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トップリーグのワールドカップ戦士が示す「いい選手」の条件【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
開幕戦ではパナソニックの守備が機能。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

予選プールで国内史上最多の3勝を挙げた日本代表のメンバーや、その面々に敗れながらも大会3位で戦い終えた南アフリカ代表勢など…。国内最高峰たるラグビートップリーグの2015年度シーズンは、国際基準を示す選手が試合の質を上げている。

――エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチは「世界と日本の差はゲームスピード」の差と指摘していますが。

「まぁ、遅いかな、とは思いますけど、少しずつ世界のレベルに近づいている気はします。開幕戦(11月13日、東京・秩父宮ラグビー場。パナソニックがサントリーに38-5で勝利)でも、1人ひとりが判断が多く見られましたし。そういうところから、皆が日本代表になりたいという思いを持っていることも感じます」

こう語って仮説をやんわりと否定するのは、田中史朗。ジャパンの一員で、現在トップリーグ2連覇中のパナソニックでスクラムハーフを務める。楕円球に関する事柄には概ね正直に思いを明かす人ではあるが、昨今のレベルの高まりには刺激を受けているようだ。

特にパナソニックは、田中ら5人の日本代表選手と各国代表のスターらがひとつの生命体と化したような集団だ。機を見て大外からせり上がる組織守備、相手の懐へ刺さるタックル、ひとつの大きな突破に周囲が有機的に機能する攻め…。やはり日本代表の1人である稲垣啓太は、こう説明する。

「僕たちはアンストラクチャー(お互いの陣形を整っていない状況に強い)のチームと言われていますけど、基本的なきまり事があってこそできるアンストラクチャーなので。おおもとの(チームの)基礎がないと、色んな対応はできません」

なかでも出色の働きを示しているのが、センターのJPピーターセン。南アフリカ代表60キャップを持つ身長190センチ、体重102キロのしなやかな走者である。

11月21日、京都は西京極陸上競技場。近鉄との第2節である。

後半3分、元オーストラリア代表のスタンドオフ、べリック・バーンズが自陣10メートル付近右中間で球を受けるや、相手の守備ラインが飛び出した背後へキックを放つ。その弾道を右タッチラインから追ったピーターセンは、飛び上がって捕球。着地と同時に加速し、ウイング北川智規のトライをおぜん立てしたのだった。

ピーターセンは、組織守備のパートとしても機能した。鋭く前に出て、相手のパスコースを防ぐ。ロビー・ディーンズ監督も、「ピーターセンは守備で相手に多くの質問(インパクト、混乱などの意味か)を投げかけてくれた」と褒めたたえた。

大物の活躍もあり、結局この日はパナソニックが47―27で快勝した。しかし、敗れた近鉄も健闘していた。前半のスコアは「13-20」と、パナソニックはリードを許していた。

近鉄の華は、今季から加入したダミアン・デアリエンディ。身長189センチ、体重100キロ。先のワールドカップに出場した南アフリカ代表のセンターで、大きな突破とキックを長所とする。近鉄の横幅の広い攻撃陣形においてアクセントをつけている。

前半18分、敵陣10メートル付近左でのラインアウトから球を受けたスタンドオフ重光泰昌がスペースをえぐると、その脇をデアリエンディが並走。パナソニック守備網の隙間を一直線に駆け抜け、インゴールを通過した。

近鉄にはもう1人、南アフリカ代表経験者が加入していた。ナンバーエイトのピエール・スピース。身長194センチ、体重107キロの公式サイズながら、逆三角形の体躯を誇る。ラン、タックル、ジャッカル(接点で相手の球を奪うプレー)を繰り出せば岩のように動かない。正面衝突した相手は後退させられること必至である。

32分には、パナソニックのロック谷田部洸太郎いわく「コミュニケーションが取れていないかった」という守備の隙間を、そのスピースが突っ切った。強烈な走りで、チケットの価値を高めた。

他会場でも列強国の男は跳ねている。ウィリー・ルルーは、15日、神戸・ユニバー陸上競技場での開幕節に途中出場。合流から約1週間で、ぶつかり合う練習はしてなかったのに、早速、2本のトライセービングタックルと跳ねるステップでのトライを披露した。

ここで注視されるのは、各選手の適応力である。パナソニックのピーターセンも入部3年目ではあるが、今季の合流は開幕直前だった。

南アフリカ代表が戦っていたワールドカップの3位決定戦は、10月31日におこなわれている。つまり南アフリカ代表選手は、世界最高峰の激戦を終えたばかりで異国に足を踏み入れて間もないのである。それなのになぜ、ここまで各チームにフィットしているのか。

サントリーに加入5年目となる南アフリカ代表スクラムハーフ、フーリー・デュプレアは、こう分析する。

「自信を持ってワールドカップを終えられたことが大きいと思います」

9月19日の初戦で日本代表に屈した南アフリカ代表は、大会中、母国からのバッシングにさらされながらゲームプランを簡素化。持ち前の力強さを活かす戦法を徹底し、10月24日、ニュージーランド代表との準決勝では18-20と肉薄している。ゲームリーダーだったデュプレアは「私の選手キャリアのなかでも大きな戦いでした」と振り返ったものだ。このような精神の安定は好プレーを生む。それは歴史が証明している。

日本代表でキャプテンを務めたリーチ マイケルも、ひとつの真理を説く。

「トップリーグの各チームが、日本に合った外国人選手を採ってきているんだと思います」

自身がプレーする東芝へ新加入の現役ニュージーランド代表のフランカー、リアム・メッサムについて、「練習し過ぎ。チームの皆も驚いていますよ」。勤勉さを物語るエピソードを明かし、自らの見解の妥当性を証明していた。トップリーグの一部のクラブは、外国人選手を採用するうえでの「性格調査」を欠かさないという。

精神的な充実感、来日する選手の勤勉さ。それらが、各チームの提示する戦術略とマッチしているのである。

南半球最高峰のスーパーラグビーでもプレーする田中は、さらに各プレーヤーの理解度の高さについても指摘する。ピーターセンの適応力を「不思議なことではない」と断じ、こう続けたのである。

「それは、彼がトッププレーヤーだからじゃないですか。やることは日本でも世界でも変わらない。それを出し切ってもらっているだけ。基本、外国人選手って、なじむのも速いので」

近鉄の前田隆介監督も、自軍の大物の逸話をこう明かす。

「やるべきシステムを短期間で伝えたら、それで『わかった、わかった』と。それは高いレベルの選手ならでは。逆に、そのあたりのことは心配していません。我々のやろうとしているラグビーを楽しいと言ってくれたし、前半は、我々のやるべきことをやってある程度、戦えた」

所属クラブのラグビースタイルをいち早く理解し、その構造のなかに自分の持ち味を溶け込ませられる。かような列強国の名手が充実した心持ちでその気質をフル出力すれば、活躍するのも当然なのである。

全てのチームの全ての選手が理想通りに働くほど、現実は甘くないだろう。ただ、28、29日に各地で開かれる第3節のそこかしこに、光の種は落ちている。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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