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大阪府知事の「ボーナス返上」は、全国学力テストの目的を履き違えている結果でしかない

前屋毅フリージャーナリスト
吉村洋文・大阪府知事(写真:Motoo Naka/アフロ)

 吉村洋文大阪府知事は8月31日、夏のボーナス分を寄付することを表明した。理由によっては「美談」なのかもしれないが、今回の場合は「おかしい」と指摘するしかない。

 吉村知事がボーナスを寄付するのは、今年度の全国学力テストで大阪市の小学校が国語で最下位だったことが理由である。

 昨年度の全国学力テストで大阪市の小学校は、算数を除いて平均正答率が全20政令市中最下位だった。これを受けて、当時の大阪市長だった吉村知事は、次の年も最下位だったら自分の夏のボーナスを返上する、と宣言していた。その「次の年」が今年だったわけで、大阪市の小学校は今年、ほとんどの科目で最下位を脱したものの国語だけが最下位だったのだ。

 最下位は1科目だけだったのだが、吉村知事は記者会見で「約束したことだ」と述べて、知事としての夏のボーナス(約70万円)を府外の被災地に寄付する意向を表明したのだそうだ。被災地への寄付は評価すべきかもしれないが、どうにも釈然としない。

 次の年も最下位だったらボーナスを返上する、という市長時代の吉村知事の発言は、大阪市の小学校に向けられた「脅し」とも受けとれるものだ。成績を上げるために市長としての報酬をすぐに寄付した、というならならば理屈はとおる。その結果、最下位を脱したのなら、それはそれで「美談」でとおるかもしれない。

 しかし、「自分のボーナスがかかっているのだから成績を上げろ」といわんばかりの発言は、「脅し」そのものでしかない。そして大阪市の小学校は、国語を除く他の科目では、吉村知事の「期待」に応えて最下位を脱したにもかかわらず、それにたいする評価はない。

 被災地への寄付も大事だが、大阪市の学力向上を願うのであれば、そのために使われるようにすべきではないのだろうか。そのほうが話の筋はとおる。

 そもそも、全国学力テストにおいて「順位」に固執する姿勢そのものに問題がある。全国学力テストを実施する目的を文科省は「子どもたちの学力状況を把握する」ためとしており、その結果を「学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる」としている。順位を争うものではないことは、文科省は採算にわたって公言している。

 それが建前でしかないとしても、吉村知事の「最下位」に固執する姿勢は文科省の方針に反していることになる。子どもたちや教員をいたずらに「順位争い」に駆り立てるものでしかなく、子どもたちから時間を奪い、教員の多忙化を招くことにもつながる。吉村知事の「ボーナス返上」は、そうした視点からみてみる必要がある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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