血便がとまらない...ヒトの家族性大腸腺腫症に似たジャックラッセルテリアの遺伝性腫瘍
愛犬には、元気で長生きしてほしいと思うのが飼い主の気持ちです。
しかし、なかなかそうはいかないこともあります。今回ご紹介するのは、遺伝的な病気の可能性があるケースです。
3歳のこむぎちゃん(仮名)の飼い主Tさんから、「元気ですが、ウンチに血が混じっています」という連絡がありました。
ジャックラッセルテリアという犬種には、遺伝病である「遺伝性消化管ポリポーシス」というものがあります。それでは、この病気について見ていきましょう。
こむぎちゃんの症状
Tさんはジャックラッセルテリアが好きで、以前も飼っていました。前の犬も血便があり、消化管リンパ腫になりました。治療をしましたが、この世を去っています。
そんなTさんは、こむぎちゃんも同じ犬なので、腫瘍になると困るので毎回ウンチのチェックをしていました。
しかし、こむぎちゃんのウンチは下痢でないのですが、表面に血が付いていました。
そこで、以下の検査を行いました。
・クロナリティー解析
犬・猫の悪性リンパ腫やリンパ球性白血病、またはそれらの疑いがある疾患を対象とした遺伝子検査。
・アルブミン値
炎症の検査。
・HtとHb
貧血の有無。
・白血球数、リンパ球数、好中球数
炎症の検査。
・CRP
炎症の検査。
これらはすべて正常値でした。
もちろん、抗生物質やステロイド剤を使用し、食事内容も改善しました。しかし、こむぎちゃんは元気で食欲もあり、下痢もしないものの、血便は治りませんでした。
こむぎちゃんが内視鏡検査とCT検査へ
Tさんは、前の犬のようにリンパ腫やがんになっていると困るので、2次診療の動物病院で腸の内視鏡検査とCT検査を受けることにしました。
犬を飼っていない人は、なぜすぐにこのような検査をしないのかと思うかもしれません。人は麻酔なしで検査ができることが多いですが、犬の場合は全身麻酔が必要です。そのうえ、人のような保険制度がないため、高額な検査費用がかかります。今回、こむぎちゃんの検査費用は20万円弱でした。
犬の医療にはこのような事情があり、すぐに精密な検査を受けられないことがあります。
こむぎちゃんの結果
こむぎちゃんは、CT検査では異常がありませんでした。
内視鏡検査では、大腸にポリープを発見し、それを切除して病理検査を行った結果、良性でした。
それでも、ジャックラッセルテリアには遺伝病である「遺伝性消化管ポリポーシス」があるのです。
遺伝性消化管ポリポーシスとは?
「遺伝性消化管ポリポーシス」は聞きなれない病気ですが、ジャックラッセルテリアがなる最近発見された遺伝性疾患です。
この疾患は、消化管内にポリープが多発することを特徴とし、特に胃や大腸に多く発生します。
「症状」
この病気の主な症状は、便に鮮血が混ざることが多く、慢性的な出血により貧血を起こす場合もあります。他には、下痢、嘔吐、食欲不振、体重減少などです。
ポリープが大きくなったり、数が増えたりすると、腸内が狭くなり腸閉塞を引き起こすこともあります。
「原因と遺伝的背景」
ジャックラッセルテリアの特定の遺伝子の変異が原因とされています。
特に「APC遺伝子」の変異が関与しているとされ、人の家族性大腸腺腫症と同様のメカニズムでポリープが形成されます。
この遺伝子変異は、親から子へ優性遺伝するため、片方の親が変異遺伝子を持っている場合、高確率で子犬にも遺伝します。
「治療法と管理」
治療は、ポリープの大きさや数によって異なります。ポリープが少数であれば、内視鏡を用いた切除が行われます。
多数の場合や腸閉塞を起こしている場合は、外科手術による腸の一部切除が必要になります。再発のリスクがあるため、定期的な検査と観察が重要です。また、低脂肪で消化の良い食事や、腸の炎症を抑えるための薬を投与することもあります。
こむぎちゃんの消化管ポリポーシスの遺伝子検査の結果
岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科の平田先生らによって、2020年5月に「イヌの新たな遺伝病を発見 ヒトの家族性大腸腺腫症に類似したイヌの遺伝性腫瘍を発見」という論文が発表されました。
そのため、血液を提出すれば、この遺伝病の検査ができるようになりました。
こむぎちゃんは、APC遺伝子の変異が関与していませんでした。完全に遺伝病だと否定はできませんが、発症リスクは低いということです。
ジャックラッセルテリアの飼い主は、このような遺伝子検査をしなくても済むように、繁殖についてしっかりと考えるべきです。血液検査によって遺伝病の有無が分かるため、ブリーダーが遺伝病を持つ犬同士の交配を避ければ、こうした病気は淘汰できます。
まとめ
この消化管ポリポーシスは遺伝性疾患のため、完全な予防は困難です。
しかし、ブリーダーが繁殖時に遺伝子検査を行い、変異遺伝子を持つ犬を避けることで、この病気の発症リスクを減少させ、ひいては撲滅できます。
そのためには、飼い主、獣医師、ブリーダーがこの遺伝病の存在を理解し、認知度を高めていくことが大切です。
飼い主がジャックラッセルテリアを求めるときは、消化管ポリポーシスの遺伝子を持っていないかを確かめてから、購入しましょう。
ジャックラッセルテリアは、日本で2000年代初頭から人気が高まり始めました。特に2001年に公開されたハリウッド映画『マスク2』や、1990年代後半から2000年代にかけて海外ドラマやCMで活躍する犬種として登場したことが影響しています。
また、日本国内でもテレビドラマやバラエティ番組に登場する機会が増え、その活発で賢い性格が注目されました。2000年代にはジャックラッセルテリアが「小型犬ブーム」の中で飼いやすい犬種として紹介され、愛犬家の間で認知度が急速に広がりました。
ジャックラッセルテリアで血便や消化器症状が続く場合は、早めに獣医師に相談し、適切な検査と治療を受けることが大切です。
この病気について正しく理解し、早期発見・早期治療を心がけることで、愛犬の健康維持と生活の質を守ることができます。
参考文献は以下