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「板橋区役所」隣接「公衆喫煙所」問題が解決へ

石田雅彦科学ジャーナリスト
板橋区役所前駅のエレベータ乗降口に隣接した公衆喫煙所。写真撮影筆者

 板橋区役所に隣接する公衆喫煙所の問題が解決へ向かって進み始めた。2019年8月27日に開かれた板橋区議会の区民環境委員会の答弁で、区が今年度中に公衆喫煙所を移設する可能性に言及したからだ。

板橋区の公衆喫煙所問題とは

 行政機関や病院、学校など第一種施設に対し、2019年7月1日より受動喫煙防止を定めた改正健康増進法が一部施行された。第一種施設は、原則として建物内を含む敷地内禁煙だ。

 板橋区は同法施行に合わせ、区役所本庁舎の隣接地に屋外の公衆喫煙所を設置し、7月1日から運営を始めようとした。この喫煙所は区役所の敷地内だったが、わざわざ区役所の敷地から分割して公衆喫煙所を設置したものだ。

 問題なのは喫煙所設置に関し、区はこの場所に決めた経緯などを近隣住民を含む区民には事前に知らせず、隣接するビルの所有者へも事後報告で既成事実化して運用を始めようとしたことだ。さらに、設置場所は都営三田線のエレベータ出入り口に面し、近隣には医療施設や薬局、障害福祉施設、児童が通う学習塾などがあり、医療施設へ通院する患者を送迎する車両が駐車する場所でもある。

・区民や通勤者などへの事前の説明が全くないまま、公衆喫煙所が設置された。

・隣接するビルの所有者に対して説明もなく、設置の了承も得られていない。

・議事録が残されていないため、公衆喫煙所の設置場所の検討過程が不明。

・敷地を分割して区役所に隣接する場所に公衆喫煙所を設置するという問題ある手法。

・密閉式喫煙所だが、排気口が人通りの多い都営地下鉄エレベータ乗降口に向かっている。

・多くの人が利用する区役所出入り口に接し、近隣に診療所や薬局、学習塾などがある。

・喫煙所に出入りする喫煙者の呼気や衣類に付いたタバコ煙による三次受動喫煙の危険性。

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板橋区役所(背後のビル)に隣接する形ですでに設置された公衆喫煙所。地下鉄のエレベータ乗降口のすぐ横に位置し、排気ダクトがそちらのほうへ出されている。中山道側の隣のビルには耳鼻咽喉科と皮膚科の診療所、薬局も入っていて、道路の向かい側には信用金庫がある。写真撮影筆者

 近隣住民が5月27日に区議会へ説明会の開催と喫煙所の撤去を求める陳情を提出したところ、6月10日に開かれた区議会の区民環境委員会でこの問題が審議され、委員から区に対して区民へ誠実に説明して理解を得るよう求めて喫煙所設置に関しては継続審議となった。区は6月27日に住民説明会を開くが、その説明会で配布された資料には運用開始を7月1日から9月1日へ延期すると書かれている。

高まる住民の反発

 区としては、9月1日までの間に住民への説明を続けて同意を得るつもりのようだったが、近隣住民の理解を得られないまま、反対派は喫煙所撤去の署名活動を展開し、8月26日までに3224名分の署名が集まった。既成事実化して運用を始めようとする区のやり方に住民の反発が強まる中、継続審議になっていた区民環境委員会が8月27日に開かれる。

 委員会の議題は、隣接する住民による説明会開催の要望と喫煙所の撤去を求める陳情に関してだ。各委員からの質問に対し、資源循環推進課の課長(区担当者)が答弁した。

 委員から6月10日の前回委員会から2カ月半以上が経過しているのにもかかわらず、住民の同意を得られないどころか反対署名が多数集まっている状況について問われると、区担当者は現在の設置場所での開設を目指す方針に変わりはないが、現状では議論が平行線をたどっており、問題を解決できる目処は立っていないと答弁した。

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板橋区議会の区民環境委員会の様子(2019年8月27日)。委員長、副委員長を合わせて9名の区議が出席した。写真撮影筆者

