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修学支援といいながら、「競わせる」ことを優先する制度は問題ではないだろうか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 高等教育(大学、短大、高専、専門学校)における低所得世帯向け修学支援新制度(以下、新制度)における問題点を指摘する記事を、『朝日デジタル』(2024年12月8日付)が掲載している。

|成績順位が落ちれば奨学金ストップ

 新制度を紹介する文科省のホームページは、対象となる学生の要件を「世帯収入や資産の要件を満たしていること」と「進学先で学ぶ意欲がある学生であること」と説明している。後者については、「成績だけで判断せず、レポートなどで学ぶ意欲を確認」とも記されている。

 ところが実際は、「GPA(成績評価の平均)が学部等における下位4分の1に該当」すると「警告」を受け、2回受けると奨学金の支給と授業料免除がストップされる項目が存在している。これについて朝日デジタルの記事は、「困窮世帯の学生を救うはずが、『他人との比較』によって途中ではじき出す仕組みになっているとして、教員らからは見直しを求める声があがる」と伝えている。

 修学のための支援であるから、修学姿勢に問題があれば対象外とされるのは当然かもしれない。しかし、それを「他人との比較」「他人との競争」で判断されるとなれば大きな問題である。

 成績が拮抗する集団では、1点や2点で順位が違ってくる。それこそ1点の違いで「下位4分の1」にはいってしまう可能性もあるわけだ。それをもって「学業成績不振」と判断されて奨学金をストップされてしまうのは、はたして妥当なのだろうか。

 2020年度から始まった新制度では、2023年度末で警告を受けた学生は2万9983万人で、うち2万7732人が「下位4分の1要件」が理由だったという。そのなかには、修学姿勢に問題があったからではなく、「他人との比較・競争」によって「学業成績不振」とされてしまったケースも少なくないはずだ。他人と比較されることで、勉学の機会を奪われたことになる。

「学ぶ意欲」や「成果」は、他人との競争で判断されるべきものではない。他人との競争での順位ばかり気にしていると、学問の本質を見失う懸念さえある。

 にもかかわらず文科省の「競争させれば勉強するし成果もでる」という思考は、全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)で都道府県の順位を発表することで競わせようとするのと同じである。点数ばかりが優先される学校現場において、「勉強ぎらい」や「学校ぎらい」を増やしている側面もある。これは、大きな損失でしかない。それと同じことが、新支援せいどでも起きている可能性するらある。

「順位」はわかりやすい判断基準かもしれないが、大事なものを忘れている可能性も大きい。新制度における評価基準の見直しが必要だ。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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