松下洸平演じるオリジナルキャラ周明はまさかの悪役か当て馬か「光る君へ」
まびろの第2の恋? ラブ、ミステリー、リーガル
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)が越前編に入って好評だ。越前編は創作部分が多そうで失速するのではと懸念もあったが、ラブ、ミステリー、リーガルと人気要素がてんこ盛りで、逆に見やすくおもしろい。
まず、ラブ。越前には、京都と違って海があり(一応京都も北部は海につながっているが)、その向こうに異国・宋がある。
越前には宋人が貿易で入国していて、建物や調度品が異国情緒にあふれていた。そこでまひろ(吉高由里子)は周明(松下洸平)と出会う。
道長(柄本佑)と遠く離れ、新しく生まれ変わろうと考えたまひろに、いきなり新しい出会い。その相手を演じているのは、「最愛」(21年、TBS系)で吉高演じるヒロインに対して最高の愛を貫く役を演じた松下洸平である。これはなにかありそうに決まっている。
周明はオリジナルキャラなので自由な創作が可能だ。道長ひとすじのまひろの第2の恋がはじまっちゃう? という期待に応えるように、まひろと周明の出会いは海。浜辺の砂に周明は名前を書く。序盤のリフレインである。まひろと道長が出会ったとき、道長は地面に足で名前を書いていた。まさに第2の恋のはじまりではないかと思ったが、波が周明の名前を消し去った。そしてドラマは、ラブよりもミステリー展開に。
(以下、第22、23回のネタバレありますので、ドラマをご覧になってからお読みください)
心を許せない異国との関係
第22回「越前の出会い」では、越前国府に行く前に、為時(岸谷五朗)は敦賀の松原客館に立ち寄って宋人たちの様子を観察する。宋人たちは極めて友好的で、リーダー・朱仁聡(浩歌)もとても紳士的。だが、為時はほんとうに彼らは商いをしに来ただけなのか気にかかる。
宋人は戦を嫌い戦で領地を広げることはしないと、通事・三国若麻呂(安井順平)は言うが……。
果たしてほんとうにそうであろうか。
出世して、解放感(開放感)のある豊かな土地に来た、という希望だけではなく、異国の者への警戒感、一触即発の危険性も秘めている責任が為時にのしかかっている。
言葉が通じないもどかしさや不安も加わっての疑心暗鬼。じわじわとストレスが積み重なっていく。
宋人たちは為時のために宴を催し、見たことのない食べ物や耳馴染みのない音楽でもてなす。
為時はあらかじめ宋の言葉を学んでいて挨拶程度は話せるが、細かいところまではわからない。異国人同士、お互い、言葉がわからないから、異国の言葉で話されると何を考えているのかわからない。
まひろも、その場では、宋の最高のもてなしと言われる羊の肉を「美味しい」と言ったものの、あとで周明に日本語で「正直、羊はあまりおいしくなかったけど」と本音を漏らす。周明が日本語がわからないと思いこんでのことだったが……。
こころときめく劇伴の調べ
その後、まひろは周明とは運命的な再会をする。たぶんいろいろ心配ごとが山積みだからであろう、為時の体調が悪くなり、その治療にやってきた薬師が、周明だった。再会したときにかかる劇伴は、序盤、よくかかっていた、この胸のときめきという感じの「Primavera-花降る日」のアレンジバージョン。この曲がかかったら、それはもう、恋なのではないか。などと思わせておいてーー。
殺人事件勃発
そんなとき起こったのが、ときめきとは真逆の殺人事件。三国若麻呂が何者かに殺された。通事が死んでしまったので、言葉が通じず、犯人は朱ではないかと容疑がかかるが、裁きが難しい。
ラブ、ミステリー、そしてリーガル。
まひろは、異国の者を裁けるのかという問題に直面する。
朱が殺してないことを証言できる証人を連れてきたのは周明で、そのとき彼は日本語を話す。実は、日本語は話せないふりをしていたのだ。そう思って、ドラマを見返すと、周明の表情には折につけ日本語を理解しているような微妙な反応が見てとれる。
周明は単にまひろの恋のお相手ではなさそうだ。いったい何者なのかーー
と引っ張っての第23回「雪の舞うころ」では、早々に犯人がわかった。
商人・早成(金子岳憲)という人物が、三国若麻呂と口論になって、ちょっとした拍子に殺めてしまったのだ。このときの金子岳憲と安井順平の小競り合いの動きが短いながら密度が濃い。ふたりとも舞台の仕事を多くやっているからか、狭い空間を器用に使って軽やかに見せている。
