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幼稚園からの〝引き剥がし〟? それで教員採用試験の受験者を増やすことに意味があるのだろうか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 学校における教員不足と同様に、幼稚園も慢性的な教諭不足問題を抱えているといわれている。その根本的な原因は、教員と同様の多忙にある。その幼稚園教諭を、教員に転職させようという動きがはじまっている。

|幼稚園の教員不足を加速させる策でしかない

 岩手県教育委員会(岩手県教委)は、来年度(2025年度)に実施する2026年度教員採用試験(教採)の小学校教員に「幼稚園教諭経験者特別選考」を新設すると発表している。小学校教諭免許を取得していなくても、幼稚園教諭普通免許状を保有し、幼稚園・特別支援学校幼稚部・幼保連携型認定こども園などで3年以上の勤務経験がある者を対象とする特別枠である。

 この制度の主たる狙いが、教採の受験者不足を補うところにあるのは明らかだ。岩手県の今年度の教採で、小学校教員の最終倍率は1.8倍となっている。納得できるわけではないが「3倍を切ると教員の質の維持は難しい」という説もあるなかで、採用を行っている岩手県教委としては危機を感じる数字である。昨年度の2.2倍からも大きく下げており、その危機感は切実だと想像できる。

 この状態を打破するには、賃金だけでなく過重労働の解消など教員の待遇改善をすすめることが必要だ。しかし予算的にも制度的にも、教育委員会だけで実行できる余地が少ないのも事実である。

 それでも、教員不足解消に取り組まざるをえないのが岩手県教委の立場でもある。そこで、幼稚園教諭経験者特別選考に踏み切ったわけだ。

 成功例もある。青森県教育委員会(青森県教委)が、今年度から幼稚園教諭経験者を対象にした特別枠の選考を実施している。そして12人が受験し、うち9人が採用候補となっている。教採の受験者数も増やし、教員を増やすことに成功したわけだ。この青森県教委の成功例を、岩手県教委も真似ようとしていることになる。

 幼稚園教諭経験者特別選考によって、教採の受験者は増えるかもしれない。しかし、それは幼稚園教諭の転職を促すもので、幼稚園から教諭を〝引き剥がし〟て小学校に移す試みでしかない。ただでさえ深刻な状況である幼稚園の教諭不足を加速することにもつながりかねない。それが許されることなのかどうか、大きな疑問といわざるをえない。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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