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早稲田大学・佐藤健次、早明戦勝利もたらす「プレッシャーゲーム」への強さ。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は11月23日の早慶戦時。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 伝統の早明戦。プレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞したのは佐藤健次だ。早稲田大学の1年生ナンバーエイトである。

「試合前にグラウンドに入った時、スタンドでは明治の旗が凄く多くて、『アウェーだな』と感じていたら、河瀬(諒介=フルバック)さんにも『すげーアウェーやな』と話してもらって。そこで緊張がほぐれた、ではないですけど、試合中は気にすることなくできたと思います」

 12月5日、東京は秩父宮ラグビー場。関東大学ラグビー対抗戦Aの最終戦として開かれたこの80分は、早稲田大学が明治大学に17―7で制した。

 前半6分に先制トライを奪われながら、25分までに10-7と勝ち越した。後半は自陣で明治大学の猛攻に耐え続け、37分、相手のミスボールを拾うや展開。インサイドセンターの長田智希キャプテンが怪我で欠場したことで出番が回ってきた、ウイングの小泉怜史がフィニッシュする。佐藤はこうだ。

「自分の役割、立ち位置を明確にして、そのコールを出すと決めていて、それができた。あとは2人で行く。明治さんも大きなフォワードがいるので、1対1なら勝てなかったこともあったとは思いますが、多くのシーンにおいて2人でタックルできたのが返せた(相手を向こう側へ押し返した)要因かなと思います。自分たちのノミネートができて。走り込んでくるアタックへも引かずに前に出られたのが全体的によかったと思います」

 身長177センチ、体重98キロと決して大柄ではないが、縦への推進力と地上戦での強さが光る。

 その資質は、早明戦でも発揮される。正面衝突のシーンで何度も顔を出す。初めて勝ち越した直後の相手ボールキックオフの折は、自陣22メートル線付近右から球を持って人垣を突っ切る。10メートル線まで直進する。

 試合後の記者会見では、持ち前の突進力について言及した。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「アタックでもディフェンスでも、コンタクトの部分で前に出られたことでいい流れに持って行けたのかなと思います。きょうの自分のテーマは『1メートル1センチにこだわる』。ディフェンスも大事なのですが、今日はアタックに集中しよう、ボールを持ったらゲインすると決めていた。それが体現できてよかったなと思います」

——突進力が発揮された。

「前半にボールをもらえなかったのはストラクチャー(戦術的な理由)もある。頭を冷静に働かせられたのかなと。最初のコンタクトで『あ、きょう行けるな』という感触があったので、そこからはボールを持ったら、自由にアタックすることができた。自分達がストラクチャーを組むということが、最初は、こう、ぐちゃぐちゃしていた、ではないですが、アンストラクチャーが多かったので、そこでうまく対応できたのかなと思います。

 ギャップが見えていて。きょう、相手のディフェンスの穴、あ、ここが空いているな、というのが見えていたので、それが今日のゲインに繋がった」

——自身が成長した点は。

「ボールキャリーの点で、自分でゲインできる状況が増えたのは成長。きょうは、(ボールを)もらう前に首を振って、『どこが空いているか』と前が見れた。そうして穴が見つけられたと思うので、(今後も)それをやっていきたい。

 もともと自分がそんなに外国人の選手ほど強く真正面から行って相手を飛ばすという選手ではない。そんななか、相手の芯を外しながらゲインをできた。最後の方は気持ち的にも乗っていて『あ、これはまっすぐ行っても行けるな』と(いう気分になった)。いいメンタリティもいいボディコントロールも保てたと思います。

 シーズン最初は自分が、自分が…とあまり周りを見ることはできなかったのですが、いまはフォワード(全体)を見ることを——まだまだですが——うまくできはじめてはいる。プレー以外では、そこが成長点だと思います」

 昨季まで高校生だった。桐蔭学園高校の主将として、全国高校ラグビー大会で2連覇を達成。鳴り物入りで早稲田大学に入ると、春からナンバーエイトのレギュラーとなった。将来的にはフッカーでのプレーも希望するが、いまは高校時代からの定位置で躍動する。

 今季就任した元日本代表スタンドオフの大田尾竜彦監督は、佐藤のよさについてこう言及する。

「彼の1番の特徴はプレッシャーゲームに強いことかなと。単体で見たらそんなに足も速くないですし、凄くいいタックルをするわけではない。ただ、きょうみたいなプレーをプレッシャーゲームで必ずやってくれる。それが彼の一番の強み。あと、ボディコントロールがよくなった。倒れそうな瞬間でも上半身を自分でコントロールできる。あの辺りは成長したかなと」

 要は、大一番での強さが最大の特徴なのだという。実力を発揮する実力。それは先天的な資質によるものが多いのか、それともコーチングで伸ばせるものなのか。理論派の指揮官は言う。

「もともと持っている素質もありますよね。(コーチングで)伸ばせるんですが、持っていなかったら時間はかかります。例えば小泉(ウイング)、松下(怜央=アウトサイドセンター)は非常にいい能力を持っていたんですが、去年の出場時間は少ない。なぜか。プレッシャーに弱いと評価されていたんです。指導者にとって嫌なのは、当たり前のことを当たり前にやれなくなる選手が何人出てくるか…ということ。それも計算はするんですが。

 きょうの小泉と松下は非常によかった。これは、コーチングで補えることです。ただ、佐藤はそれ(圧力下で活躍する資質)をもともと持っている」

 本人はこうだ。

「プレッシャーには強いのかもしれないですが、あまりすごく強いとは思っていなくて。ビッグマッチで、まず試合を楽しもうとは決めていた。それがプレッシャーを受けないメンタルにつながったのかなと」

 佐藤は高校時代から、ラグビーノートをつけている。練習内容の振り返りや試合へのテーマなどを整理。常に平常心でいられるのは、自分と向き合っているからだ。大舞台への強さは、自己鍛錬で磨いたものとも言えそうだ。

——試合の話題に戻ります。先制されてから勝ち越されるまでの心境は。

「トライを取られた瞬間は『うわ、やべー』って感じでしたが、そんなに焦ることもなく。(副将の小林)賢太さん、(スタンドオフの伊藤)大スケ(示すへんに右)さん、河瀬(諒介=フルバック)さんが『自分たちのアタックしていればトライは取れるから』とうまくまとめてくださった。あまり不安はなく、自由にプレーできました」

——スクラムのダイレクトフッキング(地面の球をすぐにかき出す動き。自分ボールで劣勢だった際に有効)は練習したのは。

「フォワードとしては明治のスクラムに対しても自分たちの間合いで組むことを目指しましたが、勝つためにダイレクトフッキングという選択をした。それが、いい方向に転んだのでよかったとは思いますが、もっとスクラムで課題が出た。それを選手権で修正したいと思います」

 これで対抗戦は終了。日本一を争う大学選手権には、26日から登場する。

「初めての選手権。雰囲気はわからないですし、対抗戦とも違うものになると思うんですが、自分のやることは変わらない。あまり周りの環境に流されず、やるべきことを明確にし、毎試合、毎試合、自分のベストプレーができるように準備したいです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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