【将棋】王位戦七番勝負、最終決戦 令和の覇者を目指して初防衛か、ファンの後押しで初戴冠か
豊島将之王位(29)に木村一基九段(46)が挑戦する第60期王位戦七番勝負は9月25・26日に最終第7局が行われる。
第32期竜王戦挑戦者決定三番勝負と合わせて炎の十番勝負と称したシリーズも最終決戦だ。
竜王戦挑戦者決定三番勝負は2勝1敗で豊島名人が挑戦権を獲得している。
十番勝負全体では、王位戦七番勝負での3勝3敗と合わせて豊島名人が5勝4敗と一歩リードだ。
豊島王位がタイトル初防衛で二冠を死守するか、木村九段が悲願の初戴冠そして最年長タイトル獲得記録を更新するか。
令和が始まって一番の大勝負だ。
先手
最終戦は改めて振り駒となる。どちらが先手を握るかはこの勝負の大きなポイントだ。
豊島王位が先手となれば、間違いなく角換わり戦法を選ぶだろう。炎の十番勝負でも、竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局と王位戦七番勝負第5局で投入し、いずれも勝利をおさめている。
角換わりの現状については、先日こちらで記事を書いた。
なぜ豊島名人や藤井七段は角換わりをエースとしているのか?そして角換わりの現状は?
先手番での角換わり戦法は、形勢でリードできなくても先手のほうが陣形が整っている状態での戦いとなるため、実戦的な勝ちやすさがある。
逆に形勢でいえば後手も十分に戦える。
そして「千駄ヶ谷の受け師」木村九段は自陣の乱れを苦にしないタイプだ。
前述の2局とも決して内容では劣っていないので、豊島名人のエース戦法に互角以上で対抗できる可能性は高いとみる。
一方、木村九段が先手となれば相掛かり戦法を選ぶだろう。王位戦七番勝負第2・4・6局と、先手番では常に相掛かり戦法を採用している。第2局では逆転負けを喫したが、3局とも内容で押していた。
相掛かり戦法は幅が広く、研究を深めるのが難しい。そのぶん将棋の経験値がものをいう側面があり、木村九段が芸域の広さで豊島名人を翻弄している。
木村九段が先手番で相掛かり戦法を選ぶと、主導権を握って局面を進められそうだ。
フルセットの経験
戦法面では振り駒の結果にかかわらず、わずかに木村九段に分があるとみる。
しかし豊島名人はフルセットでタイトル戦を制した経験に勝る。
初タイトルとなった昨年度の第89期棋聖戦五番勝負では、タイトル通算100期のかかった羽生善治棋聖(当時)に最終第5局で思い切った作戦を採用して勝ちをもぎとった。
前期王位戦七番勝負では、最終第7局で菅井竜也王位(当時)の振り飛車に、居飛車穴熊から守備の桂を使う思い切った攻めで勝ちきった。
土壇場でみせる勝負強さは、令和の覇者争いでトップを走る要因である。
一方、木村九段は3年前の王位戦七番勝負では羽生王位(当時)を3勝2敗と追い詰めながら2連敗で長蛇を逸した。
また炎の十番勝負において、竜王戦挑戦者決定三番勝負最終第3局では、リードを奪いながら強引に技をかけにいったところを切り返されて豊島名人に負けている。
ここ一番において勝ちへの意識が強くなりすぎるのかもしれない。
ファンの後押し
状況をみていくと、ほぼ五分といえよう。正直、筆者もどちらが勝つか全く予想できない。
先ほど木村九段が番勝負の最終戦に勝ちへの意識が強くなりすぎると書いたが、それもまた人間味にあふれる木村九段の魅力でもある。
昨日将棋関係者が「木村九段が初タイトルを獲得したら泣いてしまうかもしれない」と話すのを聞き、改めて木村九段の人気を感じた。
豊島名人もファンは多いが、今回ばかりは木村九段の喜ぶ顔をみたいと願う将棋ファンが多いだろう。
木村九段が全力を尽くしきったとき、その背中を将棋ファンが押して、というシーンも目に浮かぶ。
一方、時代の流れを思えば、豊島名人がここで令和の覇権争いから一歩後退する姿も考えにくい。
王位を防衛し、10月から始まる竜王戦七番勝負で奪取を果たし、王位と合わせて竜王と名人の三冠となれば、令和の覇者争いで渡辺明三冠と肩を並べられる。
場合によっては来年頭から始まる王将戦七番勝負が、三冠同士、令和の覇者争いの大勝負となるかもしれない。
夏の終わりに迎える最終決戦は各メディアで中継される。固唾を飲んで見守っていただきたい。
なお筆者は25日(1日目)にAbemaTVで解説を担当する。
こちらも合わせてご覧いただければ幸いだ。