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【NHK紅白歌合戦】と【朝ドラ】のコラボ、今回の出来を検証 「おかえりモネ」「カムカムエヴリバディ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
(写真:アフロ)

第72回『NHK紅白歌合戦』で用意された 【朝ドラ】こと連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021年度前期)と『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)のファンを喜ばせる企画を振り返る。

『カムカム〜』は夫婦役で共演した上白石萌音(ヒロイン安子役)と松村北斗(SixTONES)が紅白出場歌手として楽曲を披露。さらに主題歌『アルデバラン』を歌っているAIも出場歌手として参加し主題歌を披露した。方や『おかえりモネ』はヒロイン・百音を演じた清原果耶と相手役の坂口健太郎が審査員として出演、主題歌を担当したBUMP OF CHICKENが紅白出場歌手として参加し『なないろ』を披露。さらに紅白のために収録した特別映像も放送された。

それぞれの趣向を細かく振り返ろう。

紅白がはじまってほどなく審査員として清原と坂口が紹介された。清原のテロップには「上白石萌音とはプライベートでも仲良し」と出た。坂口は「#俺たちの菅波」が大人気になったと紹介されるとやや口元が笑っているように見えた。

20時13分頃、SixTONESがNHKに登場(NHKホールが耐震工事のため使用できず今回のメイン舞台は東京国際フォーラムだったが一部、NHKで歌う組もあった)。「稔さんじゃないですか稔さん」と司会の大泉洋が松村に呼びかける。「稔です」と応じる松村ではあったが『マスカラ』を歌う稔さんこと松村は稔さんの昭和男子風味とはまた違う色っぽい流し目をカメラに向けて歌っていて、これはこれで魅力的だった。

20時26分頃、上白石萌音が登場。彼女もまたNHKからの歌唱であった。大泉がまた「稔さん」ネタを振ると「さっとすれ違いました」と上白石は答え「よかった、会えたんですね」と大泉はホッとしたように言った。続いて上白石は「パワーいただきました」。

紅白にSixTONESと上白石萌音がそれぞれ初登場することが決定したとき、夫婦役で紅白出演!と朝ドラファンは盛り上がった。ドラマの中では死別した夫婦共演の場面が紅白ではあるだろうかというほのかな期待もある一方で、ドラマでは安子が稔の死後、アメリカの進駐軍の将校ロバート(村雨辰剛)に「I Love You」とアメリカに一緒に行きましょうと告白されそのまま渡航したため、稔さんとの共演は気まずいかも?と心配もされた。そんな感情渦巻く中、視聴者の見てないところで、すれ違ってパワーを与え合うという控えめな感じが安子と稔らしくて良かったような気がした。

上白石がオーケストラをバックに『夜明けをくちずさめたら』をしっとり歌い上げたあとは King & Princeの登場。「月」をモチーフにした楽曲つながりだった。キンプリのメンバーには『おかえりモネ』で活躍した永瀬廉がいる。審査員の清原は「すっごいきらきらでかっこよかったです」と感想を述べ「亮ちーん」と呼びかけた。坂口は「れんれん〜」と呼び「れんれんは最高でした」と称賛した。清原は役として、坂口は演者として、ふたつの見方を提示してバランスをとる。この感じには常に理性的に振る舞う百音と菅波らしさが垣間見られる。安子と稔、百音と菅波、2組とも役のイメージを損なわないところがすてきだった。

損なわないと言えば永瀬である。「ふたり(清原と坂口)が見てるっていうんで裏でにやにやが止まらなかった」「ぞわぞわして嬉しくて」と言ったあと「みーちゃん(百音の妹・未知)も見てくれてるかなと思いながら歌ってました」とじつに旺盛なサービス精神を見せた。

朝ドラコーナーはこれで終わりではない。今回の紅白では前半、後半とまんべんなく散りばめられていた。間に「思いがけず頼朝(大泉)と清盛(松平健)そろっちゃいましたね」と大泉が朝ドラの応援だけでなく、自身が出演する大河ドラマ『鎌倉殿の13人』ネタをぶっこんだり、大泉がエヴァに乗るという超豪華なコーナーをはさんだりしたあと(大泉は大活躍。余談ながら『残酷な天使のテーゼ』を聞きながらペンライトを振る審査員の三谷幸喜のキレのいいリズム感に目が離せなかった)。

21時16分頃、再び朝ドラコーナーがはじまる。後半のほうがメインである。

『カムカム』の主題歌『アルデバラン』をAIが歌うにあたり、上白石がNHKからすっとんで来た。「だったら最初からここで歌えればよかったんですけどね」と大泉に言われながら曲紹介する上白石。この主題歌を聞いたときクランクアップで、安子と曲がリンクしたそうだ。『カムカム』の切り絵がモチーフになったOP 映像を背景にAIが熱唱し、「ブラボー」と大泉が感嘆し、上白石は「曲と作品に出会えて本当に幸せだと思いました」と涙を流した。

