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正気ですか?:京都市の「宿泊税、最高1万円」政策

木曽崇国際カジノ研究所・所長

京都市が1泊10万円以上の宿泊料金に対して宿泊税の上限を1万円に引き上げる方針を固めたことが報じられた。以下、読売新聞より転載。

京都市の宿泊税、最高1万円に引き上げへ…1万円は1泊10万円以上に適用

https://news.yahoo.co.jp/articles/29be81b8bca6b6cb43187f12e3e3640fd903e28e?source=sns&dv=sp&mid=other&date=20250108&ctg=dom&bt=tw_up

この政策の主な目的は、観光客の増加に伴う地域住民への負担軽減や観光地の環境整備のための財源確保とされている。しかし、この方針は、果たして現実の問題の本質的な解決に繋がるのか、大きな疑問を抱かざるを得ない。

宿泊税の引き上げに対しては、観光地に宿泊する観光客を狙い撃ちにする形となるため、不公平感が否めない。宿泊施設の経営者からは「厳しい経営環境の中で、なぜ宿泊施設のみが負担を強いられるのか」との声が上がっている。この懸念は正当である。実際、宿泊税の影響は市域に泊まる旅行者に限定され、京都市域に宿泊しない観光客には影響が及ばない。

京都市が直面している「オーバーツーリズム」の根本的な課題は明白である。それは「日帰り観光客」の存在であり、特に大阪に宿泊し、京都を日帰りで訪れる観光客がその主因である。彼らの観光消費は少額の交通費とランチ代程度にとどまり、地域経済にほとんど資していない。この様な観光客が、わずかな参拝料のみを支払って神社仏閣を巡り歩き、市域の混雑を悪化させているにも関わらず儲からないという「貧乏暇なし」の元凶を作っている。

それに対し、宿泊税の課税対象となる京都市内に宿泊している観光客は、地域経済により大きく貢献する「好ましい観光客」である。にも拘らず、この好ましいはずの観光客に宿泊税として懲罰的な課税を行うことは、アベコベの政策であり、明らかな誤り。宿泊税の賦課は、日帰り観光客が引き起こす問題の解決には直結せず、むしろ観光地の維持や地域経済の活性化にとって逆効果となり得る。本質的な問題解決を目指すためには、政策の再考が必要不可欠である。

京都市が真に取り組むべきは、膨れ上がる観光客の数を抑えながら、域内産業に「正しく」観光消費が落ちる状態を実現する事。そのためには、観光特別価格の導入により宿泊施設のみならず、飲食店、小売店も含むすべての観光商品の価格を引き上げ、「売上を維持しながら客数を減らす」という至極当たり前の「価格による需要調整」をおこなうことである。これにより、観光地の混雑を緩和しつつ、地域経済への寄与を最大化することが可能となる。

一方で、市域で生活をする市民には「地元割引」を適用し、その生活を守る。このような観光地における二重価格は、ハワイの「カマアイナ割引」などにも見られる観光施策であり、その為の詳細な処方箋は以前、以下のコラムに纏めているのでご参照頂きたい。

【参照】オーバーツーリズム解消への現実解:地元割・二重価格と地域主導の戦略的分散

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/04f372f40d366f98f431c235c209fdb58710ebe4

宿泊税引き上げは、京都市の財政改善に一役買う可能性があるが、観光地が抱えるオーバーツーリズムの本質的な課題を解決する手段にはならない。むしろ、観光の質を向上させ、観光客と地域社会の共存を目指す政策を優先するべきである。観光地の維持と地域経済の発展を実現するためには、より包括的で効果的な施策が求められる。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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