ふるさと納税で「現金」還元 どういう仕組み? 運営会社に聞いてみた
ふるさと納税をすると返礼品の代わりに20%の現金を受け取れる「キャシュふる」というサービスが話題になっています。いったいどういう仕組みなのか、運営会社に聞いてみました。
寄付を代行、返礼品の代わりに現金を還元
6月8日に始まったキャシュふるは、ふるさと納税の返礼品の代わりに、寄付金額の20%がもらえるサービスとうたっています。返礼品は、欲しい人に「受領権」として販売するというビジネスモデルです。
寄付したお金は、通常のふるさと納税と同じく寄付金控除の対象になるとのこと。2019年12月に始めたベータ版では累計500万円以上の寄付をしており、返礼品がほしい人の会員数は500名以上としています。
ふるさと納税といえば、ポータルサイトを利用する人が多いと思いますが、実はそれぞれの自治体に直接申し込む方法も用意されています。
運営会社であるDEPARTUREによれば、「寄付するのが面倒な人などから準委任をうけ、自治体のサイトから申し込む等の方法で寄付をしている」と説明しています。
各自治体と提携関係にあるわけではないものの、「実務上、大量のオーダーを送る際に、先方に負担をかけないよう現場レベルでご協力いただくことはある」(DEPARTURE広報)と説明しています。
追記:
当初、キャシュふるのサイトに「寄付の予定先」として記載されていた自治体について、「各自治体様から掲載の委託を受けたものではございません」とのお詫びが発表されています。
返礼品が欲しい人とはどのようにマッチングしているのでしょうか。詳細は、競合との関係から非公開としていますが、同社が運営するサイトからある程度は見えてきます。
たとえばブランド米を販売する「タスカル」では、同社が仕入れた商品ではなく、ふるさと納税の返礼品を受領する権利を販売していることを説明しています。どのお米も、相場より安価に売られている印象です。
追記:
6月9日ごろ、タスカルのWebサイトが閉鎖されたようです。過去のアーカイブはこちら。
http://web.archive.org/web/20210619122033/https://tasukaru.dptr.jp/
総務省はふるさと納税の返礼品の還元率を「3割以下」とすることを求めています。キャシュふるが申し込み者に還元する「20%」の現金との差額が、サービス側の取り分といえそうです。
1回の申し込みは5万円から。20%の還元は翌月10日に現金で振り込まれるとのことです。なお、還元された現金について、Webサイトでは一般的な見解として「雑所得扱いになる」と説明しています。
追記:
当初のサイトへの記載により、「自治体と提携しているものと誤解をさせて、弊社サービスをご利用頂いた」可能性があることから、全額を返金すると発表がありました。
また、申し込みをしてまだ振り込んでいない人には、振り込みをしないよう呼びかけています。
3者の「実情」にあわせてマッチング
サービスの中身を詳しく見ていくと、自治体、ふるさと納税をする人、返礼品がほしい人という3者を、うまく結びつけていることが分かります。
まずは自治体です。総務省によれば、自治体がふるさと納税のポータルサイトに支払う手数料は約10%で、2020年度には674億円としています。その上、広告費は別にかかるといいます。
キャシュふるは「地方自治体から費用をいただかないことが本サービスの存在意義」(DEPARTURE広報)として、自治体が払う手数料を0円にすることを目指しているそうです。自治体にとっては、手数料が減ればそれだけ税金を有効活用できることになります。
次に、ふるさと納税を利用する人はどうでしょうか。最近では返礼品のない寄付も増えているとはいえ、実情としては「返礼品目当てや節税手段として活用している人が多い」とキャシュふるは指摘します。
とはいえ、返礼品用にセカンド冷凍庫が売れているという話があるように、いくら寄付をしても消費しきれないほど返礼品をもらっては意味がありません。いっそのこと現金でほしいという人は多いでしょう。
最後に、返礼品がほしい人です。ふるさと納税をしたくても、その余裕がない人も多いのではないでしょうか。この制度自体に、収入が多い人向けで不公平ではないかとの声もあります。
その場合でも、先ほど挙げた「ブランド米」のように、返礼品がいらない人から受領権を購入すれば、各自治体が用意した選りすぐりの特選品をおトクに楽しめることになります。
このように、コストを減らしたい自治体、ふるさと納税で節税したい人、返礼品を安く手に入れたい人はそれぞれにWin-Winの関係を築ける可能性があり、そのマッチングを狙うのがこのサービスの面白いところといえそうです。
「法令に違反するものではない」と運営会社
よくできたサービスではありますが、あまりに身も蓋もない建て付けから、「さすがに問題があるのでは?」といった指摘が相次いでいます。
この点について運営会社は、「顧問弁護士を含め、複数の弁護士によるリーガルチェックを経ており、関係諸法令に違反するものではないと考えております」(DEPARTURE広報)と説明しています。
過去の事例では、返礼品として「ギフト券」などが法規制されたことはありました。これはふるさと納税の理念である「地方創生」にそぐわないことから、やむを得ない対応といえます。
しかしキャシュふるでは、「お米」などの地場産品を寄付した人とは別の人が受け取っています。返礼品をフリマで現金化したり、贈り物にすることを代行しているだけ、という見方もできそうです。
今回の募集額は300万円とのことから、ふるさと納税全体に与える影響はごくわずかでしょう。しかしこれから規模が大きくなれば、返礼品の特売サイトが増え、自治体や生産者のブランド価値を毀損するのではないかという懸念はあります。
意外な角度からではありますが、ふるさと納税制度が抱えている問題の本質に切り込むサービスといえるかもしれません。
追記:
6月10日、運営会社のDEPARTUREが「キャシュふる」のサービス終了を発表しました。