即衆院解散から任期満了まで、考えられる7つの総選挙日程シナリオ
菅内閣が誕生し、永田町の関心は衆議院解散総選挙の時期に移りつつあります。安倍内閣を前提とした解散総選挙スケジュールはこれまで何度となく述べてきましたが、菅内閣となったことでさらに状況が変わりました。今の時点で考えられる選挙のスケジュールについて、シナリオ別に解説をしていきたいと思います。
まず、言い訳めいた表現になることを承知で申し上げますが、選挙コンサルタントの仕事とは、「解散時期を予想するもの」ではなく、「複数の解散総選挙シナリオに対して最善のプランを用意すること」です。もちろん、想定されるシナリオの可能性に高低があるとはいえ、選挙解散の判断も時により変わるわけですから、特定のシナリオだけを想定して対策を練るのではなく、柔軟に変更可能な対策を練る必要があります。
【1】10月13日公示〜25日投開票
安倍政権下でも言われていた10月13日公示〜25日投開票の日程は、既に可能性としては消えつつあります。この日程で総選挙をするには9月末までには国会を再度召集して解散を行う必要がありますが、現状では臨時国会が終わったばかりであり、次の臨時国会では日英通商関係や総理の演説など最低限こなす日程もあることから、もはや現実的ではありません。仮に万が一この日程で行われることになれば、野党共闘態勢はまだ準備が不十分な状況でもあり、かなりタイトなスケジュールの中でギリギリの調整を行う必要が出てくるでしょう。大阪では都構想の住民投票時期と被ることから、並行した選挙戦になることが見込まれ、自民党大阪府連にとっては厳しい選挙になることも考えられます。
【2】11月10日公示〜22日投開票
新たに言われている最速スケジュールが、この11月10日公示〜22日投開票です。次の臨時国会は10月中旬から後半に召集される見通しとなっており、菅総理の所信表明演説や日英通商の条約承認などを行うためには少なくとも1週間程度の日数が必要です。仮に10月末に解散すれば、11月10日公示となることが想定されます。11月22日は大安(前回総選挙投開票日の2017年10月22日も大安)ですし、3連休の中日となり投票率は下降傾向の目論見となります。今回の選挙戦で、野党共闘態勢が確立される見込みの都市部での投票率が上がることは与党にとっては不都合なため、この日程を選ぶことも考えられます。ただし、11月16日には2020年7-9月期のGDP速報値(1次速報)が出されることから、経済指標が厳しければ選挙期間中に与党はダメージを受けることにもなります。
【3】11月24日公示〜12月6日投開票
もっとも、臨時国会の中身によっては、国会日程が更に伸びることも考えられます。安倍内閣の遺産ともなった予備費はまだ数兆円規模で残っているために補正予算を再度組む必要はなさそうですが、それでも新型インフル特措法の改正や、党首討論などを日程に入れようとすれば、12月に選挙が伸びる可能性もあります。亜種として12月1日公示〜12月13日投開票なども考えられますが、冬になればなるほどコロナ感染症の再拡大(いわゆる第3波)の可能性も高くなる危険を孕んでいます。もっとも、第3波が与党にとって必ずしも悪影響とは言い切れない事情もあります。経済施策のための予備費はまだ比較的潤沢に用意されており、第1波の頃よりも対策の知見がある状況において、国民の不満が高まることは想定しづらい状況です。投票率が下がれば与党にとっては好都合ということも踏まえれば、第1波、第2波を大きく越えるパンデミック的状況にならない限りは解散を断行するという見方もあります。
【4】2021年通常国会冒頭解散
いずれにせよ、来年1月には通常国会が開会します。デジタル庁創設や不妊治療に対する保険適用など、総裁選の目玉政策はこの通常国会で審議されるものと思われますが、実質的な予算審議に入る前に国民の信を問うた上で、国会論戦に臨むという考えもあります。
ただし、この日程の場合は年をまたぐことから、野党が更に合従連衡を行い新体制になっている可能性があるほか、1月という時期から考えればコロナの状況もより心配です。
【5】予算通過後
令和3年度予算策定は、予算概算要求がそもそもコロナ禍で1ヶ月遅れとなっているほか、策定途中に内閣が変わるという状況もあり、霞ヶ関は大変厳しい状況にあります。その中でも菅内閣の目玉政策をきちんと予算通過させた後に、解散総選挙という考えもあります。そうなると3月中か4月頭の解散となり総選挙は4月中ということになるでしょう。
4月となると、一般的には地方議会議員選挙や首長選挙が多い時期であり、組織票を持っている政党にとっては有利に働きます。一方、東京都議会議員の任期満了が来年7月となっていることから、公明党への配慮として来年3月から4月の選挙となると、日程の細かい調整が必要になるかも知れません。
【6】国会閉会直前
通常国会は延長が無ければ6月に終わります。予算通過の後も各種経済施策に関連する審議などが行われるようであれば、国会閉幕前に解散総選挙というのが実質的に最後のタイミングとも言えるでしょう。ただ、東京五輪開催可否によってこのスケジュールは実現可能性が大きく変わるほか、東京都議会議員選挙とダブルとなる可能性もあることから、この時期のコロナの状況と合わせて、多方面への影響を考えなければならないでしょう。
また、菅総理の自民党総裁としての任期は来年9月まで、衆議院議員の任期は10月21日までとなっています。総裁選を先に行ってから任期満了を迎える方法もありますが、次の総裁選は党員投票による通常の総裁選を行う可能性が高いと思われます。そうなると総裁選の準備から投票までに2ヶ月程度かかることから、やはり国会閉会直前に衆議院解散総選挙を行った上で勝利を収め、総裁を変える必要がないということを証明するというストーリーが成り立ちます。
【7】任期満了
最後に、任期満了での総選挙です。現憲政下でのこれまでの任期満了選挙はわずか1回。ただし、今回はコロナ禍という異常事態がありますから、任期満了による「追い込まれ」との指摘を受けない可能性はあります。実際、菅内閣誕生時にも「仕事をしたい」とのコメントを残していることから、再度の総裁選を戦った上で総選挙を迎える可能性もあります。1年という時間の中で菅内閣がどれだけの実績を残せるかが戦いの焦点となるほか、コロナのワクチンが完成(接種開始)しているかどうかも鍵となるでしょう。
以上、ここまで7つの選挙スケジュールシナリオをみてきました。時の総理だけが決めることができる解散時期、衆議院は常在戦場ですからいつ選挙があってもおかしくありません。それぞれのシナリオにコロナや政策実行状況などの要素が絡み合って選挙が決まることでしょう。選挙の時期にも必ず思惑がありますから、こういった思惑や政権与党の検討状況を観察しつつ、選挙時期の報道を読み解くと面白いかも知れません。