奈良教育大学附属小の創造的な授業実践が「不適切」とされたのに、文科省の圧力はなかったのか?
奈良教育大学附属小学校(附属小)での創造的な授業実践が「不適切」とされ、その授業づくりに主体的にかかわっていた4人の教員は「出向」となった。一方で、附属小を混乱に陥れた小谷隆男・前校長は、奈良県教育委員会教育次長に栄転した。この附属小の問題に、じつは深く関わっているとされるのが、文部科学省(文科省)の存在だ。
■文科省の指摘でガラリと変わった報告書
この文科省の「圧力」について、3月13日の衆議院文部科学委員会(以下、国会)の場で問いただしたのが、共産党の宮本岳志議員だった。それに対する答弁に立ったのが、望月禎・総合教育政策局長である。
宮本議員の質問に望月局長は「奈良教育大学の附属学校につきましては、長年にわたりまして不適切な授業の展開を行っていたということでございます」と、「不適切」を強調している。しかし一方で、「先生がおっしゃいますように、非常にモデル的な、いい教育をやってきたことも事実だとおもってございます」と述べている。批難しながら、褒めてもいるわけだ。
問題なのは、昨年10月10日に附属小での実践を調査した奈良教育大の宮下俊也学長らが文科省を訪れて中間報告している。そこで文科省の指摘を受けた大学側は、中間報告からガラリと変わる「不適切」を強調する最終報告をつくりあげていく。その変化に「文科省の指摘」が大きくかかわっていたことは、筆者も関係者から聞いている。
宮本議員は国会の場で、「文科省は、学校側の調査報告に圧力をかける言動をしたのではありませんか」と質している。対して望月局長の答弁は、「大学に対して具体的な指示をしたものではありません」というものだ。文科省は介入していない、というわけだ。
この質疑に際して、宮本議員は文科省に10月10日の会談資料の提出を求め、文科省は応じている。会談資料といえば会議録のようなものを想像してしまうが、提出された資料はA4用紙1枚だけの資料だ。出席者の名前が記され、「概要」として文科省が言及したことが箇条書きに記されている。
■「指示をしたものではない」という文科省発言
そこには、「総時間数が足りていないのであれば法令違反の可能性がある」「教科書の使用について適切に使用されていたのか確認したい」「双方向の人事交流についても考えてみてはどうか」など7項目が並んでいる。しかし望月局長は、「具体的な指示をしたものではない」と答弁している。
しかし奈良教育大は、「不適切」を細かく調べあげ、そして当時者を「出向」というかたちで処分している。出向は、今後も続くとみられている。文科省としては「指示していない」ことを、大学側は忠実に実行したことになる。
文科省と大学のあいだには、運営費交付金の存在がある。これを減らされると、大学の経営は難しくなる。減らされないために大学は忖度した、という見方があるのも事実だ。言い方を変えれば、文科省としては大学に忖度させるのは難しいことではないということになる。
文科省の圧力はあったのか。これについて、国会で文科省と相対した宮本議員に話を聞いた。
―― 文科省からの圧力はあった、と考えますか。
宮本 文科省としては、「圧力をかけました」という国会での答弁はありえません。やってはいけないことを「やったのか」と訊かれて、「やりました」とは言えないからです。
奈良国立大学機構の管轄下にある奈良教育大学に、文科省が指示したり命令することはできません。指示や命令したりしていれば、問題なわけです。
しかし、私が附属小の保護者たちに訊くと、教員を入れ替えるのは文科省の見解だと学長から聞いたと証言しています。
文科省は「やっていない」と言うけれど、学長は「文科省の見解だ」、つまり指示されたと説明しているわけです。文科省か学長か、どちらかが嘘をついていることになります。
―― そうなると、10月10日の会談の内容が重要になってきます。ただし、文科省が提出した資料は「概要」だけです。
宮本 論点を列挙しただけの資料です。実際は細かいやりとりがあったはずです。そのやりとりは、書かれていません。
細かいやりとりを記録したものがあるはずです。会議録みたいなものがあるでしょう、と文科省に質問してみても、「これだけです」と言い張っています。そんなことはない、とおもいます。
―― 細かいやりとりがわかれば、文科省の圧力もはっきりするはずです。この附属小の問題を、どのように受けとめていますか。
宮本 教育に対する政治的な介入が強まってきています。それによって、現場の先生方を萎縮させるようなことになっています。これは、大きな問題です。今回の附属小の問題は、そうした動きを象徴するできごとだととらえています。
―― ありがとうございました。