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築98年の木造駅舎が残る妙見の森ケーブルの始発駅 能勢電鉄鋼索線 黒川駅(兵庫県川西市)

清水要鉄道ライター

北極星信仰の聖地としての長い歴史を持ち、都会からの近さゆえにハイキングの行き先としての人気を集める能勢妙見山。その地で60年以上に渡って走り続けてきたケーブルカーが、あと2ヶ月で姿を消す。今回は妙見の森ケーブルの2つの駅のうち、山麓側の黒川駅を紹介しよう。

改札口
改札口

能勢電鉄妙見線の終点・妙見口駅から徒歩20分、大阪府と兵庫県の県境を越えてまもなく現れるのが黒川駅だ。国道477号線から入った道の突き当りにあり、駅の背後の急斜面には2本のレールが伸びているのが遠くからでも見える。駅舎は開放的な造りで、入ると正面が改札口、右手が切符売り場だ。左手には年季の入った木製ベンチが置かれている。

駅舎内
駅舎内

駅舎は古いもので、おそらく大正14(1925)年8月1日の妙見鋼索鉄道開業時に建てられたものだ。戦前の絵葉書と見比べると増築で見た目は変わっているものの、駅舎自体は建て替えられていないようだ。開業時の駅名は「滝谷」だった。しかし、戦時中の昭和19(1944)年2月11日に不要不急線として廃止の憂き目にあう。復活するのはそれから16年後のことだった。

ホーム
ホーム

戦争によりその歴史の中断を余儀なくされたケーブルカーの復活は昭和35(1960)年4月22日。経営は能勢電鉄に替わり、駅名も「黒川」に改称しての再復活だった。車両も再開業時にナニワ工機で製造されたもので、今年で63年のベテランだ。ケーブルカーは急傾斜を走る関係から車内とホームも階段上になった造りで、普通の電車を見慣れている眼には物珍しく映る。車両の扉は手動で、発車前に外から施錠される。タイムカプセルのような古い車両に乗れるのもあと2か月だ。

ホーム上屋
ホーム上屋

ホームに架けられた屋根も木製の梁に支えられた年代物で、おそらく駅舎と同時に建てられたものだろう。ケーブルカーはその特殊性ゆえに普通鉄道ほどには施設の更新が行われない傾向にあり、古い駅舎や古い車両が残っているところも多い。妙見の森ケーブルもその一つだが、設備の老朽化が廃止理由の一つとして挙げられているのを考えると、古いものが残っているからと言って喜んでばかりいられないのも事実だ。

駅舎とホーム
駅舎とホーム

駅舎とホームを外から眺めてみよう。98年以上の歴史を刻んだ駅舎の後ろからはホームが斜め上へと突きだしている。ホームの基礎は石積みで、これまた歴史を感じられる造りだ。ホームの傾斜のキツさも横から見ると改めて実感できる。

ケーブル山上駅への急傾斜
ケーブル山上駅への急傾斜

ケーブル山上駅へは0.6キロメートル。229メートルの高低差を一気に駆け上がっており、再急勾配は424パーミルで、角度は約22度にも達する。黒川駅ホームの最先端に立って前方を見上げてみればその急傾斜に息をのむこと間違いなしだ。黒川駅の最終営業日は12月3日。これから廃止に向けてお名残乗車も増えることだろう。

鉄道ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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