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豊島将之挑戦者(32)みたび先手で角換わり採用 堂々と受けて立つ藤井聡太王位(20)王位戦第5局開始

松本博文将棋ライター
茶畑 牧之原市 静岡(写真:イメージマート)

 9月5日。静岡県牧之原市・平田寺において、お~いお茶杯第63期王位戦七番勝負第5局▲豊島将之挑戦者(32歳)-△藤井聡太王位(20歳)戦、1日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 対局がおこなわれる牧之原市は、お茶の産地として有名です。藤井王位は初手を指す前にお茶を飲む有名なルーティーンについて前日、次のように語っていました。

藤井王位「なにか明確なきっかけがあって始めたということではないんですけど。何回かやっているうちに、自分としてはそれがいちばん落ち着くかなあというふうに思って続けています」

 対局の中継では、豊島挑戦者の脇に置かれている、紅葉がデザインされたボトルの「お~いお茶」が秋らしさを感じさせています。

豊島挑戦者「こちらに来させていただくのは初めてで、来る途中に本当に、茶畑がずっと続いていて、圧倒されました」

 本局の立会人を務めるのは地元静岡県在住の青野照市九段(69歳)です。

 青野九段は現役最年長の棋士です。

(記事中の画像作成:筆者)
(記事中の画像作成:筆者)

 一方、藤井王位は現役で2番目に年少の棋士です。

 朝9時。

青野「定刻になりましたので、豊島挑戦者の先手番で始めてください」

 両者は「お願いします」と一礼。持ち時間各8時間(2日制)の対局が始まりました。

 藤井王位は湯呑を口にしてお茶を一服したあと、2手目、飛車先の歩を突きました。豊島挑戦者はここでグラスに注がれた冷たいお茶を飲みます。

 第1局、第3局では先手番で角換わりを採用した豊島九段。カド番に追い込まれて迎えた本局もまた、角換わりを選びました。

 藤井王位先手の第2局、第4局も角換わり。この七番勝負は角換わりシリーズとなりました。

 角換わりの場合、両対局者の駒台には序盤から角が一枚ずつ置かれます。駒が置いてあれば、将棋を知らない人にもそういうものだとわかるでしょう。

 しかし何も置かれていなければどうか。観戦記者の東公平さんは次のように思い出話をつづっています。

(前略)私の経験でいちばん面白かったのは名人戦開始の寸前、しずしずと入ってきた女将が、駒台の上にお茶を置いたシーンである。対局者も関係者も大笑いした。しかし高坏の上に茶をのせたのは、女性にとってはごく自然な行動だったろうと思う。

出典:東公平『近代将棋のあけぼの』191p

 羽生善治九段も、危うくお茶を置かれそうになったそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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