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英国のクリスマス(4) もう一つの「クリスマス・メニュー」

小林恭子ジャーナリスト
英慈善団体「クライシス」のウェブサイトから

クリスマスまであと数日となった。クリスマス・カードとともに郵便受けの中に入ってきたり、新聞や雑誌の中に挟みこまれてくるのが、クリスマスショッピングやクリスマス・ディナーのチラシだ。

この中で、ひときわ目立つのが、細長い、赤いチラシ。「クリスマス・メニュー」とある。中を開くと、どうも食べるためのメニューではないことに気づく。

これは、シングルのホームレスの人たちを支援する慈善団体「クライシス(Crisis)」の、クリスマス用募金のお願いのチラシだ。毎年、この赤い「メニュー」を見ると、しみじみと、クリスマスがやってきたなと思う。

その内容は、クライシスのウェブサイトにも掲載されている。 

ホームレスの人が「クリスマス・ディナーのような、栄養のある、温かな食事をとり、シャワーを浴び、清潔な衣類をまとい、健康診断を受け、眼科や歯科の医師から治療を受け、住宅や雇用について相談を受ける」機会を持てるように、「座席を予約しませんか」と呼びかける。

テーブルの1席を、ホームレスの人のために「予約する」には、20・48ポンド(約2790円)。2席、5席、10席などを選べるようになっている。

国内に設けたクライシスの9箇所の拠点には、昨年、3200人がゲストとして訪れた。クリスマス当日前後の1週間で、2万1000食が提供され、これを支えたのは8000人を超えるボランティアたちだ。

クリスマスは家族が集まって過ごす時期。行き場がない人にとっては、最も孤独な時期ともなり得る。

「ホームレス」というと、野宿をする人を想像する人もいるかもしれないが、英政府の統計によれば、ロンドン地域で野宿状態となった人は昨年で5678人だったという(クライシスのウェブサイトより)。

しかし、ホームレスの大部分の人は、親戚や知人宅、簡易宿泊所で寝泊りしており、「戻る家がない状態である人」=ホームレスとすれば、その数は大幅に増える。

クライシスの調べによると、人がホームレスになるにはさまざまな事情がからむ。

男性の場合は、付き合っていたあるいは暮らしていた女性との関係の終了、麻薬利用、所属していた組織を離れたこと(刑務所、養護施設、病院など)。女性は病気や家庭内暴力からの逃避が多い。

クライシスは、一人でも多くのホームレスの人が自信を取り戻し、将来はホームレスではなくなることをその活動の目的としている。

クリスマス・シーズンには、新聞もさまざまな形で困っている人を助けるための募金活動を実施している。

英国最大の高級紙「デイリー・テレグラフ」は、毎年恒例の「クリスマス・チャリティー・アピール」を行っている。

12月10日には、特別イベントとして、チャリティー募金用の電話番号にかかった電話を、テレグラフの記者、著名コラムニスト、政治漫画家などが対応する仕組みを作った。

例えば、読者がこの番号にかけると、普段は記事を読むだけで直接話をする機会がない記者やコラムニストと会話ができる。最後に募金額とカード番号を伝えると、指定金額がカード口座から引き落とされる。寄付額はテレグラフが選んだ慈善団体(途上国の身体障害者を支援する「モーティベーション」、災害地支援の「シェルターボックス」、負傷した英兵を助ける「オンコース」)に送られた。

この日1日で1000本の電話があり、7万5000ポンドを超える募金を集めた。現在も、ウェブサイトを通じて募金が可能だ。

インディペンデント紙は、ユニセフと共同し、中央アフリカ共和国(首都バンギ)の武装集団にいた児童を助けるための募金活動を行っている。

ガーディアン紙は、22日、テレグラフのように編集長、記者、コラムニストなどが電話に対応することで募金を集めるイベントを行う予定。集まった金額はガーディアンが選択した複数の慈善団体に寄付される。

クリスマスは、ほかの人に何かを贈る機会を与えてくれる。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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