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サッカー・佐野海舟選手、今後の刑事処分はどうなる?不同意性交で逮捕も釈放に

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 7月14日に不同意性交罪で逮捕されたサッカー・佐野海舟選手が29日に釈放された。幼馴染の男性2人と共謀し、東京のホテルで女性に性的暴行を加えたとされる容疑だが、この2人も釈放されている。注目されるのは、今後の刑事処分がどうなるか、また、処分の理由だ。

「処分保留」で釈放か

 すなわち、佐野選手は不同意性交罪で起訴されて保釈が許可されたわけではなく、起訴前の段階で釈放されている。検察官の判断に基づいて「処分保留」のまま釈放されたということだろう。というのも、逮捕は7月14日夜だったが、16日に送検され、ここで10日間の勾留が認められており、その後、さらに10日間の延長が認められたとすると、8月4日が勾留の期限になるからだ。

 実務では裁判所が捜査の日程などを踏まえて10日未満の延長しか認めないこともあるが、今回は男性3人に女性1人の不同意性交事件であり、関係者の取調べや供述の吟味、裏付け捜査に相当の時間を要するから、10日丸々の延長が認められたのではないか。

 一方で、弁護側が勾留や期間延長の決定に対して準抗告を申し立てて裁判所に認められたという報道はない。そうすると、何らかの事情の変化によって、もはや勾留の必要性がなくなったと判断されたのだろう。

性犯罪では被害者の意向を尊重

 そこで重要となるのが、捜査段階の当初と比べ、どのような事情の変化があったかだ。この点につき、釈放前の段階で次のように報じるメディアもあった。

・現場には佐野選手ら男性3人がいた。
・佐野選手は「間違いありません」と容疑を認め、共犯とされる男性Aも「間違いありません」と容疑を認める一方で、この男性Aは「自分に対してのみ同意があったと思う」と述べており、もう1人の男性Bは「納得できない」と容疑を否認している。
・ただ、実際に性的行為に及んだのは男性Aだけだった。
・被害者の精神状態が不安定で、公判の維持が難しく、示談で終わるのではないか。

 不同意性交罪は親告罪ではないものの、性犯罪だから、検察は刑事処分を決する際、被害者の意向を尊重している。もしすでに示談がまとまり、告訴も取り下げられているのであれば、不起訴の方向に大きく傾く。

 こうした場合、弁護側の申し入れを踏まえ、検察が捜査の途中段階で被疑者を釈放することも実務ではあり得る展開だ。佐野選手の場合、捜査の結果、関与の度合いが低かったと判明したとも考えられる。

処分の理由が重要に

 不同意性交罪は5年以上の有期懲役であり、起訴されて有罪になれば、初犯でも実刑になり得る重罪だ。特に女性1人に対する複数の男性によるケースだと、その確率が格段に高まる。もし検察が起訴を考えているのであれば、勾留期限の前に自らの判断で釈放することなどあり得ない。したがって、このまま不起訴で終わることだろう。

 そうすると、佐野選手がどのような理由で不起訴になるのかが重要となる。鹿島アントラーズからドイツ・マインツに移籍となった佐野選手が国内外でサッカー選手を続けられるか否か、日本代表への復帰が可能か否かとも関係する話だからだ。

 「シロ」すなわち女性の同意があったなどとして「嫌疑なし」と判断されるのか、「同意の上だった」という弁解を覆せる証拠が乏しいとして「嫌疑不十分」と判断されるのか、それとも「クロ」すなわち不同意性交の事実を前提とした上で示談の成立などを考慮して「起訴猶予」となるのかである。

 警察や検察は佐野選手らの認否を明らかにしていないものの、一部報道では佐野選手が容疑を認めていたと報じられている。佐野選手も釈放に際し、次のようなコメントを発表しているところだ。

「この度は、私の行動によって被害者の方に多大なご迷惑をかけてしまった事を心よりお詫び申し上げます」
「また、ファンやサポーター、関係者の皆様に対しても、ご期待を裏切り、ご迷惑をおかけしましたことを深く反省しております」
「現在、私は自分の行動の結果を真摯に受け止め、何をすべきか、一歩一歩前進し、信頼回復に努めていこうと考えております。この度は誠に申し訳ございませんでした」

 このコメントの内容を踏まえると、不起訴の理由は「起訴猶予」になる可能性が高そうだ。いずれにせよ、すでにマインツは現地時間の8月1日から佐野選手がチームのトレーニングキャンプに参加すると発表しているところである。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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