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英国のクリスマス クリスマスカードから国王の演説まで

小林恭子ジャーナリスト
今年、筆者に届いたクリスマスカードの一部(撮影筆者)

 クリスマスを目前にした週末に入った21日、英国はクリスマス休暇の時期に突入した。

 とは言っても、今日はいわば「助走」の段階で、23日あたりから本格的な準備段階に入っていく。

「助走」の時期にやることは?

 クリスマスの準備はいつ始まるのか?

 クリスマスが好きな人は「毎日がクリスマス(あるいはその準備の日)」となるが、毎年、秋以降になると商店街にクリスマスの飾り付けが始まる。「ああ、もうこの時期がやってきたか」と感慨深くなるが、「まだ10月なのに!早すぎるよ」と小言を言う人も出てくる。

 11月後半から12月に入ると、雑誌にはクリスマス特集が掲載され、スーパーの棚にもクリスマス商品が増えていく。

 クリスマス商品とは何かというと:

 主として

 ークリスマス用の食品(お菓子、ドリンク類、通常の食品の大型版、ディスカウント版)

 ークリスマスプレゼント用のラッピング材、バッグ、カード

 -クリスマスリースなど、部屋の飾り付け材料

 など。

 百貨店もクリスマス商戦に入り、店内の飾り付けを変え、プレゼント用商品の陳列をする。

 普段家族と離れている人は、家族のところに帰るための交通手段を調整する。

クリスマスカード

 日本の年賀状に相当するのが、英国のクリスマスカードだ。文房具店、書店、チャリティーショップと呼ばれる中古品を販売するお店などで買う。

 郵便局はクリスマス用の切手を販売しているので、気が利いた人はこれを使ってカードに貼る。

  クリスマスカードは数枚のセットで販売されていることが多いが、肝心な点は「チャリティーかどうか」。価格の一部が何らかの慈善組織を支援するために使われるかどうか。クリスマスの時期であるからこそ、自分のためのみならず、誰かを助けるために貢献できることが望ましい。

 クリスマスカードは紙媒体であり、より環境に負荷をかけないため、多くの企業が電子カード(メールアドレスに送られてくる)にしているようだ。

 しかし、経費節約という面も大いにあるだろう。カード自体の価格の上に、切手代がかかる。切手には通常2種類あって、「ファーストクラス」か「セカンドクラス」。ファーストだとすぐに着き、セカンドだとより日数がかかる。

 英国の切手には、実は価格が書かれていない。現在、ファーストは1.65ポンド(約324円)、セカンドは85ペンス(約167円)。カードに切手を貼ると、1枚で合計400-500円ぐらいになってしまうのだ。通常は10枚では足りないが、10枚では4000-5000円、30枚だとその3倍だ。

 海外にクリスマスカードを出す人も多いが、国内だと、セカンドクラスの切手を使うのが普通だ。

 12月に入ると、毎朝、ポロリポロリとクリスマスカードが配達される。親せきや友人からのうれしいカードだ。「ふむふむ」と思いながら、送られてきたカードを部屋に飾っていく。

 同時に、自分でも親せきや友人たちにカードを送るが、郵便を送るための住所を紛失してしまった、前年のカードが見つからない、見つかっても、相手の住所が書かれていなかったなどなど、「相手の住所を見つける」作業がとても大変だ。時には、「毎年送っているんだから、もうわかっているでしょ」という感じで、全く住所を書かず、自分の名前のサインだけでカードを送ってくる人もいる。最悪の場合、その人にはカードを送れないままに数年が過ぎる場合もあるのだ・・・。特に、年に1度のカードが唯一の情報交換の機会で、その人の電話番号もメルアドもない場合だ。メールで「ところで、住所を確認したいので、教えてくれませんか」と相手に聞くことは珍しくない。

 部屋の中がクリスマスカードで飾られる光景は心が和むものだ。同時に、もう一つの楽しみがある。

 それは、「クリスマスまであと何日・・・」を数えるための「アドベンド・カレンダーである。以下はウィキペディアの情報である。

アドベントカレンダー (Advent calendar) は、クリスマスまでの期間に数を数えるために使用されるカレンダーである。待降節の期間(アドベント、イエス・キリストの降誕を待ち望む期間)にを毎日ひとつずつ開けていくカレンダーである。すべての窓を開け終わると迎えたことになる。

ただし毎年変化するアドベントの期間に関わらず、実際には12月1日から開始し24個の「窓」がある場合が多い。アドベントカレンダーは、窓を開くと写真イラスト物語の一編、チョコレートなどのお菓子、小さな贈り物等が入っていることが多い。宗教色の強いものもあれば、単に娯楽用のものもある。