 区としては、この問題が区民環境委員会の継続審議になることで、公衆喫煙所の運用開始が先延ばしになることは避けたいという気持ちをにじませた。

 次回開催は11月だが、委員会での審議がそれまでなされない上、近隣住民の理解と同意を得られないまま、多数の反対署名も集まっている現状で運用を開始することは難しい。議会(区民環境委員会)判断を尊重する区の立場として、板橋区議会で多数派を形成する自民党と公明党が連名で計画の再考を求める異例の要望書を区に提出したことも無視できないという。

 区が時間をかけたくない理由は、改正健康増進法の全面施行が2020年4月に迫ってきていることもあるが、23区が新たに設置する公衆喫煙所に対して東京都が出す補助金(10/10、全額)を活用したいと考えているからだろう。補助金申請の期限は年度内ということで、2020年3月31日までにどうしても運用を開始したい思惑があるのだが、区担当者が東京都と折衝する中、問題を抱えたままでは補助金を出すことは難しいと回答されたという。

初めて出た喫煙所の移設

 その後、委員とのやり取りが進み、区担当者の答弁に、苦渋の選択として現在の場所から喫煙所を移設する可能性という言葉が出てくる。問題の公衆喫煙所をどうするかについて、区として初めての言及だ。

 すでに1000万円近い公費を使っている喫煙所のため、都の補助金いかんにかかわらず、区としては撤去してなくしてしまうことは考えられない。資源循環推進課は健康推進課と協議する中、従来の検討範囲にあった板橋区役所前駅周辺を含め、区が設置する開放型の喫煙所(4つの駅:埼京線のJR板橋駅、東武東上線の成増駅、都営三田線の高島平駅と志村坂上駅に5カ所:成増駅に2カ所)にも範囲を広げて移設先とすることも検討し、すでに坂本健・板橋区長の了承も得て委員会での答弁を用意してきたという。

 8月末というタイミングで区担当者が公衆喫煙所移設に言及した背景には、タイムリミットのある中、移設先を探すこともさることながら、同じ過ちを繰り返さないために移設先の地域住民の理解と同意を得るのにも時間がかかるという思いもありそうだ。区担当者に確認したところ、今回の反省を踏まえつつ早急に移設先を探していくことになると明言した。

 区担当者によれば、板橋区は改正健康増進法の主旨を理解した上で、受動喫煙防止と喫煙者への配慮、ポイ捨て防止などを目的として今回の新たな喫煙所の設置を決めたという。コンテナ型の閉鎖式喫煙所ということで、タバコ煙が漏れにくい構造になっており、既存の開放型喫煙所から切り替えていくテストケースにするつもりだったようだ。

 改正健康増進法で板橋区役所は第一種施設になる。区民環境委員会の井上温子委員は、第一種施設で屋上や外階段などの人が立ち入らない場所に認められている特定屋外喫煙場所に喫煙所を設置したほうが良かったのではないかと指摘した。さらに、現状の場所に公衆喫煙所を開設したいと今も考えている区の姿勢に対し、全く反省の姿勢が感じられず、再び同じような問題が起きるという危惧があると批判された区担当者が困惑し、委員会に緊張が走りそうになる場面もあった。

 また、井上委員は改正健康増進法の第25条3第2項により、公衆喫煙所でも設置者は受動喫煙が生じさせないように配慮する義務があるとし、喫煙場所を設ける場合、施設の出入り口付近や利用者が多く集まるような場所には設置しないよう求められていると指摘した。

 この問題に関する区民環境委員会での審議は、自民党と公明党の多数で継続審議が決まった。区としてはすぐにでも公衆喫煙所の移設に向けて動き出すようだが、移設対象候補地の近隣住民の同意や理解を得られるのか、時間をかけた丁寧な説明ができるのか、約145万円前後と見積もっている移設費用は増減するのかといった課題が残っている。

 喫煙率が下がり続け、受動喫煙による健康被害が周知になり、吸い殻のポイ捨てが問題にされる状況で、喫煙所は各地で迷惑施設になっている。井上委員が指摘するように公衆喫煙所でも設置場所に制限がある。移設先を探すのは大変だろうが、ていねいに区民の理解と同意を得つつ、慎重に計画を進めていくことが求められる。

 今回の問題では、近隣住民の受動喫煙に対する危機感が陳情書の提出という行動に向かわせたが、多くの反対署名が集まり、議会を動かして区を翻意させた。タバコ問題への住民の意識の高まりを実感するとともに、板橋区民と行政の無謬性にしがみつかなかった区の決断に敬意を表したい。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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