英国を悩ますコロナ禍のエネルギー高騰と増税による生計費危機(下)
1月初旬には、20人の与党・保守党議員がジョンソン首相とスナク財務相にエネルギー料金に課せられている5%のVAT(付加価値税)と電気代の約25%を占める環境税の撤廃を訴える書簡が英紙デイリー・テレグラフに送られた。しかし、ジョンソン首相は、「この提案はおそらく生活支援を必要としない多くの人々(お金持ち)を助けるだけだ」として、突っぱねている。スナク財務相も「遅くとも2024年に予定されている次の総選挙までに、税金を引き下げたい」と述べ、批判をかわすのが精一杯。
「ジョンソン首相は昨年、国連で環境保護のネットゼロ社会の実現を政府公約としたが、その実現はそれほど簡単ではない」(英紙タイムズのデイビッド・スミス経済部長)と、生計費危機が政権の基盤を揺るがしかねないと危惧する。
テレグラフ紙のルーシー・フィッシャー政治部次長は1月7日付コラムで、「保守党議員は、エネルギー費用の1世帯あたり約700ポンド(約11万円)の負担増やカウンシルタックス(住民税)の増税、国民保険料の1.25%の負担増により、特に貧富の格差が広がるという政治的な悪影響について懸念を抱いている。皮肉にも4月1日に議員給与が2.7%引き上げられる一方で、家計所得が圧迫される」と指摘する。
最近ではコロナ禍のロックダウン(都市封鎖)中の2020年5-12月にジョンソン首相が官邸で身内のパーティーを計16回(うち8件をロンドン警視庁が刑事犯罪として捜査中)開催し、ルール違反の疑いが持たれており、4月からの増税と相まって、首相退陣論が急速に高まっている。
これを受け、次期首相を目指すスナク財務相もジョンソン政権との距離を取り始めた。経済への新たな政治リスクだ。テレグラフ紙のコラムニスト、ベン・ライト氏は、「1月23日の保守党議員からのメールによると、スナク財務相は国民保険料の引き上げから距離を置き、それを「首相の税金」と呼んでいる。ナイストライだが、財務相は増税が唯一の行動方針だと記者ブリーフィングを行ったのはそれほど昔のことではなかった」と皮肉る。「一部の議員は、次の2024年の総選挙で有権者から増税のせいで罰せられることを懸念している」(1月23日付テレグラフ紙のダニエル・シェリダン記者)ことも事実だ。
増税急ぐ根拠なし
英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスのブートル会長は、「政府の2021年度の借入金は1830億ポンド(約28.6兆円、対GDP(国内総生産)比7.9%)に達する見込みだが、どの程度懸念すべきか。2022年度末時点の公的債務残高はGDPの約84%(英予算責任局(OBR)の昨年10月予測では97.9%)となり、ピークを迎える可能性がある」とした。
しかし、同会長は、「債務を削減する計画が必要だとはいえ、慌てる必要はない。ナポレオン戦争と第一次世界大戦後、負債比率はGDPの200%に達し、第二次世界大戦では250%を超えていた。1945年以降、負債比率は平均して78%弱。借入(したがって負債比率)を現在想定されているよりも高くすることを許可することは完全に合理的だ。予定された増税を取り消すことは、結果的により高い企業投資になり、最終的には税収増で賄われる可能性が高く、借入金が大きな負担となることを容認する余地がある」と主張する。
これに追い打ちをかけるように、英予算責任局(OBR)は1月25日、最新の昨年12月の政府借入が168億ポンド(約2.6兆円)と、前年同月比で76億ポンド(約1.2兆円)減少したと発表した。
年初来の借入金残高は1468億ポンド(約23兆円、前年同期比46.8%減)となり、昨年10月予測も130億ポンド(約2兆円)下回った。OBRは、「この結果は回復力の強い強じんな労働市場と強力な企業利益によって予想以上の歳入増となった結果だ。これは予想を上回る歳出を相殺してなお余りある」とし、政府の4月からの増税計画に波紋を投げかけている。(了)