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日本への関心が高まっている。このチャンスを、日本の再起動に活かそう!

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
海外から日本への関心が高まってきている(提供:イメージマート)

 最近、世界のビジネスや投資で、日本への関心が高まっているとよく聞くし、そう感じる場面に出くわすこともある。それは、日本が、ウクライナ戦争や中東での紛争、さらに米中貿易戦争等を受けて、地政学的に比較的に安定し、自由市場や民主主義を共有しており、良質だが円安も功を奏して安価な労働力を得ることも可能な国・社会であるからだ。

 このことは、長らく停滞・低迷し国際社会でのプレゼンスが低落気味であった日本にとってのある意味突然の朗報であり、日本が新しい可能性を生み出していける機会を得たことを意味する。だがこれは、日本自体の努力というよりも、コロナ禍が収束し、世界が動き始めた時期に多くの出来事や偶然から生まれた産物ということもできる。

 日本は、いずれにしろこの好機の流れにそって対応すべきであり、それを積極的に活かすべきだ。この好機を逃したら、次にこのような好機がいつ訪れるかわからないし、もしかしてこれが日本の再起動・再生のラストチャンスかもしれない。

日本は今生まれているチャンスを活かすべきだ
日本は今生まれているチャンスを活かすべきだ写真:イメージマート

 今回の海外のビジネスの関心の中には、研究開発拠点などもあるようだ。現在の世界の状況、特にビジネス展開をみると、新しいサイエンスやテクノロジーがそのドライビング・フォースであることが多いことを踏まえると、それは日本にとって願ってもないことだ。

 この好機において、留意すべきことがある。それは、日本は、社会の方向性を決める役割を担う政策形成において重要な役割を果たす政治や行政の中心が、文系中心人材により占められていることだ。これは、日本が、国難の中、江戸幕府が終焉し、明治維新で新しい政府がつくられ、近代化を目指して以来の伝統だ。その近代化のプロセスは、いわゆるキャッチアップ型であったので、他国の先進性を取り入れる上で、その人材は有効に機能した。そして、それが、日本の第二次世界大戦前までの近代化の成功および同大戦後の驚異的な復興をもたらした。

 だが、日本がそれなりに豊かになり、自国のさらなる発展や進展を生み出していく上では、文系人材だけでは不十分だ。日本のこの30年の状況は正にそのことを物語っている。その意味からも、サイエンスやテクノロジー分野での知見のある理系人材や科学者などを、政策形成過程にもっと関わってもらう仕組みが必要だろう。

サイエンスやテクノロジーが社会変革のドライビング・フォースだ
サイエンスやテクノロジーが社会変革のドライビング・フォースだ写真:アフロ

 先のコロナ禍の中においても、海外では、それに関する政策形成において、科学的知見のある人材が制度的にもより有効に活かされた(注1)。他方、日本では、新型コロナ対策分科会の会長を務めた尾身茂(注2)などの一部人材が活躍し、日本におけるコロナ禍の最悪の事態を何とか耐え忍んだが、制度的には曖昧な対応がなされて、非常に不十分な対応に終始した。そのことは、政策形成過程において、科学の専門家が平時から的確に関われる制度が必要であることを示した。

 以上のことを踏まえて、次のような提言を行いたい。

 日本の政策形成において、科学的知見をインプットできるようにするために、総理および各省庁に常勤の科学顧問を数名づつおき(注3)、その下に顧問の活動をサポートするチームをおくのである。同チームは、官僚およびポスドク人材から10名程度で構成される。

 なお、現在の岸田政権は、2022年5月、科学技術立国の実現に向け、総理官邸に首相直属の科学技術顧問を置くことを決め、9月には科学技術振興機構(JST)理事長である橋本和仁氏を内閣官房科学技術顧問に任命した。これは、日本でも科学的知見を政策に活かすことを前に一歩進めた試みとしては評価できるが、非常勤であり、体制としては中途半端だ。

 また科学顧問の役目は、政府が、科学的根拠に基づいて意思決定できるのを助けることであり、総理だけにあればいいのではなく、全省庁における対応が必要だろう。

科学者を政策づくりや政府の活動にもっと活かすべきだ
科学者を政策づくりや政府の活動にもっと活かすべきだ写真:アフロ

 科学顧問の制度は、英国などに先例があるので、参考になろう(注4)。

 英国では、各省庁の科学顧問のネットワークがあり、定期的に会合を持ち、密に情報を共有している。英国においても、科学の研究者が政府・行政に入れば、そのカルチャーの違いや縦割りなどによる問題・課題に直面する。それを乗り越えて、外部や科学の知見を政府や政策形成に活かすには、複数人材の存在およびチーム的なサポート体制があってはじめて機能すると考えるべきだ。日本でも、ぜひそのような体制の導入を期待したい。

 そして、中長期的には、日本の国家公務員でも、現在の文官・技官の枠を超えて、理系人材をより積極的に採用していくことも行われる必要があろう。

 現在、好機が生まれてきているなかで、日本がすべきことは、それが活かせる体制をすぐにでも構築すべきだ。それは、政治がすべきであり、政治にしかできないことであろう。

 そして、中長期的には国家公務員の採用なども変えていくべきだろう(注5)。

(注1)この点については、拙論文「政府の情報発信は適切だったのか?-今般のコロナ禍に対する各国の政府の対応-」(嘉悦大学ディスカッションペーパー、2022年)等を参照のこと。

(注2)コロナ禍における尾身氏の活躍等は、同氏の著書『1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録』(日経BP、2023年9月)等を参照のこと。

(注3)この場合、総理直属の科学顧問が、政府の主席科学顧問になる。

(注4)この点については、記事「(Question)政府の科学顧問、どんな役目? アンジェラ・マクリーン氏」(朝日新聞、2023年12月2日)が参考になる。

(注5)この点については、拙記事「省庁は時代に合った採用急げ」(日本経済新聞、2023年8月3日)を参照のこと。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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