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教職調整額の引き上げで、新たな「地獄」が始まるのか?

前屋毅フリージャーナリスト
パワハラも横行しかねない(写真:アフロ)

 教員に残業代を支払わない代わりに一律に基本給に上乗せされている「教職調整額」を、現在の基本給の4%から2030年度までに段階的に引き上げて10%にする方針を政府が固めた、と新聞各紙が報じている。待遇改善と受け取られるかもしれないが、これによって教員を待ち受けるのは、強烈な勤務時間短縮のプレッシャーである。

|どちらが勝ったのか

 教職調整額については、2025年度予算の概算要求で文科省は13%への引き上げを盛り込んでいた。これに対して財務省は、残業時間を減らす働き方改革の進展状況に応じて段階的に10%まで引き上げる提案していた。その両者の対立が、30年度までの段階的な引き上げで10%にするというかたちで決着がついたわけだ。

 文科省は13%を押し通すことはできなかったものの、段階的とはいえ4%から10%に引き上げることには成功した。そもそも13%は無理な数字で、財務省と交渉するために高めの数字を提示したとみられてもいた。その意味では、文科省の目論見は成功したようにもおもえる。

 財務省としては、「働き方改革の進展に応じて」という条件は明記できなかったものの、自らが示した10%という数字で決着させた。文科省の提案は、いちおうは退けたことになる。

 どちらかといえば、「文科省が勝った」とみられるかもしれない。ただし「働き方改革の進展に応じて」という財務省が示した条件は消されたようにおもえても、「2027年度に教員の働き方改革や財源確保の条件を確認する」(『読売新聞オンライン』2024年12月21日付)ということになっているらしい。

 この「確認」で働き方改革が進展していないということになれば、その後の教職調整額の引き上げスピードはスローダウンされる可能性は高い。つまり「働き方改革の進展に応じて」という財務省案の条件が、じつは、しっかり残されていることになる。そうなると、「財務省の勝利」かもしれない。

 教職調整額の10%を実現するためには、働き方改革を進展させるしかない。結果をださなければ、10%は獲得できない。10%という「エサ」をぶら下げられて、教員は働き方改革に邁進させられることになる。

 そこには、文科省も抵抗する気はない。それどころか、働き方改革の実績づくりには文科省も積極的な姿勢を示している。

 財務省案が提示された直後に阿部俊子文科相は、自治体ごとの在校時間を公表する制度をつくり、さらには働き方改革の進展状況を校長の人事評価に導入すると発言している。公表することで競わせ、人事評価に組み入れることで校長に尻を叩かせようということでしかない。

|悪いのは教員なのか

 文科省にしても財務省にしても、教員に強制することで働き方改革を進展させようとしているのは同じだ。働き方改革が進展しないのは「教員が悪いるからだ」といっているようなものである。

 もちろん、そんなわけがない。働き方改革が進展しないのは、新しい仕事を増やすだけで仕事を減らそうとしない文科省の責任が大きい。そこを無視しては働き方改革が進展するはずがないにもかかわらず、教員の尻を叩いて進展させようという姿勢そのものが問題である。

 これまでも残業時間を減らすために、仕事があって残っている教員を強制的に帰宅させたり、残業時間が多い教員に対して校長が強圧的に縮減をせまることが横行してきた。そうした圧力が、さらに強まることになる。教員にとっては、新たな「地獄」が始まるのかもしれない。それで働き方改革といえるのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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