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弱肉強食 残酷な自然界。カラスに頭を食べられた子猫が病院に運び込まれて…

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

カラスは、田畑などに子猫がいるとその嗅いからわかります。そして、襲いかかることもあるのです。

愛猫家からすれば、なんともかわいそうで怖い話ですね。

3月からは子猫が生まれるシーズンです。自然界は、弱肉強食なのでカラスも生きるためにやっているのですが…。野良猫を作ったのは人間ですし、こういう悲劇が起きないように、実話を元に解説をします。

カラスは子猫を襲う

一般の方には、ちょっと引かれてしまう話かもしれません。

ただ、本当に、診察室で起こっています。

「何か、目がおかしいです。閉じているし」と言って不安気に子猫が運び込まれました。

筆者が、目を覗き込むと眼球のひとつが、摘出されていました「目、ひとつないです」と私がさらりと答えると飼い主は、びっくりされました。跡形もなくひとつ眼球だけなくなっていました。こういう場合は、カラスに目を食べられていることが多いです。

カラスは、猫の以下の部分を食べます。

・眼球

・舌

・脳

などです。

臨床現場で多い例は、眼球だけを食べられて、人間に保護されて病院にやってくるケースです。治療方法としては、化膿しないように処置しますが、眼球そのものを入れることができないので、その後は一生涯、目ヤニの多い状態になります。ただ、室内飼いにしてもらうと、みなさんが思われているより元気で、長生きします。

脳を食べられた天使ちゃん 実話

今回、紹介するのは、脳を食べられた天使ちゃんです。

生後2カ月ぐらいの409gの子猫で、頭に包帯をグルグル巻きにした状態で、私たちの動物病院にやってきました。5月の末のできごとでした。

天使ちゃんは、田んぼに1頭でいて、カラスに狙われたそうです。天使ちゃんの発見者は、やけに田んぼにカラスが多いので、おかしいなと思って探したら、衰弱した子猫がいました。ぐったりしていて、頭の骨がおかしかったそうです。

発見者が、近くの動物病院に運んで処置をしてもらったところ、一命はとりとめたのですが、毎日、しっかり天使ちゃんを世話できませんでした。ということで、自宅にいることが多い松本さん(仮名)のところに預けられ、そこで私たちの病院にやってきました。

私は長いこと臨床をしていますが、脳を食べられて、命を取り止めたのは、この子だけです。

始めは、下痢だけだったのですが、数日したら、ケイレンを起こしました。

頭蓋骨の部分の化膿は、抗生剤や栄養剤などの治療が効いて止まり、頭蓋骨の陥没もふさがりました。なんとか見ためは、痛々しくない子猫になりました。

脳を食べられた天使ちゃん脳専門病院へ

6月になっても、ケイレンが起こるので、脳を専門に診ている動物病院に連れて行き、これからの治療方針を検討することになりました。天使ちゃんは、数日入院して画像診断なども受けるので、多額の治療費が必要になりました。

松本さんは、SNSで天使ちゃんの様子をアップしていたので、そこから寄付が集まりました。結果、この高額の治療費を払うことができました(SNSの善意でこのようなことが、広がるというのはいい時代ですね)。

診断の結果

・頭頂骨の骨と脳実質も一部欠損

・脳実質と頚部頸髄にも炎症

・液体貯蔵が認められて、圧迫している

脳の専門の動物病院では、脳圧を下げる治療をやってもらいましたが、いつ何かがあってもおかしくない、といわれて帰ってきました。

現在の天使ちゃん

体に麻痺が残っているので、歩くことはできません。

食事は、飼い主が口に持っていけば、食べられます。排泄は、自分できます。もちろん、ケイレンを止める薬やステロイド剤などは服用しています。あれから2年半の歳月が流れています。体重も4キロになり、私たちの来た当時の10倍になりました。松本家のみなさんの愛情に支えられて、生きています。

カラスに襲われないために

もちろん、野良猫がいなくなると、このようなカラスに狙われる子猫はいなくなるのでしょう。

現実問題として、野良猫はいるわけで、外で子猫を産み落とすこともあります。天使ちゃんの場合は、田んぼに異様に多くのカラスがいたので、発見されたそうです。

・いつもカラスがいない公園に複数のカラスがいる。

・田畑に複数のカラスがいる。

以上の場合は、子猫がいてカラスに襲われているかもしれません。そのときは、カラスを追っ払って、子猫を保護してあげてくださいね。

まとめ

自然界は、弱肉強食でまだすばやく逃げることのできない子猫は、カラスやイタチに狙われます。

カラスやイタチは、生きるために命がけでやっています。そのことは、理解していますが、やはり愛猫家にとっては、子猫を守りたいですよね。目玉のない猫や舌を噛みちぎられた猫を見ると、心が痛みます。人間が作った野良猫がいなくなれば、この悲劇もなくなると思っています。猫の避妊・去勢手術をして、完全室内飼いにしてほしいものです。子猫が生まれるシーズンが来ました。カラスと猫の関係を理解してもらえるとありがたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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