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最終段階に入った米国の対北軍事オプション

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米韓合同軍事演習に投入された最強のステルス戦闘機F-22

 北朝鮮はICBM「火星15型」の発射成功で米本土を狙った核戦力完成に向けて「最終段階に入った」と豪語しているが、米国もまた、それに合わせるかのようにいつでも北朝鮮を軍事攻撃できる態勢を整えている。

 米国は北朝鮮攻撃の前段階として以下5つのプロセスを経ることにしている。

 ▲北朝鮮のミサイル攻撃から韓国を防御するTHAADの配備▲原子力空母など海軍戦力の増派▲韓国在留の米軍家族6千人を含む約20万人の米国市民の疎開準備▲ミサイル発射などの北朝鮮の軍事動向を偵察する監視偵察機の増派▲戦略的打撃資産である最先鋭戦闘機や爆撃機の展開である。

 空軍戦力の展開を除く4つはすでに終了あるいは準備が終わっている。

 例えば、「非戦闘員救出作戦(NEO)訓練」と称される在韓米国人の国外避難訓練は今年6月、10月と2度に亘って行われており、6月の訓練には1万7千人以上が参加している。米国民を国外に退避させる国防総省責任者らも9月に韓国を訪問しているほか、担当部署の国土安全省部情報要員ら20数人による事前視察も終えている。

 米空軍の核心偵察機である、高度1万8千メートルから画像撮影や電子情報の収集ができるグローバルホークやレーダーで敵地上部隊を探知、 識別し、味方地上部隊を指揮・管制するジョイント・スターズE―8の朝鮮半島偵察回数も急増している。

 また、先月(11月)は「動く海上軍事基地」として知られる原子力空母「ロナルド・レーガン」「セオドア・ルーズ ベルト」「ニミッツ」の3隻とイージス艦12隻、さらには原子力潜水艦を動員して朝鮮半島周辺で最大規模の海上演習を実施している。

 各空母には戦闘攻撃、電子攻撃、早期警戒を担う飛行隊のほか、海上作戦や海上攻撃を行う飛行隊を含め総勢7千5百人が搭乗しており、爆撃機24機、対潜ヘリ10機、早期警報器4機を含め90機が搭載されている他、地対空迎撃ミサイルSAMなど迎撃ミサイルも多数搭載されている。

 そして、現在、最後のプロセスである最先鋭戦闘機や爆撃機を動員しての米韓連合軍による「ビジラント・エース」という名の爆撃・空中訓練が行われている。

 駐韓米第7空軍が主管するこの訓練には米韓合わせて戦闘機230機が参加している。これに空中作戦支援のための輸送機まで含めると延べ260機となる。昨年の演習(200機)よりも60機も多い。

 訓練に参加している米軍人の数も空軍兵士、海兵隊、海軍兵力合わせて1万2千人以上に上る。今春行われた史上最大規模の米韓合同軍事演習時よりも多い。

 演習に投入される戦闘機には米国が誇るステルス戦闘機F-22(6機)、F-35A(6機)、F-35B(12機)合わせて24機の最先鋭戦闘機が含まれている。ステルス戦闘機24機は1個大隊規模で、1個大隊規模の戦闘機が米韓合同軍事演習に投入されたのは今回が初めてである。

 米国がF-22を6機も朝鮮半島で展開するのはこれまた今回が初めてのことである。また、F-22とF-35などステルス戦闘機を訓練目的で朝鮮半島に同時に出撃させるのも今回が初めてである。

 最高速度マッハ2.5のF-22などステルス戦闘機は北朝鮮の防空網を突き破り、隠密に浸透し、北朝鮮の核・ミサイル基地、韓国ソウルを脅かす長距離砲などを攻撃する。これに北朝鮮が最も恐れている戦略爆撃機B-1Bも投入される。

 最大速度がマッハ2のB-1Bは戦略爆撃機の中では最も早い。核兵器は搭載してないが、在来式兵器で930km離れた場所から北朝鮮の核心施設を半径2~3km内で精密打撃が可能で、地下施設を貫通する空対地巡航ミサイル24基など61トンに達する兵器が搭載されている。

 今回の訓練は米軍の早期警戒管制機(AWACS機)E3と韓国空軍のE737空中統制機などが北朝鮮軍の動向を上空から監視する中、敵のレーダーの位置を特定し、電波を攪乱する電子戦を専門とする電子戦機EA18Gが敵の防空レーダーを優先的に無力化した後、ステルス戦闘機とF15CやF16戦闘機などが北朝鮮の核心地域を攻撃することを想定して行われている。

 戦時に北朝鮮の空軍戦力を無力化させ、北朝鮮の目標物700か所を72時間(3日)以内に潰すのが狙いだ。

(参考資料:「ソウルを重大な脅威に陥れない」米国の軍事オプションとは何か?

 攻撃目標には北朝鮮の陸・海・空軍司令部、空軍基地から海軍基地、寧辺原子力発電所などの核施設、ミサイル製造工場や格納庫、さらには20数か所あるミサイル発射基地やミサイル移動式発射台、前線に配備されている多連装ロケットや長距離砲も含まれている。金正恩委員長の執務室も例外ではない。

 先制攻撃だけでなく、全面戦争に備えての訓練で、ステルス機は演習終了後の12月8日以降も日本の基地に復帰せず、そのまま韓国に駐留することになっている。

 来年初めには再び原子力空母カールビンソンが韓国にやってくるが、仮に金正恩委員長が父親の命日である今月17日を前に予告している「史上最高の超強硬対応措置」を断行するようなことになれば、クリスマス休暇を利用して米国人を韓国から退避させたうえで年明け早々にも北朝鮮攻撃というシナリオが現実化するかもしれない。

(参考資料:トランプ大統領は独断で北朝鮮を核攻撃できるか

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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