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ジャニーズ「性加害」問題「被害者は親に話していたか」「抗議した親はいたか」当事者の証言

篠田博之月刊『創』編集長
北公次さんの映像を映しながら話す本橋さん(左)と平本さん(筆者撮影)

被害当事者と率直に語りあった貴重な機会

 8月15日夜、阿佐ヶ谷ロフトAで「『僕とジャニーズ』刊行記念『35年目の真実』」というトークイベントが行われた。月刊『創』(つくる)からも本を出している作家の本橋信宏さんの新刊『僕とジャニーズ』の刊行記念イベントだが、テーマはまさにジャニーズ性加害問題。本橋さんを「師匠」と慕う平本淳也「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表や同会メンバーの話や、会場との質疑応答など、貴重な機会だった。

 ジャニーズ事務所「性加害」問題は、いまや大きな社会問題になっており、ジャニーズ事務所側と被害者側双方の会見が頻繁に行われているが、こんなふうに平場で被害当事者と一般の人たちが率直に語る機会はなかったように思う。

「当事者の会」左から石丸さん、大島さん、中村さん(筆者撮影)
「当事者の会」左から石丸さん、大島さん、中村さん(筆者撮影)

 その日、「当事者の会」からは、平本淳也代表(57歳)のほかに、石丸志門副代表(56歳)、それに中村一也さん(36歳)、大島幸広さん(38歳)が登壇した。

 詳しい話全体は『創』次号で報道させていただきたいと思うが、ここではその中でもとても貴重なやりとり、ジャニーズ事務所所属の性被害にあった当事者たちは、そのことを親に話していたのか、そして親が事務所に抗議したケースはあったのか、という話を報告しておこう。

ジャニーズ事務所「性加害」問題と#MeToo

 これまでタブーとされてきたジャニーズ事務所の性加害問題がこれだけ大きな社会問題になったひとつのきっかけは今年3月の英国BBCの番組だが、なぜ英国の放送局が遠く離れた日本の性加害問題を取り上げようと考えたかというと、2017年以降、全世界に#MeToo運動が広がっている中で、なぜそれが日本でタブーになっているかという興味だった。日本でもこの何年か、映画・演劇界の性加害告発など、#MeTooの流れは当然広がっているのだが、ジャニーズ事務所の性加害についてはテレビ界やエンタメ界を中心にメディア界におけるジャニーズタブーが強固に存在したために、今日までタブーとされてきたのだった。

 被害にあったのが未成年の少年だったという事情はあるが、世界的な#MeTooの発端となったアメリカのプロデューサー、ワインスタインの性加害問題と、ジャニーズ問題は構造的にはよく似ている。大物プロデューサーが、「業界で成功したいのなら言うことを聞け」と性を強要し、噂にはなっていてもメディアがそれをなかなか告発できなかったという現実だ。

 そのワインスタイン事件を描いたのが先ごろ公開された映画『SHE SAID /シー・セッド その名を暴け』(原作の日本版は新潮社より刊行)だが、その中で興味深かったのは、被害女性の抗議に対して、加害者側は弁護士が対応し、慰謝料を払うのと引き換えに、事実を口外しないことという約束を交わしていくという経緯だった。それによって真相は隠蔽され、被害女性の証言を得るためにニューヨーク・タイムズの2人の女性記者が血のにじむような取材を重ねていくのだった。

被害当事者はそれを親に話していたのか

 ジャニーズ事務所の場合も、その疑惑を追及した『週刊文春』などには提訴をはじめ激しい圧力をかけたわけだが、内部の当事者に対してはどういう対応がなされていたのかというのは興味深い。息子から話を聞かされて事務所に抗議した親はいなかったのか、いたとしたら事務所はどういう対応 してきたのか。そうした事実解明は、現時点でほとんどなされていない。

 ジャニーズ事務所側は現時点で、特別チームを作って調査を行うとしているが、恐らくそういう内部事情まで踏み込んだ解明は現状では期待薄だろう。ただ希望が持てるのは、今のところマスメディアの風向きも変わって、社会全体がこの問題を明らかにしようという動きにあるから、被害当事者の情報提供が今後も増えてくる可能性があることだ。その意味でも「当事者の会」などの活動は心強い。

本橋さんの新刊『僕とジャニーズ』とかつての『光GENJIヘ』(筆者撮影)
本橋さんの新刊『僕とジャニーズ』とかつての『光GENJIヘ』(筆者撮影)

 さて8月15日夜に話を戻そう。2時間余にわたったトークイベントの後半の質疑応答で、こんな質問がなされたのだった。「ジャニーズ事務所の性加害に対して、親に打ち明けて親が事務所に抗議したケースはなかったのでしょうか。あったとしたらどういう対応がなされたのでしょう」

 それに答える形で少しやりとりがなされたのだが、その部分を紹介しよう。

被害者の親が事務所に抗議したケースも

会場 ジャニーズ事務所の性加害に対して、親に打ち明けて親が事務所に抗議したケースはなかったのでしょうか。

平本 あります。無数にあります。

会場 抗議した場合、どういう決着がはかられていたのでしょうか。

平本 まあ、それなりに。まるっと、ですね。

会場 お金で、でしょうか。

平本 まあ他人のことなので言えませんし、言うつもりもないのですが、親が抗議し怒鳴りこむ、そういう例はありました。結果的に、何事もなかったかのように収拾をつけるのですが、どんな中身だったかはそれぞれ事情があるので言えません。

