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天然資源を無駄遣いしない。廃棄衣料から新しい服を、動物の細胞から肉を。未来を変えるための挑戦。

杉谷伸子映画ライター
(c)CHEEKYMONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 202

店頭に衣類回収ボックスが

設置されていないのが不思議になる。

持続可能性が叫ばれて久しいが、本当に持続可能な社会を実現させるためには、日常の小さなことの積み重ねも大切なだけではなく、新しいインフラやシステムが必要。その思いを強くする「エシカル・ライフ・シネマ特集」が開催中だ。

上映されているのは、『リファッション〜アップサイクル・ヤーンでよみがえる服たち』(原題:reFashiond)と『ミート・ザ・フューチャー〜培養肉で変わる未来の食卓〜』(原題:MEAT THE FUTURE)の2本のドキュメンタリー。

『リファッション』がフォーカスするのは、世界でも有数の人口密集地であり、ゴミの埋立地が増え続けている香港で持続可能な社会を作ろうとする人々の挑戦。

エドウィン・ケーが率いるプロジェクトには、H&Mや地元企業が協力。(c)CHEEKYMONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 2021
エドウィン・ケーが率いるプロジェクトには、H&Mや地元企業が協力。(c)CHEEKYMONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 2021

世界の廃水の20%、二酸化炭素排出量の10%をファッション産業が占めるなか、繊維メーカーと共に廃棄衣料から水と薬品を使用せずに撚糸を作り、アップサイクルで新たな服を甦らせることに挑戦する「香港繊維アパレル研究所(HKリタ)」のCEOエドウィン・ケー

高級子供服に特化した古着のオンライン・プラットフォーム「リタイクル」を創業したサラ・ガーナー。

新しい布や糸にアップサイクルすべくペットボトルを回収する「Vサイクル」を起業したエリック・スウィントンは、廃品回収業の高齢者たちに公正な賃金でペットボトルの分別作業を依頼することで、プラごみ問題と同時にもうひとつの社会問題も解決しようとする。

彼らの活動に共通しているのは、意識を変えることの大切さ。その問題意識に共感する人々が現れ、挑戦がかたちになっていくのを見守るだけでもワクワクするし、香港に50年ぶりに新たな工場を稼働させることになるHKリタのプロジェクトは、中国の改革開放政策前は工業が盛んだった香港を、アップサイクルという新たな産業の拠点にしようという意気込みが、未来に希望を抱かせる。

エリック・スウィントンは、ペットボトルの分別でもうひとつの社会問題も解決しようとする。(c)CHEEKYMONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 2021
エリック・スウィントンは、ペットボトルの分別でもうひとつの社会問題も解決しようとする。(c)CHEEKYMONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 2021

着なくなった服をリサイクルに出したり、リメイクしたりして長く使っても、いつかはその衣類の寿命が尽きる。そうなったときにせっかく回収しても、結局、ゴミとして埋め立てられるのでは意味がない。廃棄衣料を再生して糸や布を作り、そこから新しい服を作るという考えには賛同しかないが、こうした取り組みが直面するはコストという課題。

その課題が1日も早く解決されることとともに、日本でもアップサイクルのための衣類回収に協力しやすくなるために、回収ボックスを常設してある場所が増えることを願うばかり。

ビル・ゲイツやリチャード・ブランソンが

投資するのもこれなら納得

生産コストが課題と言えば、それは培養肉も同じ。

『ミート・ザ・フューチャー〜培養肉で変わる未来の食卓』では、培養肉のスタートアップ企業「アップサイド・フーズ(旧メンフィス・ミート)」のCEO兼共同設立者のウマ・ヴァレティ博士が培養肉の開発に挑戦する姿を追いかけているが、なんと当初、1ポンドの牛ひき肉をメンフィス・ミートが作るコストは1万8千ドルだった。

起業前は心臓外科医だったウマ・ヴァレティ。(c)2021 LIZMARS PRODUCTIONS INC.
起業前は心臓外科医だったウマ・ヴァレティ。(c)2021 LIZMARS PRODUCTIONS INC.

世界の人口が増えつづけ、2050年までに世界の肉の消費量が2倍になると予測されるなか、従来の畜産方法では人々の食肉への需要に供給が追いつかなくなる。

けれども、動物の細胞から直接、肉を育てる培養肉なら、そうした問題を解決するとともに、食肉のために動物の命を奪うことなく、温室効果ガスの排出も減らして地球環境への負荷軽減に役立つ。

そもそも心臓外科医だったヴァレティ博士のそうした理念に共感して集まった科学者たちが、自分の知識と技術を未来のために役立てようとする姿はまさに胸アツだ。

食感や美味しさも追求中。(c) 2021 LIZMARS PRODUCTIONS INC.
食感や美味しさも追求中。(c) 2021 LIZMARS PRODUCTIONS INC.

なにより、培養肉がどういうものなのかがとてもわかりやすいのが本作の魅力。ヴァレティ博士の理念とあいまって、培養肉というまだ身近ではないものへの警戒を解いてくれる。そこには、ビル・ゲイツやリチャード・ブランソンらが投資するのも納得だと頷かせる説得力がある。動物性タンパク質を欲する人なら、培養肉の未来には興味を抱かずにいられないだろう。

『リファッション〜アップサイクル・ヤーンでよみがえる服たち』

監督/ジョアンナ・バウワーズ

『ミート・ザ・フューチャー〜培養肉で変わる未来の食卓』

監督/リズ・マーシャル

恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺ほかで公開中。全国順次公開。

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『SCREEN』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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