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部活動の地域移行に危険信号、その原因は変わらぬ「丸投げ」体質にある

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 公益財団法人「日本スポーツ協会」(JSPO)が各都道府県の加盟団体を対象に行った実態調査で、部活動の地域移行が難しい状況にあることが明らかになった。危険信号がともっているといっていい。

 JSPOの加盟団体は部活動の地域移行で主たる「受け皿」となることを期待されている存在なのだが、今回の調査に回答した35団体のうち25.3%が「資格取得者をスポーツ活動現場に配置していくことが難しい」と答えている。部活動指導を担う人材の派遣を期待されているのだが、難しいというのだ。

 さらに「有資格者を養成する資源(予算、場所、時間、スタッフ等)が足りない」と答えた団体も、19.2%もあったという。部活動の地域移行がすすめば、多くの指導者が必要になる。それを養成するのも難しい、というのだ。

 指導者がいないのでは、部活動の地域移行の受け皿になることはできない。地域移行はピンチとなる。

 スポーツ庁と文化庁は2023年度から2025年度までの3年間を改革推進期間として、部活動の地域移行を可能なかぎり早期に実現するという目標を掲げている。来年度が最終年度になるわけだが、受け皿として期待されているJSPOの加盟団体が協力に否定的なのでは、「地域移行の早期実現への道のりは遠い」というしかない。

 部活動の地域移行は、教員の多忙化を解消する働き方改革の一環として登場してきた経緯がある。とくに中学では、教員が部活動指導に多くの時間を奪われるため、長時間労働に拍車をかけている実態がある。

 それを解消するために、部活動を学校から切り離し、地域に面倒をみてもらおうというわけだ。教員に「タダ」でやらせていた部活動指導を、地域の住人や団体にやってもらおうというのが移行の趣旨だが、かなり難しい状況である。

 それにしても、部活動の指導を引き受けてもらおうとすれば、それ相応の報酬を支払うのが当然である。しかしスポーツ庁や文化庁は、3年間の改革推進期間を設けて早期実現を叫んではいるものの、指導を引き受けてくれるところにじゅうぶんな報酬を支払ったり、手厚いサポート体制を整えようとしているとはおもえない。教員に「丸投げ」して「タダ」でやらせてきた感覚の延長でしかない。

「丸投げ」されて、喜んで「受け皿」を引き受ける個人や団体がいるとはおもえない。それでもスポーツ庁や文化庁は、自分たちが方針をだしたのだから従うはずだとおもっているのだろうか。そうだとすれば、勘違いもはなはだしい。

 部活動の地域移行を本気ですすめたいのなら、教員に「タダ」でやらせてきた「丸投げ」の思考から脱却することが、まず必要にちがいない。そして、相応の報酬を支払う体制を整える必要がある。それをやらないで、変わらない「丸投げ」感覚では、部活動の地域移行はうまくいかないだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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