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女性限定レースKYOJO CUP、猪爪杏奈に密着!「SUPER GTで女性初の表彰台に登るのが目標」

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
猪爪杏奈 【写真:CTY/CNS】

「女には負けたくない!みんな思っていると思うけど、私もそういう気持ちは持っています」

そう語るのは女性限定レース「KYOJO CUP」(競争女子選手権)に参戦するレーシングドライバーの猪爪杏奈(いのつめ・あんな)だ。KYOJO CUPは通常は富士スピードウェイで開催されているが、オリンピック自転車競技の会場となるため夏は鈴鹿サーキットでも開催される。

猪爪杏奈へのインタビューシーン 【写真:CTY/CNS】
猪爪杏奈へのインタビューシーン 【写真:CTY/CNS】

そんな鈴鹿大会を前に筆者も制作に携わる番組「レーシングスピリット」(CTY/ケーブルネット制作)で猪爪杏奈を取材した。

昨年ランキング3位の実力派

「KYOJO CUP」は2017年から富士スピードウェイで開催されている女性レーシングドライバー限定のスプリントレース。日本人初のル・マン24時間レース優勝ドライバーである関谷正徳(せきや・まさのり)がプロデューサーを務めている。

ウエストレーシングカーズ  VITA-01を駆る猪爪 【写真:CTY/CNS】
ウエストレーシングカーズ  VITA-01を駆る猪爪 【写真:CTY/CNS】

このレースの特徴は全員が同じマシンを使うワンメイクレースであること。マシンはウエストレーシングカーズ製の「VITA-01」で、供給パーツも同じであることからイコールコンディションの実力勝負のレースだ。

2020年、KYOJO CUPに初挑戦した猪爪杏奈はルーキーながら1勝し、全4戦中3戦で表彰台に登る実力を見せつけた。ルーキーでシリーズランキング3位は立派なリザルトと言えるだろう。

しかし、猪爪には悔しい思いをしたレースがあった。それは昨年もオリンピック開催の影響で1戦だけ実施された「鈴鹿サーキット」でのレースだ。結果だけを見れば3位表彰台という好成績だったが、土砂降りの雨でレースはセーフティカーの先導走行が続く、フラストレーションの溜まるレースだったという。

雨の中開催された昨年のKYOJO CUP鈴鹿 【写真:CTY/CNS】
雨の中開催された昨年のKYOJO CUP鈴鹿 【写真:CTY/CNS】

「富士スピードウェイと違って、鈴鹿サーキットは走り込んでなかったので、すごく悔しい思いをしました。レーシングドライバーとして全然足りない所がハッキリ分かったので、鈴鹿のシリーズ戦に積極的に参戦して腕を磨きたいと思いました」

そう語る猪爪のコーチ兼メカニックを務めるのはJ’S RACING 鈴鹿ファクトリーの工場長、窪田俊浩(くぼた・としひろ)。猪爪が使用するマシンのオーナーが旧知の仲であることから、KYOJO CUPで猪爪を担当することになった。

「第一印象はどこにでもいる普通の女の子でした(笑)。でも、鈴鹿のスポーツ走行を走らせたら、初乗りとは思えないタイムを出してきた。基本がしっかりできていましたね。でも、実戦でのメンタルや駆け引きの部分の経験が不足しているので、そこを補っていきます」

窪田俊浩【写真:CTY/CNS】
窪田俊浩【写真:CTY/CNS】

自身もスーパー耐久に参戦するレーシングドライバーである窪田は、今年も猪爪のメンターとなり、レーシングドライバーとしてのスキルアップをサポートしている。

レースと無縁の子供時代

窪田が「基本がしっかりできている」と語った理由は猪爪が育った環境にある。

実は猪爪杏奈の父は元全日本ジムカーナ選手権の王者、猪爪俊之。もう随分前に最前線からは退いているものの、ドライビングの基礎が全て詰まったジムカーナのチャンピオンにいつでも聞き、教わる環境があることは大きなメリットだ。

父の現役時代の家族スナップ写真 【写真:CTY/CNS】
父の現役時代の家族スナップ写真 【写真:CTY/CNS】

そんな家庭環境にありながらも、猪爪は幼少の頃からレースをやっていたわけはないそうだ。3歳でピアノを習い始め、小学3年生からは一転してバレーボールに熱中。小柄ながらもバレーボールの選手として体育会系の環境で活躍した。

「レース自体、全く知りませんでした。クルマもあまり好きではなかったですね」

そんな猪爪をレースへと導くキッカケを作ったのはやはり父だったという。趣味で電気自動車のレースに出場していた父の手伝いでサーキットに行くようになり、自らも出場するように。

そして、同じレースに参戦していた女性ドライバーの育成プログラム「WOMEN IN MOTORSPORT」の活動を見て、自身も受講。猪爪はロードスター・パーティレース、スーパー耐久などに参戦するようになったのだ。

WOMEN IN MOTORSPORTに参加していた猪爪 【写真:CTY/CNS】
WOMEN IN MOTORSPORTに参加していた猪爪 【写真:CTY/CNS】

「バレーボールの選手だった時は、高く飛んでパワーで相手をブチかましていましたね(笑)」と語る猪爪。根っからの負けず嫌いの性格が彼女の原動力になっているのは間違いないようだ。今年も猪爪はスーパー耐久など4つのレースカテゴリーに参戦する多忙な日々を送っている。

走り込んだ鈴鹿で結果が出せるか?

今回、テレビ番組「レーシングスピリット」で撮影したのはKYOJO CUPと同じ「VITA-01」を使う鈴鹿クラブマンレースの「クラブマンスポーツ」というレースだ。

猪爪杏奈 【写真:CTY/CNS】
猪爪杏奈 【写真:CTY/CNS】

今季、猪爪はスキルアップのために同レースに参戦しているが、出場選手は大半が男性。しかも、このレースで10年近いキャリアの持ち主やトータルのレース歴が30年を越えるベテラン選手もいる。アマチュアレースの中ではかなり高いレベルにある選手権と言っていいだろう。

そんな中で2月末に行われた開幕戦では予選3位をマークした猪爪。するとライバルたちからの見られ方はガラリと変わったという。

スターティンググリッドにつく猪爪 【写真:CTY/CNS】
スターティンググリッドにつく猪爪 【写真:CTY/CNS】

第2戦は富士24時間レースと重なり欠場したものの、今回撮影した第3戦はKYOJO CUP鈴鹿大会に向けた前哨戦。猪爪が力強いレースを見せたクラブマンスポーツ・第3戦で撮影した「レーシングスピリット」の映像はスマホアプリ「CTYコネクト」でも無料で視聴できる。

そして、7月24日、25日には鈴鹿サーキットでKYOJO CUPの第2戦が開催される(鈴鹿クラブマンレース併催)。富士での開幕戦は予選5位から決勝4位という結果になり表彰台には登れなかったが、鈴鹿での走り込みの成果を見せることができるか注目だ。

「長期的な目標はSUPER GTで女性初の表彰台に登ることです。簡単な事ではないですが、諦めないでひたむきに一生懸命やり続けることが大事だと思います」

番組の中のレースシーン 【写真:CTY/CNS】
番組の中のレースシーン 【写真:CTY/CNS】

レーシングカート出身の若い女性ドライバーが増え、レベルが急激に上がりつつあるKYOJO CUP。負けん気の強さで鈴鹿を攻める猪爪杏奈に注目してレースを見てはいかがだろうか。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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