準備の時期

 さて、助走が終わり、いよいよ25日のクライマックスに向けて、もっと能動的な準備に入る。

 主として22日、23日の話になる。

 まず、どこでクリスマスを迎えるのか?普段家族と離れていた人は、家に戻る過程が始まる。車、あるいは公共交通機関になるのか。公共交通機関の場合、クリスマス前後は運行予定が変わることがある。車の場合は、どの道路が渋滞になるかをチェックして、どうやって行くのかも考える必要がある。長い旅の場合、子供たちを楽しませるおもちゃをどれにするのか。

 家族を迎える立場にいる人は、寝室の調整をどうするのか、食べ物は十分にあるか、誰が料理するのか、クリスマス当日のスケジュール、家の中の飾り付け、プレゼントの用意など超忙しくなる。

 家の中が十分に整ったと仮定して、今度は当面、2つのことで忙しくなる。

 ークリスマス用の食料は十分にあるか(特に、七面鳥は調達したか)

 ープレゼントを入手しているか

 クリスマス用の食料とは:七面鳥のロースト、野菜、デザート(クリスマスプディングほか)がメインだが、ほかにもパネトーネ(イタリア風パン)、ミンスミート(甘い)、チョコレートを含め、ありとあらゆるおいしそうなものがこれに入る。スーパーのクリスマスコーナーに行くと、調達できる。シャンペン、ワインなどアルコールも欠かせないが、最近はノンアルコールも人気だ。

 プレゼントは高価なものから安いものまで、何でもよいが、相手が何を好きかを熟知していることが望ましい。

 準備期間で注意すべきことは、食料やプレゼントの調達がぎりぎりになってからだと、「自分が欲しいと思っていたものがない」状態になり、家族全員にとって悲劇となる。調達者にとっても、残念感いっぱいになり、失望のクリスマスとなる。

家族と一緒の時期

 24日のクリスマスイブは25日当日、「完璧なクリスマス」に向かって、最終調整が続く日だ。

 この時、「クリスマス=家族が一緒に過ごす」のが「完璧なクリスマス」の重要な要素となる。ここに力が入りすぎるあまり、家族内の喧嘩、失望、涙・・・などのドラマが繰り広げられる。

 24日以降は、テレビでも特別番組が花盛りとなっていく。テレビやラジオで教会での聖歌隊の歌声が放送されるようになり、ラジオをつけっぱなしにしておくと、自宅にいるだけで、クリスマス気分になれる。

クリスマススピリット

 「クリスマス気分」と書いたが、人口の60-70%がキリスト教徒のカテゴリーに入る英国で、クリスマスとは「キリストが生まれた日」であり、原則キリスト教のセレモニーである。

 ただし、キリスト教徒ではない英国民もクリスマスを祝う。

 キリスト教徒にとってはキリストの誕生を祝い、愛、喜び、家族、そして与えることについて考える機会と言われている。

 「愛、喜び、家族、与えること」。このような気分が充満してくる時期である。

25日はどうする?

 クリスマスまでに、すべて整ったとしよう。家族とも喧嘩別れせずに、25日の朝を迎えたとすると、それだけで、もうラッキーである。

 クリスマスの朝、伝統的な行動としては、「教会に行く」ことがあげられる。

 ちなみに、筆者はキリスト教徒ではないが、キリスト教徒の家人とともに近くの教会に行く場合が多い。行かない場合は、家人が教会に行っている間に、テレビでクリスマスミサをテレビで生中継しているので、それを見ている。

 筆者の家では家人がメインの料理人となるので、教会から帰ってきたら、七面鳥や野菜などの調理に入る。既に下ごしらえはしてある・・・はずである。

 遅めのランチの後、おなか一杯食べたために、眠くなる。そこで、お昼寝をするか、あるいは子供たちを連れて公園に行く。「外に歩きに行く」というのも伝統的な光景である。

 そして・・・午後3時。一大イベントが始まる。

 英国では、君主がテレビでクリスマスのメッセージを国民に送る。

 オンデマンドで後でも見れるようになっているのだが、15分間のメッセージを視聴する。高齢者の中には、起立してメッセージを見る人もいるという。

 クリスマスメッセージの後・・・ゆっくりする。食べては眠り、起きてはまた食べ・・・同時にネットやテレビを見たり、音楽を聴いたり。家族でゲームをしたり。

 こうして、クリスマスの夜は過ぎていく。

 クリスマスプレゼントをいつ交換するのかは家族によって異なるようだが、筆者の家では25日の朝である。

 クリスマスが明けると、年末までに部屋の中に置いておいたツリーをゴミに出す。クリスマスプレゼントを包んでいた紙もゴミに出す。

 あとは31日の大みそかを待つだけになる。

 喧嘩をせず、涙を流さず、ロースト料理も大失敗はなく、君主の演説を聞くところまで行ったら、「大成功」である。

 日本ではキリスト教徒ではない人が大部分だろう。しかし、この機会に「愛、喜び、家族、与えること」について考えてみるのも悪くないだろう。

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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