22時38分過ぎ、審査員席から清原と坂口がステージに上がった。『モネ』のダイジェスト映像と清原果耶の語りで『「おかえりモネ」の舞台 気仙沼のいま』という取材映像が流れる。百音と同じ中学3年のとき、卒業式の前日に被災し、いまは町の市役所で働いている女性が映像で登場し、実際に津波の瞬間を見ていなくて「何も出来なかったなという記憶があります」と百音と同じ感覚を味わったことを語った。「この町で自分ができること」は「(子供たちに」ここに住んでよかったと思えるようにしたい」と希望を述べる女性。それから気仙沼でいまも生活している人達の笑顔のカットが映った。「ただいま」「おかえり」というやりとりでドキュメンタリー映像は終わる。まるでもうひとつの『モネ』のような、『モネ』でやりたかったことはこれだったのかなと思うような映像だった。「おかえり」「ただいま」が特別なことでなく当たり前に交わせる生活の希求である。

そして、BUMP OF CHICKENが「『天体観測』『なないろ』紅白スペシャル」として2曲を披露。『なないろ』は気仙沼の浜辺での撮影のようだ。彼らの演奏と平行して、『モネ』の吹奏楽部メンバーが体育館で演奏する新作映像が流れた。百音(清原)、亮(永瀬)、未知(蒔田彩珠)、明日美(恒松祐里)、三生(前田航基)、悠人(髙田彪我)が集結し、クラシックなジャズの演奏者のような服と帽子で演奏。『モネ』公式ツイッターでは“亀島中学校の卒業生のコンサートが、10年越しに実現しました”と綴られた。それをリモートで登米のサヤカ(夏木マリ)や菅波や川久保(でんでん)、佐々木(浜野謙太)が見ている。

「『おかえりモネ』という作品が決まった時、東北や宮城の皆さんの勇気や力になればと思っていた」と清原が語るように、今回のこの紅白と『モネ』のコラボは東北や宮城への再生の想いがこもっていたように感じられた。もともと『モネ』はそういう趣旨のドラマだったわけだが、コロナ禍によって日本中がコロナ禍で身も心もがいっぱいになって、東北や宮城のことを考える余裕がややなかった時期に放送されたことは少し惜しかった。だが年の暮れにこのようなまとめができたことで、改めて東北や宮城について考えるいい機会になったのではないだろうか。

また、このためにレギュラーが集まって、ドラマのなかで叶わなかったことを行う流れは、2013年の第64回紅白での『あまちゃん』をフィーチャーした『第157回 おら、紅白に出るど』を彷彿とさせるものがあった。ドラマと歌が渾然一体となって感動を盛り上げた『あまちゃん』と紅白コラボはこれを超えるものはなかなかできないと思うほどの完成度の高さで、筆者は当時レビューを書いている。

「あまちゃん」を半年楽しんできたファンには本当に嬉しいお祭りのようなことになりました。こんなふうに、最後の最後で、ドラマをホンモノのステージに乗せて、虚構と現実の間を自由自在に遊ぶという偉業を成し遂げた「あまちゃん」。

感動の「あまちゃん」@紅白を詳しく詳しく振り返る。オンデマンド配信は1月15日まで

『NHK紅白歌合戦』と“朝ドラ”(連続テレビ小説)は相性がいい。その年の“朝ドラ”に関連する特別コーナーが組まれることはよくある。正確には“歌”をモチーフにした朝ドラと紅白の相性がよく、2020年、第71回の紅白では『エール』(2020年度前期)が主人公のモデルになった古関裕而の楽曲を窪田正孝、山崎育三郎、中村蒼、森山直太朗、堀内敬子立ち出演者が歌い、主題歌『星影のエール』をGReeeeNが歌い感動を振りまいた。司会はヒロイン役だった二階堂ふみがつとめていた。

1997年、第48回の紅白では『ふたりっ子』(1996年度後期)のオーロラ輝子(河合美智子)が劇中歌『夫婦みち』で正規の出場を果たした。近年、朝ドラ企画が面白いと言われているが、朝ドラの遊び心は今にはじまったことでなく、紅白朝ドラはお家芸のひとつと言っていいのである。とりわけ『ふたりっ子』や『あまちゃん』のようにドラマのオリジナル楽曲がブームになるとその年の紅白は盛り上がる。そうそうできることではないだろうけれど、そういう力のある作品を今後も生み出してほしい。

2021年の紅白と朝ドラコラボが良かった点は、前期と後期、2作を取り上げたことであろう。たいてい1作だけが主として取り上げられるなか、今回はどちらの作品のファンも楽しめた。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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