会場 そういう対策を行う人がいたわけですね。

平本 性加害の問題だけでなく、素行不良といった問題もあります。喧嘩や暴力沙汰、万引きや盗みといったことですね。多感な時期の男の子が何十人何百人いるわけですから、日々、事件・事故的なものはあったわけです。タレント、子どもを守るという側面もあります。事務所として、マネジメント会社としてそれなりの対応をするというのは当たり前です。特に性加害については、事務所もそれなりの処理をしてきたと思います。

 平本さんがそう答えた後、他のメンバーに対してこの質問がなされた。

「きょういらっしゃる方々は親に対して打ち明けられていたのでしょうか」

 その答えを紹介しよう。

母親は当初「訴える」と言ったが…

中村 自分の場合は、事務所を辞める前に母に話しました。泣きながら話したんですが、それを聞いた母は、当時、「訴える」という感じでした。ただ自分は子どもだったし、そうしたからといって何も変わらないと思ったんで「やめてくれ」と、母にも、これ以上言わないでくれと頼みました。泣き寝入り状態でしたね。

大島 僕は、辞めた時は言わなかったのです。言わないし、言えないという感じでした。心にしまってずっと生きてきたんですけど、ふとした時、実家に行った時にテレビを見ていたら、同期くらいの子が活躍しているんですね。それを見てお母さんが、「ああ、あなたも辞めなければ(テレビに)出てたかもね」と言ったんです。そこで僕が「いや、どっち転んでも辞めてたかな」と言うと、「なんで?」と聞くので、そこで初めて打ち明けたんです。27歳くらいの時でした。母親は無言でしたね。ちょっと経ってから「大変だったね」と言われましたが、親も複雑だったと思います。

石丸 私の場合はパターンが違いまして、私の母は日大芸術学部演劇学科の出身なんですが、芸能界のことに詳しくて、私がジャニーズ事務所に合格した時に、「ジャニー喜多川はホモだからね」と言われました。その時私は14歳でしたが、自分はアイドルになれるんだ、たのきんトリオの田原俊彦をめざすんだ、追い抜いてやるんだと、それしか考えていませんでしたから、触られる? いじられる? そのくらいいいよ、スターになるんだから、という感じでした。で、実際に体験した時に、これか、と思いましたが、もう後にはひけないですよね。僕は高校にも行かないと決めて家族の反対を押し切ってやっていましたから、もうスターになるしかない。結果的に、スターにならずに辞めましたが、その後も母親とは、一度もその被害について話しませんでした。話したのは、今回、告発をした後です。

 平本さんは、親が抗議したケースは無数にあったと答えたが、実際にどうだったのかは、事実解明が相当行われないと全容が明らかになるのは簡単ではないだろう。前述したワインスタインのケースと違って、被害にあったのが10代の少年たちで、それが性暴力だという認識も当時はなかったかもしれないし、日本社会全体でも少年への性暴力に対して、認識が著しく低かったはずだ。

 ちなみに先の石丸さんの発言で「ホモ」という、当時一般的だった差別用語をそのまま紹介したが、LGBTQに対する社会の認識も当時は現在とかなり違っていたはずだ。

 今回のジャニーズ事務所「性加害」問題は、日本社会の深刻な病巣を反映しており、相当のエネルギーをもって取り組まないと全容解明は困難だ。これまで完全なタブーになってきたことでわかるように、本来はそれを追及すべきマスメディアが全く頼りないことが残念なのだが。

1999年『週刊文春』の前にもあった「告発」

 さて、ここでその8月15日のトークライブの趣旨に立ち返ろう。この間の報道で、実はこの問題は1999年10月から『週刊文春』が報じていたという説明がよくなされている。しかし、実はその前、1988年に、ジャニーズ事務所の超人気タレントだった北公次さんが『光GENJIヘ 元フォーリーブス北公次の禁断の半生記』という本を出版して、ジャニー喜多川氏による性加害を告発していた。当時35万部も売れたベストセラーだった。

 その本の仕掛け人はAV監督・村西とおるさんで、実際に北公次さんに話を聞いて、その本のゴーストライターを務めたのが本橋さんだった。今は『光GENJIヘ』は絶版で、アマゾンで高額転売されているが、その本の内容と刊行経緯などを書いたのが今回の本橋さんの新刊『僕とジャニーズ』(イースト・プレス刊)だ。8月15日はその刊行記念のイベントだった。『光GENJIヘ』刊行当時、北公次さんの証言を収録したDVDも販売され、当日はその一部も会場で映されたが、これが実に生々しい。本橋さんはこの後、幾つかの場で刊行記念のイベントを企画しており、その動画も紹介していくという。

告発を続ける『週刊文春』(8月17・24日号。筆者撮影)
告発を続ける『週刊文春』(8月17・24日号。筆者撮影)

 ジャニーズ事務所「性加害」問題は、被害者たちが次々と名乗りを挙げ、まさに#MeTooになっているのだが、真相がどこまで解明されるかは、そうした当事者たちが声を上げる動きがどこまで広がるか、そしてジャーナリズムがどこまで本来の機能を発揮するかにかかっている。

 今回のBBC報道を機に起きた動きでも、当初はそれを受けて連続キャンペーンを張った『週刊文春』が孤軍奮闘状態だったが、この間、少しずつ新聞・テレビの取り組みも広がりつつある。まだまだ全容解明にはほど遠いのが現実だが、今は大事な局面だと思う。

 なお、被害当事者については、早い時期に実名で会見を行ったカウアン・オカモトさんも8月9日に文藝春秋から『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』という単行本を出版している。

【注】最初にこの記事をアップした時、上記『ユー。』の版元を誤って小学館と書いてしまった。お詫びし訂正します。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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