NHK「ガッテン!」豆腐特集をご覧になった方へ 中学レベル「賞味期限と消費期限」の正しい理解を
NHK「ガッテン!」は、視聴者が知らなかった情報をわかりやすく伝える番組だ。筆者も参考にしており、拙著『賞味期限のウソ』にも、番組で得た卵や缶詰の賞味期限に関する知識を引用させていただいている。掃除機やアイロンなどの家電の使い方など、一般消費者が誤解していることを正しく伝える内容も意義があったと思う。
「消費期限」はおおむね5日以内の食品に表示される
ただ、2021年4月14日に放送された「知らずに買ってる!?激うま“第3の豆腐”とは」 で伝えていた内容は、残念だった。
おおむね5日以内の日持ちの食品に表示される「消費期限」という表現を、2週間から半年間もつ充填豆腐に使っていたのだ。
いくらなんでも、半年も持つものであれば、品質が急激に劣化するものに表示される「消費期限」は使わない。正しくは「賞味期限」である。
「別にたいした問題じゃない」と言われるかもしれないが、日本では、おいしさのめやすに過ぎない「賞味期限」のことを、5日以内の日持ちの「消費期限」と混同している人が多い。あるテレビ番組では、「賞味期限を過ぎたものが安くなっていたら買うか」を50人に聞いたところ、過半数の26人が「買わない」と答え、その中には「お腹をこわすから」と答えた人もいた。まだ充分に食べられるものを捨ててしまう人がとても多く、それが年間612万トンの食品ロスの一因となっている。逆に、消費期限表示の食品は、急速に品質が劣化するから気をつけなければならない。だからこそ、その違いをいろんな人が啓発している。間違った情報を公共放送で流され、それを広く多くの人が信じてしまうと、長年、啓発してきたものが一瞬にして壊されてしまう。
日本だけではなく、米国でも賞味期限と消費期限の混同による食品ロスは61ページにわたる報告書になって報告されているし、英国では2021年1月から、「目で見て、鼻でにおいを嗅いで、味わって、捨てないキャンペーン」という、賞味期限の日付だけを鵜呑みにして捨てないキャンペーンも始まっている。先進国では賞味期限と消費期限の違いを消費者に正しく理解させることを国が懸命に行なっているのだ。
賞味期限と消費期限はどう違う?
消費期限は、下のグラフでいうと、赤の線で示されたもの。急速に品質が劣化するので、おおむね5日以内の日持ちの、早めに食べ切ったほうがいいものに表示される。
一方、賞味期限は劣化が比較的遅く、表示された日付を過ぎても、保管状況さえよければ食べられる場合も多い。「おいしさのめやす」である。
賞味期限が3ヶ月以上あれば日付表示は省略できる
消費者庁は、賞味期限が3ヶ月以上あるものは、日付を省略できるとしている。つまり、半年間賞味期限がある充填豆腐であれば、「2021年10月」などと印字することができ、日付は省略できるのだ。
消費期限は「used by」賞味期限は「best before」(おいしさのめやす)
番組でも紹介されていたが、今ではすっかり少なくなった個人の豆腐店で売っている豆腐は、基本的には「消費期限」表示となる食品である。日持ちしないので、早めに食べ切ったほうがいい。英語では「この日までに使い切るように」という意味の「used by(ユーズド・バイ)・・・(日付)」や「best it used by・・・」などが使われる。
一方、賞味期限は英語では「best before」と表示されることが多い。日本でも、消費者庁が「賞味期限」の愛称・通称コンテストを実施し、「おいしいめやす」が大臣賞に選ばれた。
近年では製造方法などの改良により、豆腐は「賞味期限」表示ができるほど長くなった。群馬県の大手豆腐メーカー、相模屋食料は、15日間賞味期限がある豆腐を開発した。森永乳業が1980年代から海外向けに製造している豆腐は賞味期限が長く、「ロングライフ豆腐」と呼ばれている。
牛乳は「消費期限」表示のものと「賞味期限」のものがある
一つの食品が必ずしも「消費期限」や「賞味期限」のどちらかだけとは限らない。たとえば牛乳などは、低温殺菌牛乳は「消費期限」表示がされており、高温殺菌牛乳は「賞味期限」表示だ。
下の写真だと、左側の低温殺菌牛乳は「消費期限」表示。右側は生クリームで「賞味期限」表示。日本で市販されている多くのパック入り牛乳は賞味期限表示のものが多い。
賞味期限と消費期限は中学校で履修する内容
賞味期限と消費期限は、中学校の家庭科で履修する内容だ。かつて、男子は技術、女子は家庭科と、分かれて履修していた時期があったが、平成になってからは男女必修となっている。農林水産省や自治体でも、その違いを子どもたちにわかりやすく伝えるウェブサイトを作っている。
今回の放送内容は2021年4月21日に再放送されるそうだが、賞味期限と消費期限の違いは中学校で習うレベルの基礎的な内容なので、受信料を徴収するNHKなら下調べして欲しかった。ドラムの上に豆腐を乗せて叩いてふるわせるなど、面白おかしい要素を入れて伝えたい気持ちは伝わってきたが、それ以前に、誤った内容を伝えない・正しい知識を伝えることが優先ではないか。NHK「ガッテン!」の制作陣にとって、調べるのが難しいなら、食の専門家に監修してもらったらどうだろう。
筆者も4月23日には2021年に入って3度目のNHKの番組に登場する(1月と2月に「おはよう日本」出演)。「ガッテン!」には次回に期待したい。
参考情報
NHK「ガッテン!」2021年4月14日放送 知らずに買ってる!?激うま“第3の豆腐”とは (2021年4月21日再放送予定)
消費期限(しょうひきげん)と賞味期限(しょうみきげん)(農林水産省)
森永乳業の歴史が見えるさまざまなエピソード(森永乳業公式サイト)
「おいしいめやす」農林水産省に続き、消費者庁も賞味期限過ぎた備蓄食を寄付(井出留美、2021.4.8)
米国で発表「賞味期限・消費期限の混同による食品ロス」SDGs世界レポ(59)(井出留美、2021.2.22)
「賞味期限」環境先進国で啓発や見直しが進んでいる理由とは?SDGs世界レポ(57)(井出留美、2021.2.10)
賞味期限の愛称「おいしいめやす」に 環境先進国スウェーデンのいう「安売りより10倍価値ある」こととは(井出留美、2020.11.2)