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30年前に解消したはずの自民党の派閥。領袖がサンタクロースだった時代から上納制度へ逆転したいきさつ

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
へっへっへ(写真:イメージマート)

 東京地検特捜部が年末年始休みを返上して自民党の派閥による裏金問題を追及しています。今月22日か26日開始とみられる通常国会前に果たして国会議員の摘発があるのか。

 ところで震源地となった「自民党の派閥」が今からちょうど30年前の1994年に解消されたのをご存じでしょうか。なぜ復活し、どうして裏金作りの舞台たり得たのかを論じてきます。(文中敬称略)

普通の人間関係に発する「派閥」で事務所は借りないしオヤジとも呼ばない

 人が集まれば派閥はできます。出身校による学閥や医師のジッツ(関連病院)、芸能界の○○ファミリーなど。でも自民党の派閥はこれらと大きく異なるのです。

 まず、好き嫌いや利害関係などでグループ(派とか閥とか)を形成しても正式名称を定めて事務所まで借りたりはしません。代表(的存在)がいても領袖(親分)と呼んだり「オヤジ」と擬似血縁関係を結んだりはしないはずです。

 例えば特捜部が家宅捜索した安倍派は総務大臣に届出られた政治団体「清和政策研究会」が正式名称で東京都千代田区に事務所を構えます。

 いずれも自民党という国政政党(政治団体でもある)内の組織。選挙の際には派にかかわらず「自民党公認」で戦うのが原則です。いわば「党中党」。他党にも主義主張や人間関係などに発する派閥的存在はみられるも自民のようなガッチリした組織ではありません。何でまた誕生したのでしょうか。

「党中党」というより「超政党と党」だった

 出発点から探ると自民党と派閥は「党中党」というより「超政党と党」と称した方が正しそうです。

 1955年の結党が、そもそも自由党日本民主党という異なる政党による合同でした。結成後、自由党系を束ねていた吉田茂が発掘した池田勇人佐藤栄作(両氏とも後に首相)が創設した派閥が以下のように続いています。

自由党系

池田派→現在の岸田文雄派麻生太郎派谷垣禎一グループ

佐藤派→現在の茂木敏充派

 他方の日本民主党系岸信介派の系統が安倍派として存続しているのです。

 二階俊博派森山裕派は少々複雑。民主党系の中曽根康弘派が代替わりした渡辺美智雄派が渡辺の死後に分裂。多くを率いて独立した山崎拓派が森山派。山崎と袂を分かった村上正邦らと、岸派の流れを継いでいた三塚博派から飛び出した亀井静香らが合流した「村上・亀井派」が源流で、さらに自民と連立していた保守新党に属していた二階が加わって今に至っています。

中選挙区時代の同一選挙区の自民候補は仲間かつライバル

 55年の結成から93年の細川護熙非自民連立政権まで自民党はほぼ単独で与党の座へドッカリ。当時の衆議院は中選挙区制で1選挙区に3人から4人(例外的に2人と5人)が当選する仕組みで、これが派閥を必要とする最大の要因でした。

 与党を保つには過半数が必要となります。例えば4人区だと自民候補2人当選で半数。3人で過半数です。ゆえに同一選挙区に自民党公認が複数立たないといけません。

 何人いようと看板が「自民党公認」には違いなく、政策の違いで競うには限界がある。同一選挙区の自民候補は仲間かつライバル。相手を蹴落として野党多数になっても、協力しすぎて埋没して自分が落ちても愚の骨頂。政策で差をつけるのも難しいので選挙民へアピールする案配をどうするのか難しい。

御恩と奉公で領袖を総裁(≒首相)に

 ここで自分が何派かというので旗幟を鮮明にしようと試みる工夫が意味を持ちます。各派の領袖は1人でも勢力を増やそうと公認候補を出せと本部に迫り、選挙戦ともなれば自派の特に新人や若手など地盤が不安定な候補に御恩とばかりに物心ともに肩入れするのです。

 典型的なのが旧群馬3区(4人区)。後にすべて首相まで上り詰めた福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三の3人が別の派閥で争いました。残りの1席が野党です。

 かくして勝ち上がった数がイコール派閥の勢力となり、今度は世話になった側が粉骨砕身して領袖を総裁(≒首相)に押し上げるべく滅私奉公します。

 この時代の派閥とは領袖がカネをかき集めて配るサンタクロース役。政治資金パーティーは献金が小さく選挙も弱い新人などが行う窮余の策で、それでも足りないと領袖が「草刈り代」などと称したカネで面倒を見てくれたのです。

94年に派閥解消も98年には復活

 それはそれで金権政治には違いなく派閥の弊害として指摘され続け、初めて野党に転落させられた細川政権の誕生を許した大きな要因となりました。そこで若手を中心として派閥解消を党再生の切り札として次回総選挙で巻き返そうという声が党改革本部を根城に沛然とわき起こり、激しい党内論争へ発展したのです。一時は領袖同士の会合も派閥研修会も許さない雰囲気でした。

