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感染拡大が止まらない中国でコロナ対策破りは市民の反発か?

宮崎紀秀ジャーナリスト
上海では多くで外出制限が続く(2022年4月3日上海)(写真:ロイター/アフロ)

 一時期はコロナを抑え込んでいた中国だが、ここにきて感染拡大の勢いを止められず、各地の衛生当局は苦戦を強いられている。ゼロコロナ政策を堅持する中国だが、それに反発するような市民のコロナ対策破りも頻発している。

上海女性の涙ながらの訴えとは

 中国の国家衛生健康委員会によれば、4月9日に海外からの流入を除く中国国内での新たな感染者は、無症状感染者も含めると2万6355人。感染は各地に亘っているが、中でも中国最大の経済都市、上海での感染者が最も多い。同日の新規感染者のうち2万4943人は上海での感染確認だった。

 その上海では多くの地域で外出制限が続いている。

 中国人の知人がSNSで送ってくれたのは、上海に住んでいると語る女性が、涙ながらに訴える映像だった。女性によれば、居住地区で感染者が出たため、外出制限され家に閉じ込められたが、その後、家族が次から次へと感染。だが治療や外からの助けが得られなかったと彼女は訴えていた。

 上海では、急遽コンテナ病院が建設され、他の都市から大規模な医療チームが派遣されるなどしたが、そうした対応も後手に回っていた可能性がある。

警察はドローンで市民を監視

 市民の不満は、コロナ対策破りにつながりがちだが、中国メディアによれば、上海の警察はヘリコプターやドローンで市民を監視しているという。それらの手段によって、外出制限地域で戸外を散歩したり集まっておしゃべりをしていたりという違反を250件以上発見したという。

 ゼロコロナ政策を続ける中国は、防疫対策にほころびを与える者たちを厳しく取り締まる必要がある。中国当局やメディアが、具体的な事例をあえて紹介するのは、市民への警鐘を鳴らすためだ。

 例を挙げればきりがない。

隔離に抵抗した代償は...

 四川省のある男性は、3月31日に数カ所を訪問した後、自宅に戻ったところ地元の管理組織から自宅待機を求められた。決まりでは3日間で2回のPCR検査を受けなければならなかったが、男性はこれを無視して勝手に友人を訪ねるなど、12時間余り外出した。コロナ対策破りである。男性は、5日間身柄拘束された。

 同省の別の49歳の男性は、コロナ感染者の濃厚接触者の濃厚接触者と判断された。集中隔離の下で医学観察の対象になるが、男性はこれを拒み刃物で自傷したり、頭を壁に打ちつけたり、建物から飛び降りたりしようとするなどして、3時間ほど抵抗した。この間、防疫担当者らを押したり罵ったりもした。さらに隔離場所に連れて行かれた後も、言うことを聞かず部屋に入るのを拒み、担当者を脅したり蹴ったりした。これまたコロナ対策破りである。男性は10日間身柄拘束された。

トラック運転手の救世主?

 山西省は炭鉱業が盛んだ。その山西省では、石炭を運ぶトラックの運転手たちのPCR検査の結果を偽造した者が罰せられた。

 結婚式のビデオなどを撮影する映像制作会社の梁という人物は、一人のトラックの運転手から、すでにあるPCR検査の報告書の検査日時を改ざんできるか相談を受けた。梁は、映像ソフトを使って検査の日時を改ざんし、病院の印鑑の色を調整するなどした上で、ニセの検査報告書を印刷してやった。報酬としてこの運転手から5元(約97円)受け取った。

 都市や省を跨ぐ移動に際し、48時間や72時間以内に受けたPCR検査の結果の提示を求められることがあるが、移動の多い運転手にとっては検査を受け直す手間を省きたかったのだろう。

 すると、この梁の存在が運転手仲間で話題となり、運転手たちはこぞって梁とSNSでつながる「お友達」となりたがった。

 梁は、その運転手たちからSNSを通じて必要な資料を受け取り、1部5元でPCR検査の報告書を偽造してやったという。

 梁は、2021年8月から10月までに252人分のPCR検査報告、合わせて621部を偽造し、3105元(6万500円余り)を得た。梁は2月に裁判で1年6か月の懲役、罰金6000元(約11万7000円)の判決を受けたという。

 梁がこの犯罪に手を染めた時期は、今回のコロナ感染拡大の前だが、中国当局やメディアが、この事件を取り上げたのも、コロナ対策破りに対する厳格な処罰を市民に再認識させる目的だろう。そのやり方が、コロナ発生当初を彷彿とさせるのは、すでに2年以上年厳しい対策に耐えてきた市民の緊張のネジを巻き直す、といったところだろうか。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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