ、慰安婦問題に関する日本の立場、対応を伝えていた。
これに対して韓国政府は「民間の自発的な動きに日本政府が外交的に関与するのは望ましくない」と日本政府の対応を批判した手前、外交的な働きは控えているが、与党の「共に民主党」系の国会議員113人が駐韓ドイツ大使館を通じて連名で撤去に抗議する書簡をドイツ政府に伝達している。
(参考資料:ベルリンの慰安婦像撤去を傍観する文在寅政権を突き上げる韓国の保守メディア)
この問題が外交問題に発展したことで国内にも波及し、日韓共に地方自治体からはミッテ区のフォンダッセル区長宛てへの要請文が相次いでいる。すでに日本からは新宿区長と名古屋市長が撤去を求める書簡を相次いで送っているが、韓国もまたソウルの城北区長と京畿道の義政府市長が逆に設置を求める書簡を送っていた。
こうしたベルリン慰安婦像を巡る日韓の綱引きの最中、ミテ区議会は11月5日に全体会議を開いてこの問題を審議したが、その結果、撤去撤回の決議案が採択されてしまった。
決議案はIT技術者と緑の党から離脱した若者たちが中心となって結成された海賊党の議員が提出したもので採決の結果、全議員37人のうち28人が賛成していた。反対は9人だった。
中道左派の社会民主党と中道政党の緑の党、旧東ドイツの流れをくむ左翼党が賛成に回り、メルケル首相が所属する中道右派のキリスト教民主同盟と自由主義政党の自由民主党、ユーロ離脱を掲げ2013年に結成された極右政党「ドイツのための選択肢」の議員らが撤去反対に回った。ちなみに設置に賛成した緑の党はフォンダッセル区長が所属している党である。
係争中の司法の判断によっては撤去の可能性も残されているが、「コリア協議会」はこの決議により来年8月14日まで保存される見通しが立ったとみている。
区議会が区長の意に反して、撤去反対に回った最大の要因としては▲ドイツの教会が韓国のキリスト教協会協議会女性委員会の要請を受け、動いていたこと▲ドイツ人の人権問題への関心が極めて高いこと▲ドイツの市民・女性・人権団体が「コリア協議会」に連帯を表明していたことなどが挙げられるが、そもそもドイツ人は第二次大戦後同じ分断国であった韓国にシンパシーを持っていること▲60年代から70年代にかけて多くの韓国人がドイツに渡り、在独韓国人の数は在独日本人の比ではないことも無視できない要素である。
海外における「慰安婦像」の問題で日本が劣勢を強いられるのは何と言っても、現地の在留邦人と在留韓国人のロビー活動の差にあるようだ。ドイツに限らず米国など海外におけるロビー活動ではどうみても日本は形勢が不利だ。例えば、海外での「慰安婦像」は最初に米国に設置されたが、在米日本人と在米韓国人の数が違いすぎる。2014年の段階で日系人130万人に対して韓国系は170万人と、40万人も多い。
例えば、慰安婦像が設置されたカリフォルニア州グレンデール市は韓国系住民が約1万2000人に対し、日系住民はたったの100人。人口約800万のバージニア州では韓国系は10年で約2倍に近い7万577人に急増したが、日系はほとんど変動なく1万人にも満たない。選挙に例えるならば、基礎票ですでに差が付いている。それと、もう一つ、無視できないのは、議会における日系と韓国系の議員の数の差である。
今回米国では大統領選挙と同時に上下両院連邦議会議員選挙が行われたが、韓国系からは6人が出馬し、そのうち4人が当選している。
これまでは韓国系下院議員は移民の2世であるニュージャージ州のアンディ・キム(民主党)一人だったが、今回の選挙にはカリフォルニアからヤング・キム(韓国名:キム・ヨンオク、共和党)とミシェル・パク(韓国名:パク・ウンジュ、共和党)が出馬し、二人とも当選している。ワシントン州ではマリリン・ストリックランド(韓国名:スンジャ、民主党)が再選を果たしているので、韓国系の議員は4人となる。
アンディ・キム議員は移民の2世で、2018年にオバマ前大統領の全面的な支援を受け、韓国系としてはカリフォルニアのキム・チャンジュン下院議員以来20年ぶりに当選を果たした。2009年にオバマ政権下の国務省で外交安保専門家として仕えたこともあって通称「オバマボーイ」とも呼ばれている。バイデン次期大統領とも近く、バイデン政権となれば、韓国人社会では在米韓国人の権益保護での役割が期待されている。
ヤング・キム議員は仁川出身で、ソウルで幼年期を過ごし、1975年に両親と共に米国(グアム)に渡ってきた。大学で経営学を学び、2014年に韓国人女性としては初のカリフォルニア州議員(下院)に当選していた。親韓派として知られるエド・ロイス下院外交委員長(共和党)の補佐官をしていたこともあって今回、引退したロイス委員長の地盤を引き継いで出馬していた。「米韓の橋渡しの役割を担う」が彼女のモットーであった。
ミシェル・パク議員はソウル出身で中学時代に父親の転勤に伴い東京に移住し、新宿の韓国人学校に通っていた。日本女子大に入学するものの1976年に米国に留学したことにより両親も米国に移民として渡ってきた。1992年のロス暴動では韓国人の権益を擁護するための活動を行い、2000年の大統領選挙ではブッシュ陣営に加わり、ブッシュ政権下ではホワイトハウスコミッショナーとしての活動をしていた。
マリリン・ストリックランド議員は韓国人の母と駐韓米軍人の父との間で生まれている。ソウルで生まれて間もなく、父親がバージニア州のフォート基地に配属されたのに伴い米国に渡った。タコマ市会議員を経て、2018年までタコマ市長を務めた。韓国系であることを誇り、当選した場合は「連邦政府の次元でワシントン州を代表する初の黒人米国人として、230年の議会史上初の韓国系米国人女性になる」と自身を紹介していた。
日系議員はカリフォルニア選出のS・I・ハヤカワ上院議員やロバート・マツイ下院議員、ハワイ選出のダニエル・イノウエ上院議員らかつては5~6人いたが、現在は史上初のアジア系女性上院議員となったメイジー・ヒロノ上院議員(ハワイ州)一人のみである。米議会における日韓の「勢力図」も変わりつつあるのである。
それと、争点の歴史問題で日本が苦戦を強いられるのは何と言っても日本は加害国というハンディを背負っていることだ。
日本が加害国、韓国が被害国という相関関係上、日本がいくら主張、反論しても、並大抵のことではこのハンディを克服することはできない。米国で最も大きな影響力を持つとされるユダヤ系のロビイスト団体の「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」などが韓国に同調し、連帯するのも、ユダヤ人と韓国人は同じ第二次世界大戦の被害者という立場にあるからではないだろうか。