Yahoo!ニュース

「早く帰ってきて」の声に応えた?八重洲ブックセンターグランスタ八重洲店開店の瞬間に拍手が

篠田博之月刊『創』編集長
八重洲ブックセンターグランスタ八重洲店開店直後(筆者撮影)

 2024年6月14日の午前10時、店の前には人だかりができていた。東京駅八重洲地下街の一角にその日、八重洲ブックセンターグランスタ八重洲店がオープンしたのだった。開店時間になって佐藤店長が挨拶。それが終わると大きな拍手が湧きおこった。

 ある意味では注目の開店だった。実は2023年3月31日、八重洲ブックセンター本店が営業終了した。東京駅前の再開発に伴うもので、2028年に竣工する巨大複合ビルに開業することも既に発表していたから5年間の「お休み」だった。

横の入り口
横の入り口

 しかし、各地の街の書店が次々と消えていっている状況に胸を痛めている人が多かったから、その営業終了にも不安を感じた人もいたに違いない。営業終了のその日、メッセージボードには同店を利用してきた人たちが熱い思いをたくさん書き込んでいた。また1階中央の大きな柱には多くの作家がメッセージを書き込んでいたが、例えば川上未映子さんは「すぐ帰ってきてね!!」だ。「必ず帰ってきて!」と書き込んでいる作家もいた。44年間続いた同本店は、東京駅前のシンボルでもあったし、いつも利用していた近隣の人たちにとってはひとつの「別れ」だった。

2023年3月の八重洲ブックセンター本店営業終了の日の柱
2023年3月の八重洲ブックセンター本店営業終了の日の柱

 ところが結局、2028年を待たずに今回、同じ東京駅前にグランスタ八重洲店がオープンしたのだった。最初から予定されていたわけでなく、JRとの話し合いの中で急遽、開店が決まったらしい。行く行く、本店がオープンした時に2つの店がどういう関係になるかなど、未知数の部分も多いが、5年間のお休みの間にお客が離れてしまう心配もあった八重洲ブックセンターにとっては、願ってもない開店だったと思う。開店時間に店長に拍手を送った人たちも、「ありがとう」という気持ちを込めたのだと思う。

作家たちのメッセージ(筆者撮影。以下同)
作家たちのメッセージ(筆者撮影。以下同)

 開店直後の店内に入ると、開店に対しての作家たちのメッセージが掲げられたり、本店最終日に掲げられていたメッセージも紹介されていた。入ってすぐの場所には書店に関するコーナーが設けられ、私が編集した『街の書店が消えてゆく』を始め、書店の現状についての本などがたくさん置かれていた。

本屋さんについての本がコーナーに
本屋さんについての本がコーナーに

 街の書店がどんどん姿を消している現状については、この間、新聞やテレビでも特集が組まれ、関心が高まっている。経済産業省の齋藤健大臣やプロジェクトチームが企画した書店との車座会合も第2回が6月12日に開催されていた。また6月27日には東京都狛江市に一度は閉店した啓文堂書店が、市民らの惜しむ声に応えて再び開店することが予定されている。開店のイベントには経産省の副大臣や狛江市長も参加予定だ。

6月12日の第2回車座会合
6月12日の第2回車座会合

 全国に広がる「無書店」市町村に対して、地元市民が書店を求める声をあげ、自治体などが書店誘致に動くという事例も全国に見られるようになりつつある。

 最近注目されたのは富山県の立山町のケースで、何と立山町役場の駐車場スペースに新たな書店が4月26日にオープンした。自治体が後押しする書店となると、図書館や学校との連携が可能になるなど、この立山町の事例はいろいろな点で注目されている。大手コンビニチェーン「ローソン」の「LAWSONマチの本屋さん」という事業とのコラボなのだが、これについては下記にレポートを掲げたので参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c16ce38ab8bf2f9025a1f86f96438268fa77d32a

一時は「無書店」となった富山県立山町に再び書店がオープンした注目すべき経緯

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

篠田博之の最近の記事