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英イングランドで8年ぶりに大学授業料値上げへ 40%の高等教育機関が赤字経営

小林恭子ジャーナリスト
ケンブリッジ大学のウェブサイトより(キャプチャー)

 「英国ニュースダイジェスト」に掲載された筆者のコラム記事に補足しました。

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 今、英国では生活費やあらゆるサービスの価格が高くなるばかりです。日本に一時帰国すると、なんでも安く思えてしまうほどです。

 値上げの波はとうとう大学にもやってきました。

 今年11月上旬、英政府は来年からイングランドにある大学の授業料(Tuition fee)の値上げを発表しました。なぜイングランドだけかというと、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでは大学の授業料の上限をそれぞれの自治政府が決定しているからです。イングランドには英国の人口の5分の4が住んでいます。(のち、ウェールズがイングランド並みの授業料にすると決定しました。)

40%の大学が財政赤字

 イングランドの高等教育の規制組織(OfS)によると、大学を含む高等教育機関の40%が財政赤字に陥ると予測しています。

 大学の経営健全化のため、政府は授業料と学生の生活費援助ローンの上限を、インフレ率と連動させて増額すると発表しました。現行ではフルタイムの学生の授業料は年間9250ポンド(約182万円)で、2017年以来値上げなしです。2025年度分には3.1%のインフレ率が適用され、上限が9535ポンド(約188万円)に設定されました。(ちなみに、国立大学の標準額の授業料はいま年間約54万円、私立大学は約100万から150万円だが、学部によって異なる。このほかに入学金が必要となる。参考)。

 生活費援助のためのローンを学生が利用する場合、この金額にもインフレ率が適用され、最大で年間414ポンド(約8万円)増額されることに。生活支援ローンで利用できる金額上限は個々の学生の生活状況によって変化し、居住地が自宅なのか自宅外なのか、自宅外の場合はロンドンでの居住かそれ以外の都市での居住かでも変わってきます。

 授業料は大学の口座に支払われ、生活ローンの方は学生の口座に入ってきます。

 卒業後、学生は授業料および生活援助ローン制度で借りた分を返済する必要があります。

 学生ローンを管理する公共組織(Student Loans Company)によると、学生が抱える負債額は1人当たり平均で4万8470ポンド(約954万円)に上るそうです。これから就職する学生にとって、心の重荷になりそうな金額です。ただし、すぐの返済は要求されていません。就職後、年間収入が2万5000ポンド(約492万円)を超えてから支払いをする形をとります。支払い開始から40年を過ぎたら、ローンは帳消しになるのですが、それでも、20歳そこそこで大きな負債を抱えるのは楽しくはないでしょう。

値上げの効果

 今回の増額で大学の経営は健全化するのでしょうか?

 多くの大学はこのぐらいでは不十分と見ているようです。12年以降、授業料が微増でほぼ凍結状態となってきたことや、政府が授業料の上限を設定しない海外留学生の数が減少気味であることなどが理由として挙げられています。

 シンクタンクの財政研究所(IFS)の試算によると、今回の値上げで大学側には年間3億9000万ポンド(約786億円)の収入になるそうです。でも、大学&カレッジ雇用主協会の試算では、先月末に発表された政府の秋季財政報告書で事業主が負担する国民保険料を引き上げることになったため、純収入は1800万ポンド(約35億円)に減ってしまうそうです。

より狭き門に?

 懸念になるのは大学の門がより狭くなってしまうことです。生活援助ローンの金額だけでは生活費全額を負担できませんので、裕福ではない家庭の出身者は大学進学を諦めがちになるかもしれません。英医師会は大学授業料増額によって、医療界に進みたいと思う若い人を阻害してしまうと指摘しています。

 26年度以降の授業料もインフレ率と関連付けるのかどうか、政府は明らかにしていません。もし今後インフレ率と同時に上昇していけば、29年度の授業料の限度額は1万680ポンド(約210万円)になるとIFSは予想しています。

 さて、ここまでは英国に住む若者を対象にした話です。日本やほかの国からやってくる留学生はもっと高い授業料になります。

 英国の大学側は留学生は「財政的に魅力的」と見ているようです。

 公的な国際交流機関ブリティッシュ・カウンシルによると、各大学や選択するコースによってその金額は変化するものの、年間1万(約197万円)から3万ポンド(約593万円)が授業料なのです。生活費はロンドンの場合、月に約1300ポンド(約25万円)にも上ります。「約25万円」ですよ、みなさん。物価の状況が異なるとはいえ、驚きではありませんか。

 在英邦人としては、せめて授業料をイングランドの学生並みにしてほしいと強く願っています。

キーワード Tuition fee(授業料)

主として高等教育機関で学ぶ授業料を指す。1997年までは英国全土の大学の授業料は無料で、全額を税金で負担した。進学率の上昇によって税金負担額が増え、大学経営の健全化のため、98年に年間上限1000ポンドに設定された。イングランドでは2006年に3000ポンド、12年に9000ポンドに。地方により上限金額が異なる。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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