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古内東子ライヴ  “極上の切なさ”に包まれた、丸の内の夜 「思いが溢れるとそれが歌になる」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
5月31日東京・丸の内 COTTON CLUB

昨年デビュー25周年を迎えた古内東子が、5月31日、6月1日の2日間、東京・丸の内COTTON CLUBで、恒例のアコースティックスタイルのライヴ、『TOKO 2019 〜PIANO+1』を行った。昨年10月17日には約6年ぶりのオリジナルアルバム『After The Rain』を、さらに11月21日にはレーベルの垣根を超えた3枚組ベストアルバム『誰より好きなのに~25th anniversary BEST~』、12月26日にはライヴアルバム『25th ANNIVERSARY LIVE 2018 Toko Furuuchi』を立て続けに発売し、古内が紡ぐ色褪せないラブソングが多くの人の耳に届いた。

5月31日、COTTON CLUBのセットリストも、新旧の人気曲を織り交ぜ、久々に披露する曲も含み11曲が用意され、日常から解放された金曜日の夜、集まったファンは“極上の切なさ”に酔った。

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オープニングナンバーは「Swallow」。2011年のアルバム『透明』からのナンバーで、原曲は躍動感があるが、ライヴではピアノとギターの優しい音色が重なる温かなアレンジで、より歌が伝わってくる。どの歌にも共通していえるのは、恋することで得ることができる喜び、痛みを伴う恋、そして苦しみ、その瞬間を見事に捉え、歌い続けてきた古内の歌が、25年というキャリアによって深みを増し、説得力を纏って心に飛び込んでくる。山口周平のギターが、まるで古内と一緒に歌うように美しいメロディを奏でる「Mystical」も、繊細な歌詞と情感豊かな歌が、独特の世界観を作り出す。ピアノとギターだけとは思えない豊潤な音が、会場を包む。

「思い出がめぐって、思わず隣の人の手を握りながら聴いてもいいですよ」と古内が言うように、瞬時に映像が思い浮かぶ楽曲が多いのも、彼女の作品の変わらないところだ。例えその歌の中の主人公にはなれなくても、歌の世界にスッと入っていけて、その歌詞の“行間”に身を置き、旅することで、それぞれの恋愛の思い出にたどり着けることができる。それが古内が、以前インタビューした時は戸惑っていると語っていたが、“恋愛の神様”と言われる所以なのではないだろうか。「思いが溢れてしまうとそれが歌になる」と語り、「Empty Room」を艶のある声で歌う。

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声はセクシーさを増し、オンナの詩、歌を艶やかに披露し、でもトークはどこかお茶目な、そんなメリハリがあるから、歌がリアルに聴こえてくるのかもしれない。ファン投票を行えば必ず上位に顔を出す「Sandalwood」(2000年)はドラマティックで、どうしようもないくらいの切なさが、客席に広がっていく。「いつもどおり」は、「自分の中にはないメロディだった」という、古内作品には珍しい楽曲提供を受けた作品で(作曲/為岡そのみ)、しかし歌詞を古内が描くことで、彼女の体の中から出てくる言葉が生むリズムが、曲を古内色に染める。

1999年に発売されたシングル「45分」は、約束した時間を45分過ぎた女性に、彼から連絡が入る。会いたいけど会えない、そんな切ない気持ち、女性の心象風景を見事に描いた、まさに短編小説のような名曲だ。

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「この曲をライヴで歌わなかったことはない」と、イントロからすでに切ない「誰より好きなのに」(1996年)を本編の最後に歌う。<やさしくされると逃げたくなる 冷たくされると泣きたくなる>の名フレーズに、聴き入る人、一緒に口ずさむ人、一人ひとりが大切な人、大切だったあの人を想いながら、歌の世界にどっぷり浸っているのが伝わってくる。誰もが、心の奥にしまった、忘れられない思い出、恋心の記憶の箱を開けてみたくなる瞬間がある。古内の歌はまるで、その箱を開ける“鍵”、合図のような役割をしてくれる存在で、だから古内のライヴは、冒頭に書いた“極上のせつなさ”を感じさせてくれるのだと思う。

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アンコールは、「10代の頃に書いた」という「キッスの手前」(2ndアルバム『Distance』(1993年))と、昨年リリースしたアルバム『After The Rain』のリード曲で、丸の内が舞台となっているMUSIC VIDEOが話題になった最新曲、「Enough is Enough」を続けて歌ったが、どちらも瑞々しく、古内の歌が持つ“色褪せない強さ”を証明してくれた。

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古内はこの後、恒例のビルボードライブツアー「古内東子 Summer Live Special 〜文月夜の音楽会〜」を7月23日東京、29日大阪で行う。このライヴは、ピアノ+サックス+フルートという編成で、ラブソングを、シンプルかつムーディでクールな演出で披露する。さらに10月19日には「恋の歌が品川で“groove”する」と題して、バンド編成でのライブを行うことも決定している(品川インターシティホール)。数々の名曲達がその表情を変えて、心に飛び込んできそうだ。

古内東子 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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