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葬儀場からも著作権使用料を徴収するJASRACについて

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

「故人が好きだった曲、葬儀で流すにも使用料が必要? JASRACに聞いた」という記事を読みました。

JASRACによると、葬儀場で行う葬儀にJASRAC管理楽曲を使いたい場合、葬儀場がJASRACと契約し、楽曲使用料を支払う必要があるという。会場に音響設備を整備して楽曲を流すのは、営利事業者である葬儀場であり、「楽曲の利用主体は葬儀場だ」と考えているためだ。

ということです。いわゆる「カラオケ法理」の適用です。音楽を流す遺族は非営利ですが、営利事業である葬儀場が流していると見なされるということです。なお、生演奏ではなく、CDの再生であっても著作権法上は「演奏」です。

「人の不幸に乗じて…」と脊髄反射する人も多そうですが、葬儀場は営利目的で葬儀を行なっている(たとえば、大手葬儀場である公益社等の持株会社、燦ホールディングスは東証一部上場で200億円級の売上、20億円級の利益を上げています)ので、結婚式場と同様に、著作権使用料を払うべきという理屈は成り立つと思います。ちなみに、使用料は500平方メートルまでの葬儀場であれば、年額6,000円なので法外な金額というわけではありません。

では、たとえば、録音機材を遺族が持ち込んで再生したらどうなるでしょうか、この場合には、カラオケ法理の適用外とされる可能性はあるでしょう。カラオケ法理的用の判断基準のひとうが、営利事業者側が提供する機器等を使う点にあるからです。ただ、こうする人がいても葬儀場は固定料金で払っているのであまり意味はないでしょう。仮に「うちは著作権使用料節約のためにJASRACと契約していませんので、再生機材は遺族でご用意下さい」という葬儀場が登場したとしても、それによって得られる値引き額は式あたり10円くらいなのでビジネスとしては意味がないでしょう。

Twitter等で原盤権等の話を持ち出す人が見られますが、これは演奏権の話なので、原盤権(レコード製作者の権利)は関係ありません(厳密に言えば、オリジナルのCDではなくCD-Rやリップ音源を使うと複製権および録音権の処理が必要になりますが)。なお、結婚式の場合は、式で流した音楽をCDやDVDに焼いて出席者にお持ち帰りしてもらうための複製権も含めた権利処理を一括して行なうISUM(音楽特定利用促進機構)という団体がありますが、お葬式のDVDを参列者に配るということは、通常ないと思われるので関係ないかと思います(ミュージシャンの方の音楽葬であればあり得るかもしれないですが)。

参考情報として、米国の葬儀場は業界団体経由でASCAP、BMP、SESACとまとめて包括契約しているという運用のようです(利用料は年間246ドルです)(参照ウェブサイト)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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