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タイトルバックの人形のうしろに羽鳥がいると解釈してもいいと制作統括は答えた「ブギウギ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

羽鳥のスズ子への強烈な思いをドラマでも描きたかった

スズ子(趣里)と羽鳥(草彅剛)の関係が最後の最後でしっかり描かれた、連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)最終週。

第122回では、羽鳥の音楽に対するこだわりが吐露され、その後、第125回ではスズ子は羽鳥にとっての最高の人形でありたかったと思っていたことが明かされた。だからこその引退の決意だったのだ。会見では言わなかった本音を語り合う、ふたりの誰にも入ることのできない関係は実に濃密だった。

スズ子と羽鳥の関係について、制作統括の福岡利武チーフプロデューサーに聞いた。

「スズ子のモデルである笠置シヅ子さんの自伝などを読むと、笠置さんが42歳で歌を辞めるとおっしゃったときも、羽鳥のモデルである服部良一さんは非常に困惑したというようなことが書いてあります。とにかく辞めないでほしいという思いが強かったようです。その強烈な思いをドラマでもやっぱり描きたかった。結果、お互い引くに引けないまま引退会見までしてしまうのですけれども(124回)。この引退会見は、史実にはなく、ドラマオリジナルです。第125回では、ふたりは冷静になって本当の思いをぶつけ合います。そこでスズ子の言い出した“人形(スズ子)と人形遣い(羽鳥)”という例えも笠置さんがおっしゃっていて、それはとても深い言葉だなと思いました。『私は死ぬまで歌う』という覚悟でやっている茨田りつ子(菊地凛子)に対して、スズ子は自分を客観視して、最高の人形でいられないなら辞めると考えていることがすごく深くて面白いなと思い、台本に取り入れました」

タイトルバックとの関係は?

“人形と人形遣い”と聞いて、タイトルバックのキャラクターが思い浮かんだ。ラストの展開を意識したものだったのかと聞くとーー。

「そう感じて頂いても構いません。例えば、あの人形の背後に、羽鳥善一がいるというように想像していただいてもいいと思います。また、そうでなくてもいい。どちらでもいいんです。第26週を見たスタッフに、タイトルバックはスズ子が羽鳥の人形だったという意味だったんですか?と聞かれて、僕は驚いたんです。僕がタイトルバックを牧野惇さんに頼んだとき“人形と人形遣い”というコンセプトでとは言っていないので。偶然だと思いますが “人形と人形遣い”というのはだいぶ前から意識していたところではあるので、潜在意識下で、パペット・アニメーションを手掛けている牧野さんに頼むと自ずとそういうふうにもなるだろうなと思っていたのかもしれません」

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

第125回で、スズ子がものすごく思い詰め、最高のパフォーマンスができないから引退すると言う。が、それまでそれほど身体的な限界にぶち当たっているような、具体的な場面は描かれなかった。それはなぜだったのか。

あえて衰えた部分は描かなかった

「第25週からは、世代交代を意識した物語になっていますし、最後の『ヘイヘイブギー』ではスズ子はそれまでより激しく踊り回っていないんです。我々としてはそこに自然な伏線を張っていたつもりです。スズ子のセリフで、年をとったことを少し気にはしているのですが、彼女の思いを、見ている人がわかりすぎてもどうかなと思いました。羽鳥にも共感してほしいと言いますか、まだ辞めなくていいんじゃないか、まだまだいけるでしょうと、もやもやした気持ちになっていただきたくて、あえて衰えた部分は描かなかったんです」

羽鳥がスズ子に思いを吐露する第122回、羽鳥はスズ子の思いに戸惑う第125回と、羽鳥役の草彅の芝居が迫真だった。

「第25〜26週は、草彅さんがとても気合を入れていました。『役に向き合って精一杯お芝居します』と何度もおっしゃって。『すべてを懸けてやりますね』という言葉は衝撃的なほどでした。やはり、視聴者の皆さんに、羽鳥善一の気持ちもわかると、共感していただければと思ったのだと思います。台本をじっくり読み込んでいただいたうえでの、全身全霊のほんとうにいいお芝居でした。ドラマのクライマックス、スズ子と羽鳥の関係の集大成となるシーンです。ここまで長い時間撮影してきたという俳優としての思いもあるし、羽鳥としては、スズ子にもう歌を作ることはなくなるという思いがあって。しっかりやらなければと強く思われたのでしょう」

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

ちなみに草彅のクランクアップは最終回、スズ子のラストステージだった。

「本当に最後にふさわしい場面で、とてもノッていました。趣里さんと出会えて、一緒にお芝居ができてよかったということは何度もおっしゃっていました」

ラストステージ、見届けたい。

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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