「まつこの部屋」へようこそ 秋田の終着駅のマドンナに会いに行く旅
秋田県の由利高原鉄道はJR羽越本線の羽後本荘駅から分岐する第3セクター鉄道。
国鉄時代の赤字ローカル線だった矢島線を地元が引き継いだ路線です。
先日お邪魔した時には「七夕列車」が走っていて、沿線地域の子供たちのメッセージが車内に飾られているなど、地域に密着した鉄道だということがよく分かります。
驚いたのは7月初旬の平日というシーズンオフにもかかわらず、団体客が2グループ、合計65名も乗車していたことで、2両編成の列車はほぼ満席の状態でした。
▲列車の中では秋田おばこ姿のアテンダントさんが、沿線の景色や由利高原鉄道のご案内をしてくれます。
車内ではアテンダントさんから桜茶のうれしいサービスを受けながら約40分で終着駅の矢島に到着しました。
矢島駅に到着すると、乗車してきた団体のお客様がバス2台で出発です。
アテンダントさんは列車から降りたらその足で団体のお客様をお見送り。
心のこもったサービスです。
で、この写真に写っている2人のおばこ姿のアテンダントさんではなくて、もう一人、大きく手を振っていらっしゃる白い和服の女性が矢島駅のマドンナ、まつこの部屋の佐藤まつ子さんです。
由利高原鉄道の矢島駅のまつこの部屋の佐藤まつ子さん(71)。
まつ子さんは矢島駅の待合室の一角を借りて、もう30年も前から鉄道のお客様のおもてなしをしていらっしいます。
もちろん本物のマツコさんにもお会いになられて、テレビにも出演された経験もおありです。
その時の写真が貼ってありましたので、お聞きすると。
「まつこの部屋と言えば、私の方が本物なのよ。何しろ、もう30年もここでやってるんですから。」
と笑顔でそう言われました。
地元の駅を何とか賑やかにしよう。
せっかくいらしていただいたお客様に思い出を持っていただこうということで、駅舎の一角を借りて30年。
矢島駅に列車で降り立ったお客様にお茶のサービスなどのおもてなし。
列車で出発されるお客様にお見送りなど、長年頑張っていらっしゃるのです。
「手は抜いちゃだめなのよ。」
まつ子さんは続けます。
「団体さんはお相手するけど、個人のお客様は知らん顔とか、できません。どなたにも精一杯のおもてなしをしなければ。お客様はわかってしまいますから。この矢島まで、遠くからいらしていただけるって、ありがたいことですよ。鉄道にも往復の運賃が入るんだからいいじゃないですか。」
その言葉からは地元愛と由利高原鉄道への愛を感じます。
まつ子さんは由利高原鉄道の職員ではありません。
駅の一角を預かってお客様のおもてなしをされている云わば応援団の地元代表です。
そして、ほぼ毎日、駅に立ってお客様との会話をされています。
筆者もそうですが、わざわざまつ子さんに会いに、由利高原鉄道に乗って矢島駅を訪ねるお客様も多くいらっしゃるようです。
列車が発車する時、まつ子さんとおばこ姿のアテンダントさんのお見送りです。
手にする旗には筆者が先ほど手渡した名刺の名前と肩書が書かれています。
わずかな時間に、サッと、このような対応をされるまつ子さん。
「手を抜いちゃだめなのよ。」
この言葉は、こういうことなのですね。
やがて列車が発車すると、ホームで大きく旗を振ってお見送りです。
その旗振り、手振りは、列車が見えなくなるまで続いています。
「手を抜いちゃだめなのよ。」
心を込めて精一杯おもてなしをする。
ローカル線と観光に携わる筆者として、まつ子さんから大切なことを教えていただいた旅でした。
筆者の手元には由利高原鉄道のお土産が。
ローカル線って、運賃収入だけじゃなく、お土産の販売も大切な仕事です。
そして、思わず手に取って買いたくなるような商品が揃っているということも、おもてなしとして大事なことなのではないでしょうか。
何の変哲もない水田地帯を走る列車。
全国区になるような名所旧跡などなくても、今の時代は終着駅のマドンナに会いに行くことだって、立派な「旅」なんですね。
鳥海山を見ながら列車に揺られる40分の旅。
皆様もぜひ、秋田の由利高原鉄道にご乗車ください。
のんびりとした田舎の汽車の体験が待っています。
※注
・矢島駅のまつ子の部屋はお休みのことがありますのであらかじめご了承ください。
・まつ子さんの活動は由利高原鉄道ホームページの「おばこブログ」にてご確認いただけます。
・由利高原鉄道の列車でアテンダントが乗務する列車は、8D(矢島9:40発羽後本荘行)、7D(羽後本荘10:43発矢島行)、その他貸切列車となります。
本文中に使用した写真はすべて筆者が撮影したものです。