 カンカンガクガクの議論の末、94年、ちょうど30年前に「派閥解消」決定。メディアの記載も「旧○○派」でほぼ足並みをそろえました

 でも少々変ですよね。派閥が解消したならば「旧○○派」を使用する必要もないはずですから。何の役割も果たさなくなるとまで思わなかったがゆえの便宜上の措置だったのです。

 というのも非自民政権は長続きせず94年に長年のライバル日本社会党を引っこ抜いて村山富市党首を首相とする自社連立という奇策で政権を奪還していたから。

 98年には「旧」統一も止めました。同年に旧宮沢派が加藤派へ、旧三塚派が森派へと衣替えし、旧渡辺派から山崎派が独立したから。新しい領袖を戴く派閥が3つもできたのに「旧三塚派から旧森派が誕生」という表現は奇妙というのが最大の理由です。

小選挙区制導入で役割が大きく変わる

 ただ派閥の役割は細川政権で成立して今に至る衆議院小選挙区比例代表制(96年総選挙~)で大きく変わりました。小選挙区では1人しか当選しないから自民党公認も1人。中選挙区のように同一選挙区で身内と戦うややこしさが消滅して堂々と野党や無所属のライバルをコテンパンにすればよくなったのです。

 候補者は総裁(≒首相)が支配する官邸と幹事長を中心とする党執行部が決めるようになっていきます。中選挙区時代のように派閥でバランスを取らなくてもよくなって、その意味での役割は大きく後退したのです。「超政党(自民)と党(派閥)」から「政党(自民)と親睦団体(派閥)」への変容とも言い換えられそう。

小泉改革1 派閥推薦名簿から順送りでの組閣停止

 決定的であったのが2001年に首相となった小泉純一郎の登場。同じ派閥の領袖でもあった森喜朗首相退陣に基づく総裁選で「脱派閥」を唱えて森派を離脱して挑み、本命視されていた橋本龍太郎元首相らを破って当選しました。

 もっとも小泉が生粋の派閥嫌いでなかった点は押さえておきたい。彼が嫌っていたのは佐藤派後継の竹下登派の流れ(いわゆる「竹下派支配」)です。橋本がまさに当代の領袖で何としても阻止したい。ただ不人気で去った森の派閥から出ては勝ち目もないという打算も十分にあったのです。

 この作戦が大成功して勝った以上は「脱派閥」を貫くしかなく組閣で今までの派閥による推薦名簿から順送りするのを止めました。もっとも橋本派の大臣を5人から2人へ削減するなど「竹下派支配」撲滅にも余念はなかったのですが。

小泉改革2 造反者に差し向けた刺客を無派閥に

 さらに05年、小泉の「虚仮の一念」と目されていた郵政民営化法案が参院で否決されるや、ためらいなく衆院を解散。衆院本会議で造反して反対票を投じた37人を総選挙で公認しないばかりか賛成派を「刺客」として主に無派閥新人として送り込む熱狂の「郵政選挙」を現出したのです。

 造反した衆院議員の内訳をみると旧橋本派(※注)16人、亀井派(現二階派)12人と突出。中選挙区時代は首相へ公然と反旗を翻す「反主流派」もあったが、公認権が最終的に総裁へ移った小選挙区制導入以降だと最大規模の抵抗です。

 総選挙で小泉は勝利して「刺客」を含む初当選者約80人の大半となる約60人が小泉の推奨する無派閥(俗称「小泉チルドレン」)として一大勢力となりました。

 ただ小泉政権約5年で国務大臣以外の副大臣や大臣政務官計約50人は従前通り派閥順送りを継承。同制度を推進した小沢一郎(かつて「竹下派支配」の中核)と小泉は宿敵で、さしたる興味を抱かなかったもようです。

副大臣と政務官ポストで陣笠や中堅は十分おいしい

 この経緯が今日の派閥の性格を決定づけます。構成員が「オヤジ(領袖)を首相に」と汗をかき、領袖がサンタとなってカネとポストの面倒をみるという図式は一変し、わずかに副大臣と政務官ポストを差配するに止まるようになったのです。

 結果、「オヤジ」イコール次期総裁候補でなくてもよくなりました。主要6派閥のうち該当しそうなのは空席の安倍派と現職の岸田派を除くと茂木幹事長ぐらい。

 カネの流れは「上から下」から「下から上」へ逆転しました。口が悪いのを承知でいえば上納制度へ変貌したのです。

 それでもなお派閥を維持しているのは差配される副大臣と政務官ポストで陣笠や中堅は十分おいしいのと、自身の無名の旗を振ってもカネが入らなくても派閥名でのパーティー券ならばネームバリューがあって売りやすいから。ゆえにノルマ以上の集金をキックバックしたり、自身に残したりするシステムが出来上がったと推測されます。

※注:橋本が前年に起きた日歯連闇献金事件への関与が疑われて領袖を退き後任が決まっていなかった

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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