新聞、雑誌や書籍は本当に買われなくなっているのか・家計面から見た考察
戦後の世帯単位での新聞や雑誌などへの支出額
デジタル媒体に押され、また個々の媒体の質的変質、趣味趣向との兼ね合わせの良し悪し、周辺環境の変化もあり、新聞や雑誌、書籍などの紙媒体のすう勢が綱渡り的な状態になりつつあることは、多くの人が知るところ。特に今世紀に入ってからの動向には「出版不況」なる言葉が常用化されるほど。
そこで気になるのは、その「出版不況」が今世紀に入ってから「のみ」のものであるのか否か。業界単位、全体における売上の推移は「戦中からの新聞の発行部数動向」など多数の記事、資料で確認ができるので、今回は顧客のメインを占める家計単位での動きを、総務省統計局の家計調査(家計支出編)の経年データから探ることにした。
次に示すのは「主要紙媒体の2人以上世帯における、1世帯当たりの平均支出金額」を抽出し、月次ベースに計算し直したもの。物価の変動を考慮していない、原額のままなので、当然ながら年数が経過するにつれて右肩上がりになる、はずなのだが。
日本では1990年前後から物価は安定している。それにあわせて、という意図はないのだろうが、新聞は1990年あたりから横ばい、値上げによる一時急騰を見せるもやはり中期的には変わらず、さらには減少の傾向を見せている。雑誌・週刊誌はややタイミングが遅れ、2000年前後から低迷、漸減の傾向。インターネットやモバイル端末の普及時期と重なるだけに、興味深い。また、書籍は早くも1970年代後半から漸減傾向にあり、世帯単位の支出金額面では「書籍離れ」がこの頃から起きていたようだ。
世帯人数や物価変動を考慮すると…?
御承知の通り、日本では世帯あたりの人数は減少する傾向にある。「世帯構成人数が減れば、世帯単位の購入金額が減っても当然」とする意見もある。そこで各年ごとの調査対象母集団の平均世帯人数を考慮し、「1人あたりの」「月換算」支出金額を計算したのが次のグラフ。
新聞は通常世帯単位で購入することから、今件グラフでは無意味なので除いてある。グラフの形状的には最初のものと大きな違いはないが、書籍が1970年代後半をピークに減退しているわけではなく、横ばいを見せていること(もっとも21世紀に入ってからはやや下落しているが)、雑誌や週刊誌は1990年代後半で頭打ちになっていることが分かる。
「物価は変動するのだから、金額は時代の流れと共にその意味合いを変える。物価を勘案した上で考察すべきだ」との考え方も一理ある。1963年の100円と、2009年の100円とでは価値が全然違うのだから。
そこで消費者物価指数の推移をかけあわせて、とすべきだが、家計における支出にスポットライトをあてているので、今件は「消費支出」(世帯を維持していくために必要な支出)を考慮に入れることにした。「消費支出」も物価の変化を十分反映しているどころか、むしろ身近な感がある。すなわち、世帯単位で「家計のお財布にどれくらい食い込んでいるか」の割合を計算し、グラフ化したのが次の図。
書籍が1960年後半から1990年にかけてゆるやかに漸減した後は横ばい、雑誌は1990年後半以降横ばい、新聞は家計負担としては漸増状態にあることが分かる。出版社の売上との観点では無く、個々の家計の負担との立場から見れば、週刊誌や雑誌はむしろ1980年-1990年代と同程度には買われていることになる。
新聞離れ、雑誌離れなどの紙媒体離れは、世帯における負担額で考慮すれば、書籍以外は概して十年単位の昔の基準に戻っただけであることが分かる。要は買い手のお財布事情が厳しいから割り当て「額」が減ったまでの話で、割り当て「比率」そのものには大きな変化は無い。
仮に現状の紙媒体不況を家計の購入性向の問題が原因とするのなら、データ範囲内で最安値を更新している書籍はともかく、新聞や雑誌・週刊誌においては、この辺りに状況改善のヒントが隠されているかもしれない。
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