産経新聞が準備を進める新しい電子媒体「アンリミテッド(仮)」とは何か
産経新聞社が「全く新しい電子媒体」の準備を進めているという。早ければ2019年10月に実施と言われるが、名前がいい。社内では「産経新聞アンリミテッド(仮)」と呼ばれているというのだ。発売中の月刊『創』(つくる)3月号の新聞特集の記事から、執行役員・統合編集戦略担当の井口文彦編集局長の話を紹介しよう。
ちなみに『創』の新聞特集では、新聞各社のデジタル化への取り組みをかなり詳しく報じている。まさに「新聞」の概念が変わるのではと思われるくらい、この何年か、新聞現場は変わってきたが、それが今後、さらに加速しそうな勢いだ。特に、この2月から読売新聞が「読売新聞オンライン」をスタートさせたことが話題になっているが、それについては別稿に書いたのでご覧いただきたい。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190208-00114044/
メディア大変革の中で読売新聞は「紙とデジタル」で大きく舵を切ったのか
さて、産経新聞社の新媒体についての井口編集局長の説明だ。
《早ければ2019年の10月に実施したいと思っているんですが、今の産経ニュースだとか産経電子版とかとは全く違う新しい電子媒体を誕生させたいと思っています。「産経新聞アンリミテッド(仮)」と社内では呼んでいますが、あらゆるニュースを最新のテクノロジーで見せる。
あるいは産経のニュース以外のサービス、フェルメール展のような美術展や産経新聞出版の出版物、月刊『正論』、リアルイベントの正論懇話会、こういうものを産経のIDを持っている方や、産経新聞の読者の方にオンラインで、ワンストップで提供できる新しい電子媒体を考えています》
《日本のメディア環境というのは、おそらく2020年の東京五輪で劇的に変化するだろうと予測しています。ニュースの見せ方がこれまでとはずいぶん変わることになるんじゃないかと。今以上に映像とインフォグラフィックと、テキストが有機的に絡まって、特にスマホで情報が流れるんじゃないかと考えています。それを想定して、2019年10月につくって2020年の7月までの間にわが社としても最新の最高の環境で臨みたいと思っています》
新媒体「アンリミテッド」とは具体的にどういうものなのか。井口編集局長がさらに続ける。
《ニュースを最新鋭のテクノロジーで見せること。産経新聞が持っているあらゆるサービス資源をここで購入できるように、ニュースと紐づけておくこと。今、紙の読者、産経ニュースを月々500円払い読んでいる読者、一方でレプリカの電子版を月々1800円支払い読んでいる読者、さらには『サンスポ』を読んでいる読者、『フジサンケイビジネスアイ』を読んでいる読者。これまで断片的に紐づいていた読者・顧客の方々を『アンリミテッド』では統合して、どこかのサービスに属していれば他のサービスもスムーズに購入ができる、割引を受けられる、ポイントが貯まる、こういったものにしたいと思っています。
そのための統合のツールが『産経iD』となります。アンリミテッドを実現するためのツールが産経iDであり、それを進めています。
もう一つ、編集の立場からしますと新媒体を新設するために必要なのは、編集フローの改革です。統合編集という言葉で今作業していますが、わが社がいう統合編集というのはこういうことです。今まで産経新聞では、紙の新聞をつくりながら『産経ニュース』をつくっていました。一つの編集局で二つの編集フローを持っていたんです。それぞれ編集長がいて、紙の新聞をつくったら速やかに『産経ニュース』に使われる。紙の編集作業と同時に『産経ニュース』の作業も行われるというフローでやっていたんです。
今行っている統合編集というのは、今まで2つのフローだったものを一つの編集フローにしたということです。一人の編集長が朝から夜までニュースに接し、そのニュースをまず電子媒体に上げるべく各部のデスクや記者に指示をする。電子媒体で使われた完全原稿がその後に紙の新聞に掲載される。一つの原稿がまず電子媒体にいき、その後紙の新聞に行く。今まで二つの工程だったのを一つに変更しました。紙の編集とウェブの編集が別々ですと、紙の原稿が出てこなければウェブでも使えない、ということになっていました》
もともと産経新聞社は電子新聞などデジタルへの取り組みは早くから行っていた。その後、日本経済新聞社、朝日新聞社などのデジタル化への動きが注目されてきたが、産経新聞社も巻き返しに打って出ようということなのだろう。
毎日新聞社もこの春、大規模な組織改編を行って、「紙とデジタル」の統合編集体制を一気に進めるというし、2019年は各社の動きに目が離せない状況になりそうだ。
※「創」3月号新聞特集の詳しい内容は下記をご覧いただきたい。