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石岡一、エース・岩本で初戦突破を狙う センバツの話題その2

楊順行スポーツライター
関係ないが、石岡一は県内でもっとも駅から近い高校。確かに、近かった(撮影・筆者)

 なんでも、学校創立110年目だという。1910年に創立した新治郡立農学校がルーツだから、石岡一は節目の年に初めて甲子園の土を踏むことになる。付け加えれば、茨城県から21世紀枠で選出されるのも初めてだ。

 昨年7月下旬にスタートした現チーム。川井政平監督によると、

「萎縮せずに思い切りプレーする。技術水準は別として、こちらの言葉にすぐに反応するし、ミスしてもプラス思考ができるなど、おもしろいチームだと感じました」

 その川井監督自身、高校時代に甲子園経験がある。竜ケ崎一の2年生だった91年夏だ。星稜(石川)と対戦し、あの松井秀喜のホームランを目の当たりにして敗れた。「ライト中段、ピンポン玉とはあのことでした」。国学院大を経て波崎柳川に赴任すると、3年目の夏に早くも県ベスト8に進むなど、指導歴は20年を超えた。その川井監督が、「見てきたなかで、一番のピッチャー」というのがエース・岩本大地だ。

お手本は吉田輝星

 旧チームではヒジに不安があり、それほど登板はなかった岩本だが、8月末に本格復帰。ただその直後、9月の練習試合で「一度、突き放したんです」と川井監督はいう。こういうことだ。日本ウェルネスとの練習試合に先発した岩本は、ストレート頼みの投球で大炎上。打たれれば打たれるほどムキになってまっすぐを多投し、なんと3回を11失点だ。川井監督によると、

「入学以来、彼の自主性に任せてあまりやかましくは指導してこなかったんです。ですが最上級生になっても、まっすぐ頼みで打ち込まれる。中学時代は、強豪私学からも誘われるほどの実力でしたから、"ウチじゃなく、強豪に進んで厳しく鍛えられたほうがよかったかもな"と。パワハラまがいですね(笑)」

 最速147キロ。素質の高さは十分わかるだけに、歯がゆさから突き放してしまったのだろう。

 だが、これで岩本の目が覚めた。

「ストレートだけに頼らず、決め球に使える変化球の精度を意識」すると、別人のようにモデルチェンジした。秋の茨城大会では、甲子園帰りの土浦日大から12三振を奪い、2失点完投。藤代との準決勝はタイブレークでサヨナラ負けしたが、12回3分の1を16三振だ。21世紀枠での選出は、この善戦もひとつのポイントになったといっていい。

 お手本は昨夏の甲子園準優勝と、金足農旋風の立役者だった吉田輝星(現日本ハム)。「きれいなフォームであれだけのボールが投げられる。体重移動、それと左手のグラブの使い方などが参考になります」。自身も同じ農業系の造園科に属している親近感もあり、快進撃は大いに励みになった。

 中学時代の2016年には、茨城オール県南のメンバーとして、全日本少年軟式大会で4強入り。「小学校のころから試合を見ていたので、ここでやりたかった。地元から甲子園に出たい」と、石岡一に進学した。同じオール県南のメンバーだった酒井淳志主将は、「岩本が石岡一に進むと聞き、甲子園を目ざすなら自分も、と思った」。その夢が、叶う。

 中学時代の全日本少年軟式大会。準決勝では優勝する星稜中の左腕・寺沢孝多と投げ合って敗れた。その寺沢、高校も星稜に進み、昨秋の石川県大会ではエース・奥川恭伸をしのぐ18回無失点の好投を見せている。「もう一度対戦してみたい」とは岩本だが、星稜と対戦するとすればこれも準決勝になる。石岡一の初戦は3日目第2試合、相手は強力打線の盛岡大付(岩手)だ。もし勝てば、21世紀枠にとって3年ぶりの白星となる。そういえば岩本、春からは吉田輝星ばりにマウスピースを着用の予定と聞くから、そこも注目だ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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