国府の偉い人・源光雅(玉置孝匡)が朱を犯人に仕立てるよう民に強要していた。やはり、宋と越前国府との関係はぎくしゃくしているようだ。宋人は日本人を見下し、松原客館でやりたい放題であると、光雅は為時に訴える。このままでは日本に危機が起こると心配しているのだ。
こんなときは話し合いが大事。それには通事が必要だ。為時は周明を通事として、朱の本心を聞くことにする。
宋人は宋人で事情があった。国から日本との商いの拡大を命じられ、果たせないと帰国できない。光雅はまったく話を聞いてくれなかったのだという。為時は、宋の事情も受け止めて悪化した関係を解決することができるのだろうか。朝廷は、そっちでなんとかやってくれとお任せ状態。いきなりこんなめんどうな問題を任せられた為時の気苦労を思うとお気の毒である。
周明が謎めいてきた
にわかに通事として活躍した周明にまひろが問う。
「あなたは宋人なの?日本人なの?」
周明の出生の秘密――対馬で生まれた彼は、口減らしで海に捨てられ宋人に育てられ、鍼師の師匠や朱に助けられた。
それを聞いて「宋の国はこの国より懐が深いのではないかしら」とまひろは思う。もともと、まひろは、宋では身分の低いものでも官職を得られると聞いていたから、彼女にとって宋は憧れだ。
周明は「おれを信じるな」と冷ややかに言うが、それでも目を輝かせて宋に思いを馳せるまひろに、「宋の言葉を知りたいか?」とふいに距離を縮めてくる。松下洸平の純粋そうな瞳と、ウィスパーボイスが生きる、この瞬間、周明にスイッチが入った感じがした。が、それが恋なのかほかの目的なのかはわからない。
宋の言葉を習いながら、次第にまひろの心は周明に近づいていく。
季節は冬になり。火鉢にあたりながら、周明はまひろの手を握り、鍼を刺すツボを教える。ツボを教える、手相を見る、など、手に触れる作戦あるあるである。
ふたりの心は通じてきているような気もするが、「おれを信じるな」――すなわち「宋人を信じるな」の言葉が気にかかる。「国際ロマンス詐欺」なんて声もSNSでは出ていた。
人の命を左右できる鍼師設定もミステリアスなものである。
ちなみに現在、再放送中の朝ドラ「オードリー」(00年度後期)の劇中劇で、大石静先生は表の仕事は医者、裏の仕事は殺し屋のキャラを書いている。この劇中劇では「光る君へ」で宣孝役の佐々木蔵之介演じるスター俳優が陰陽師を演じるのだ。
ここで宣孝が参戦
周明との関係が気になるなか、もうひとり、まひろに接近してくる者がいた。
親戚の宣孝(佐々木蔵之介)である。宣孝はまひろが幼い頃から為時の家に出入りしていて(公式サイトによると“職場の同僚で同年配の友人どうし”とあるが、遠い親戚でもある)まひろをかわいがっていたし、うまも合うようだった。
史実ではまひろは彼の妻になるので、彼こそが本命と考えられる。が、幼い頃からのつきあいで、いまさら結婚を考えるようになるにはどんなふうに展開するのかと思ったら、周明が当て馬になる。
まひろが周明と仲良くしているのを見て、「あいつと宋の国になんかいくなよ」と言い出すのだ。そのあとに続いた言葉がまひろを驚かせる。
ウニを食べながら語らう宣孝とまひろの場面では、すこし年をとった男女の希望がある。それなりに家庭も仕事にも満たされた中年男性が、もう少しだけ欲望をもつことで生命力を得る。その相手は、大人になり経験を積み聡明さに磨きのかかった女性であるというのは、中年男性の希望であり、もう若くないと嘆く女性にも希望である。
はたして、周明はこのまま当て馬になってしまうのかーー。いや、そんなはずはない。ほかに役割があるようだ。それはちょっとダークな役割のようで……。
「最愛」だと、井浦新と松下洸平の間で吉高由里子演じるヒロインが揺らいでいたが、今回は、佐々木蔵之介と松下洸平、そして京都には柄本佑もいる。柄本演じる道長は、振られても忘れられない人としてまひろのことをいまだに特別視している。
権力のトップにのぼりつめた道長、異国の言葉や文化などの知識欲を満たしてくれる周明、気心の知れた、それなりに財力もある宣孝に支えられるという、昨今あまりない、ヒロインのドリームストーリーである。
おもしろいのが、海辺で、左大臣(道長)を知り合いだというまひろが、宋の言葉で「知り合い」や「友」をなんと言うのか周明から習う。道長は「知り合い」か「友か」それとも……。
「友」「知り合い」「恋人」「ソウルメイト」等々、人間にはいろんな存在がいて、呼び方が違う。
京都の道長と一条天皇(塩野瑛久)と中宮(高畑充希)のパートもすこぶるおもしろいのだが、第22、23回レビューはこれにて。
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう ほか