日本と欧州のイージスアショア操作要員は訓練をハワイの実験施設で行う
3月15日の国会の参議院本会議で国民民主党の大野元裕議員が「イージスアショアは設置してから試し撃ちができるのか、それとも出たとこ勝負か」と質問し、岩屋防衛大臣が「設置後に試射することは考えていない」と答弁しました。
イージスアショアを日本海側に設置する以上、実射試験は行うことが困難です。日本海で行う場合には主な目標であるノドン弾道ミサイルを想定した標的ミサイルの十分な水平飛翔距離を取るためには、民間船舶の往来の多い海峡付近が使えないとなると、大陸沿岸まで接近してから標的ミサイルを発射しなければなりませんが、目の前で発射されてはロシアも北朝鮮も怒りだして無用な緊張を招きかねません。かといって標的ミサイルを太平洋側で発射して太平洋側に着弾させる想定の場合、SM-3迎撃ミサイルを日本列島横断させることになります。3段式のSM-3が切り離したロケット推進部分が落ちていくことを考えると、これもできません。標的ミサイルを太平洋側で発射して日本海に着弾させる日本列島横断も、できるならば避けたいでしょう。
またもう一つの問題として「ロシア軍が見ている目の前で迎撃試験を行って手の内を晒す」ということも避けたい筈です。北朝鮮軍の探知能力なら何が行われたか詳細に察知することはできませんが、ロシア軍ならば正確に記録されてしまいます。日本海で大規模な迎撃試験は行いたくありません。
同じような問題は欧州イージスアショアも抱えています。こちらは内陸なのでもっと問題が大きく、撃墜した時に発生する破片が陸地に降って来る可能性がどうしても避けられません。実戦ならば核ミサイルが着弾して起爆するよりは迎撃で破壊した破片の方がマシだろうという割り切りもできますが、実験や訓練で人口密集地に破片が落ちて来る可能性となると許容することができません。欧州イージスアショアも設置後の実射試験は行わない方針です。
標的ミサイルを極端なロフテッド軌道(山なりの軌道)で飛ばせば、狭い範囲に限定して高速目標に対する迎撃試験を行うことも可能ですが、ロフテッド軌道は攻撃側としても奇策であり、長距離ミサイルを近距離の目標に発射する贅沢な使い方なので、牽制に使うことはあるとしても主力で使ってくる飛ばし方ではありません。主力となる弾道ミサイル攻撃はやはり通常軌道で飛ばしてくるので、やはりこれに対する備えが必要です。
そこで日本と欧州のイージスアショアは操作要員の訓練をハワイのアメリカ軍のイージスアショア実験施設で行うことになっています。ハワイのカウアイ島にあるPMRF(太平洋ミサイル試射場)にはアメリカ軍のイージスアショア実験施設があります。またこのイージスアショア実験施設とは別個に同じ敷地内のARDEL(先進レーダー開発研究所)にロッキード・マーティン社の新型レーダーSSRの実験施設が作られる予定です。日本のイージスアショアと同じ仕様の施設ができるので、操作訓練はこちらでも行えます。
SSR仕様のイージスアショアはアメリカ軍以外が運用する初めての装備ですが、日本に引き渡す前にハワイで実射試験し、日本の操作要員も参加することになるでしょう。日本に設置した個体では実射試験は行いませんが、その点については欧州イージスアショアも同じなので運用上の問題はありません。設置後も操作要員の本格的な訓練はハワイで行うことになります。SM-3は非常に高価な迎撃ミサイルなので頻繁に実射訓練は行わず、本格的な訓練の場合でもほとんどは標的用の弾道ミサイルを飛ばして迎撃ミサイルは発射しないシミュレーション形式になると思われます。