Yahoo!ニュース

大坂なおみの“ファンサ”がすご過ぎる! こんな優しいプロテニスプレーヤーは今まで見たことがなかった!

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
USオープンでインスタ用の動画を撮影する大坂なおみ(写真/神 仁司)

 2019年1月26日メルボルン時間17時過ぎ、大坂なおみは、オーストラリアンオープン女子シングルス決勝の直前練習を終えた。

 今思えば、これがアレクサンドラ・バインコーチとの最後の練習だったわけだが、今回はバインコーチとの契約終了の話をしたいわけではない。その練習後にとった大坂のある行動が、本当に素晴らしかったことを改めて記しておきたいのだ。

 大坂は、練習を終えた後、すぐに控室に戻らず、自分のベンチと反対側のフェンスにわざわざ歩み寄って、練習を見守っていたファンにサインをし始めたのだ。

 あの時は、約2時間半後に、オーストラリアンオープン女子シングルス決勝が控えていて、大坂が勝てば、日本人として初優勝、そして、日本人初の世界ランキング1位に到達できるというまさに大一番を直前にしての大坂の驚くべき行動だった。

 正直私は、こんな“ファンサ(ファンサービス)”ができるプロテニスプレーヤーが、日本にいるのだと正直感動すら覚えたし、誰にでもできることではないとも感じた。

 誤解しないでほしいが、他の日本選手たちも基本的にファンたちには丁寧に対応している。ただ、試合直前の練習を終えた直後の対応となると話は別だ。錦織圭だったら、懇願するファンへ数名サインするぐらいだし、伊達公子だったら絶対あり得なかった。

 大坂の場合は、その対応レベルがけた違いに優れていた。約10~15分かけてコートサイドに待っていたファン全員にサインをし、セルフィーにも応じたのだ。ことさらメルボルンへ応援に駆けつけてくれた日本の子どもたちには、ひざを曲げて中腰になりながら丁寧にサインをしてあげていた。

 決勝の結果は周知のとおり、大坂が、オーストラリアンオープンで日本人として初優勝。しかも2018年USオープンに続いて、グランドスラム2連勝という離れ業をやってのけた。さらに、日本人選手で初めてWTAランキング1位へ21歳の若さで登り詰め、世界の頂点を極めたのだった。

 さらに、9月にニューヨークで開催されたUSオープンでも、大坂の“ファンサ”は素晴らしかった。

 USオープンでは、開幕2日前に、“アーサー・アッシュ キッズデー”という子供たちを無料で会場内へ招き入れる素晴らしい恒例イベントがある。

 その時にも、当時世界1位であった大坂が公開練習を終えた後、たくさんの子供たちが大坂のサインを求めてコートサイドへわれ先にとばかりに陣取った。

 ニューヨークでは、バスケットボールぐらいのサイズであるジャンボテニスボールにサインをしてもらおうとすることが多く、大坂の周りには、まるでタンポポが咲いたように、ジャンボテニスボールの黄色で埋め尽くされた。

大坂の周りに、ジャンボテニスボールを手にしたファンが殺到し、まるでタンポポが咲いたようになった(写真/神 仁司)
大坂の周りに、ジャンボテニスボールを手にしたファンが殺到し、まるでタンポポが咲いたようになった(写真/神 仁司)

 さらに大坂は、自身のインスタグラム用の動画を撮影し、ファンに手を振るようにうながしたりして、ファンと共有したキッズデーの楽しい時間を大切に記憶に留めようとした。

 実は、大坂も3歳から8歳までニューヨークに住んでいた時に、“キッズデー”を訪れたことがあった。

「ここのキッズデーに来たことを昨日のように覚えているわ。お目当ての試合を見る時は最前列を確保しようとしていたものです」 

 USオープン2回戦で、大坂が勝利した後に起きた何とも微笑ましい出来事も忘れられない。大坂がコードサイドでサインをしていると、白人の小さな女の子が大坂を目の前にして感激のあまり泣き出してしまったのだ。

 よくアイドルの握手会やサイン会などで、感激して本人の前で泣いてしまうファンはよく見受けられる光景だが、まさかプロテニス選手の場合でも、それが起こるとは正直驚かされた。

 大坂は、泣いている女の子を見つけるとすぐに両手を広げ、女の子は大坂の肩に顔をうずめ、大坂は優しくハグをしてあげた。後日自身のツイッターで、「今度は泣かないでね」と、優しいお姉さんになってあげたようなツイートをした。きっとあの女の子は、大坂を応援するためにUSオープンを再び訪れるに違いない。

「私はそんな大それた人間ではありません」と謙遜しながら大坂は、感謝とハッピーのメッセージを込めて、時間がある限り多くの子供たちにサインをしたり、一緒にセルフィーを撮ってあげたりしている。

キッズデーの時に、試合では決して見られないような大坂の笑顔がはじけた(写真/神 仁司)
キッズデーの時に、試合では決して見られないような大坂の笑顔がはじけた(写真/神 仁司)

 プロゴルフでは、7月に全英女子オープンゴルフ2019で、渋野日向子がメジャー初優勝した時も、“ファンサ”が素晴らしいと話題になったが、“ファンサ”のレベルでは、それと同等のことを大坂も実践していると個人的には捉えている。

 世界ランキングが上昇し、一般のサラリーマンでは到底稼げないような高額な賞金を手にし、自分への注目が集まれば、プロ選手として当然気分は悪くないだろう。

 だが、そこから各プロ選手の資質や人間性が問われることになる。

 ある選手は、天狗になってしまい、勘違いをして人を見下すようになるかもしれない。最近、日本国内で起こった女子プロゴルフ選手の暴言問題は、まさに天狗になってしまった典型ではないだろうか。

 テニス4大メジャーであるグランドスラムで男子史上最多となる20勝を誇り、“生ける伝説”といわれるロジャー・フェデラー(スイス)は、いつも感謝することを忘れないように心がけている。だからこそ、世界中のファンから愛されるのだろう。

 日本人が未踏であったグランドスラム優勝と世界1位を手にした大坂は、今のところ幸いにして本当に素晴らしい振る舞いをしている。ただ、大坂はまだ22歳と若く、しかも皆と同じひとりの人間であることに変わりはなく、いつ道をそれるかわからない。もしもの時には、大坂が、天狗にならないように、大坂の両親をはじめ彼女のチームスタッフが、しっかりと彼女を導いていってほしい。

 2019年シーズンを振り返る時、私は、大坂のおかげでオーストラリアンオープン優勝と日本人初の世界ナンバーワン誕生の瞬間を取材できた。長年テニスを追いかけてきたが、ついに日本人が世界の頂点に到達する瞬間に立ち会うことができた。自分が現役のうちに一度は取材できたらいいなと心の中で思い描いていたシーンをついに取材できた。

 だから本当に大坂には感謝しかない。

 そして、彼女の偉業に思いを馳せる時、必ず思い出されるのが、決勝直前にもかかわらず、真夏のメルボルンの西日を背に受けながら、丁寧にサインをしていた心優しい大坂の姿なのだ。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

神仁司の最近の記事