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ニッポン俳優名鑑 速水もこみち『はじめまして、愛しています。』 軽薄なイケメンであり続ける美学?

成馬零一ライター、ドラマ評論家

成馬零一のニッポン俳優名鑑

Vol.01 速水もこみち 出演作『はじめまして、愛しています。』

テレビドラマに善く出ている俳優の人気の秘密はどこにあるのか? ドラマ評論家の成馬零一がゆるやかに分析する。

重い俳優と軽い俳優の違いは何かと考える。

もちろん、体重の話ではない。演技の話だ。

重い俳優というのは、今期のドラマなら、『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系)で主演を務めている藤原竜也だ。

彼の演技は重い。一挙手一投足に意味を込めていて、腹からしぼり出すように声を出す。

故・蜷川幸雄に鍛えられた芝居に対するこだわりと哲学が彼の中にあるのだろう。

だから彼は修行僧のようにストイックに演技に没頭する。

逆に「軽いなぁ」と思うのが、今回とりあげる速水もこみちだ。

速水もこみちは存在自体が軽くて薄っぺらくみえる。

速水というイケメン風の苗字と、“もこみち”というひらがなの名前による印象もあるだろう。

186cmという高身長。日焼けした肌、白い歯が見えるさわやかな笑顔。あらゆるパーツがイケメンとして完璧だ。 

その分だけ、悩みが何もなくて、物事を深く考えていないように見られている。

かつて、胸の大きな女性は頭が悪いと思われていたのと同じように

多くのイケメン俳優は「見た目がいいだけで、何も考えていない」という偏見を持たれている。

もちろんその背景には「見た目だけで女が寄ってくるのだろう」という、やっかみの目線がある。

中身がないと思われることをおそれて多くのイケメン俳優は「俺はただのイケメンじゃない。ちゃんと深いことを考えているのだ」と言わんばかりに、演技や芸術活動など、見た目以外の長所をアピールしようとする。

もこみちにも、今や俳優業以上のアピールポイントとなった「料理が得意」という長所がある。しかし、もこみちは料理をはじめたきっかけを「料理ができる男はモテる」と聞いたからと公言しており、彼の軽薄なイメージを倍増している。

朝の情報エンタテインメント番組『ZIP!』(日本テレビ系)内に料理コーナー「MOCO'Sキッチン」を持ち、レシピ本が高く評価されているもこみちだが、料理一筋とアピールせずに、軽薄なイケメン俳優であり続けようとするところに「もこみちの美学」を感じるが、単に何も考えていないだけかもしれない。

軽薄なイケメンキャラを演じ続けてきたもこみち

役者としてのもこみちは、2005年の『ごくせん・第2シリーズ』(日本テレビ系)の不良役でブレイク。その後、様々な役を演じているが、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(TBS系)のイケメン御曹司の刑事・中川圭一や、『絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~』(日本テレビ系)のヒロインを守るイケメンアンドロイド・天城ナイトといった、本人のイメージどおりの役が記憶に残っている。

個人的に良かったと思うのは、『ハンマーセッション!』(フジテレビ系)で演じた偽物の教師を演じる天才詐欺師だ。これは、もこみちの持っている「軽さ」がいい方向に働いていた。ドラマとしての評判は悪かったが『地獄先生ぬ~べ~』(日本テレビ系)で演じた人間の教師に化けている狐の妖怪・玉藻京介も、ドラマの安っぽさに馴染んでいて、ハマっていると思った。

近年、役者としてのもこみちの使い方でもっとも面白いなぁと思うのは遊川和彦・脚本のドラマだ。

現在放送中の『はじめまして、愛しています。』(テレビ朝日系)では、夢を追っているけど、長続きせずに夢をコロコロ変えては、定職に就かずに家族を心配させている男を演じている。優しくて決して悪い奴ではないのだが、言うことと行動が、いちいち薄っぺらく、母親が入居している老人ホームのヘルパーを妊娠させても、責任をとろうとせずに逃げ回っている。

過去に、もこみちは『リバウンド』(日本テレビ系)と、連続テレビ小説『純と愛』(NHK)の二作の遊川ドラマに出演しているが、演じているキャラクターは、女にモテるけど、仕事ができなくて優柔不断なダメ男とパターンが決まっている。

もちろん、自分のダメさに悩んで、最終的には変わろうとするのだが、「いやぁ、オレ、顔がよくてモテるんだけど、バカだし何もできないんだよねぇ」という感じの台詞を軽く言うので、深刻さが感じられず、見ていて応援したいという気持ちにあまりなれないのが大きな特徴である。

他の配役より一歩踏み込んでいるのは、速水もこみちに世間が漠然と抱いている「カッコいいけど、こいつは中身が何にもないんじゃないか?」というイメージを露悪的に演じさせているところだろう。ともすればイメージダウンになりかねない危険な配役――その割に演じたからといって玄人筋から評価されることは滅多にない――だが、もこみちは嬉しそうに演じており、遊川ドラマの常連となりつつある。

現在もこみちは32歳。よほどのイメージダウンとなるスキャンダルでもない限りは、今のポジションは当分安泰だろう。

もこみちの軽さは稀有なもので、このまま軽薄なキャラを維持し続ければ、いずれは高田純次や所ジョージのようなおじさんになるかもしれない。

案外、簡単に芸能界を辞めて、料理店を開いたりするのかもしれないが、その時は遊びに来る感覚でもいいので俳優業を続けてほしい。

ライター、ドラマ評論家

1976年生まれ、ライター、ドラマ評論家。テレビドラマ評論を中心に、漫画、アニメ、映画、アイドルなどについて幅広く執筆。単著に「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」(宝島社新書)、「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」(河出書房新社)がある。サイゾーウーマン、リアルサウンド、LoGIRLなどのWEBサイトでドラマ評を連載中。

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