新型コロナが追い詰める介護現場の現状――実態調査が伝える介護職の悲鳴
感染防止による職員の自宅待機で人員不足が悪化
新型コロナウイルスが日本に持ち込まれて1年がたった。2021年1月18日現在、日本は感染「第3波」の大波に襲われ、全国的に感染が拡大。1都2府8県に緊急事態宣言が発令されている。繰り返し襲ってくる感染拡大の波に、介護の現場も翻弄され続けている。
UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(以下、NCCU)が2020年12月に発表した、全国の介護事業所対象の「新型コロナウイルスに関する緊急アンケート」のフリーアンサーには、介護職の悲痛な声があふれていた。
一つには、人員不足だ。
たとえば、こんな声がある。
職員はもちろん、職員の家族、訪問介護などの利用者やその家族等に新型コロナ陽性者が出た場合も、濃厚接触者となった職員は2週間の自宅待機を余儀なくされる。
平時からギリギリの人員で運営している介護事業所では、たちまち人員のやりくりが困難になる。出勤できない職員の仕事をカバーするため、他の職員が長時間労働や休日出勤をせざるを得ない。
職員に発熱があった際、PCR検査を受けるのに、自治体によっては今も時間を要するケースがある。そのために、結果がわかるまでの自宅待機の期間が長くなるのも、現場には負担だ。
PCR検査だけでなく、新型コロナウイルス関連の対応は、自治体によってかなり差があることが指摘されている。介護職に対する「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」もその一つ。
2020年7月には厚生労働省から申請マニュアルが示されたが、支給時期は自治体によってまちまちだ。すでに、申請した法人に支給され、介護職の手元に慰労金が届いている自治体もあれば、「法人に対する支給自体が2021年3月という自治体もある」(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン副会長・村上久美子さん)という。
自治体職員も業務が逼迫していることは想像できる。しかし介護現場の尽力に対し、せめて慰労金の迅速な支給で応えてもらえないものかと思う。
高齢ヘルパーの退職で人員不足悪化の訪問介護
人員不足に話を戻そう。
特に深刻なのは、平時でも8割の事業所が人材不足の状態にある訪問介護だ(※1)。
介護労働安定センターの調査によれば、ホームヘルパーの平均年齢は53.7歳であり、65歳以上のヘルパーも2割強いる(※1)。「高齢者」が「高齢者」を介護している現実がある。
すでに知られているとおり、新型コロナウイルスは、高齢者が感染すると重症化しやすい。感染拡大により、高齢のヘルパーには、本人が続けたいと考えても、家族から止められ、泣く泣く休職、退職する人が少なくない。
そのため、訪問介護事業所はますます人員不足が悪化している。しかも、新型コロナの感染が治まらない状況下、求人を出しても全く応募がないという事業所は多い。
一方で、訪問介護へのニーズは高まっている。感染者が出て休止せざるを得なくなったデイサービスの利用者から、訪問介護の新規利用の依頼も増えている。
NCCUによる調査のフリーアンサーには、こんな声もある。
医療の逼迫による自宅療養者が増えている現在、訪問介護を利用する要介護者が自宅療養するケースもあるだろう。ヘルパーによるケアの継続が求められる状況だが、他の利用者にウイルスを媒介するリスク、自身が感染するリスクを考えると、不安になるのは当然だ。
※1 介護労働安定センター「令和元年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書」より
マスクはいいから使い捨てグローブがほしい
こうした不安を抱えながらケアに当たっている介護職を支える体制は、極めて不十分だ。
まず衛生資材不足の問題がある。
マスク不足が取り沙汰されてきたが、大量の「アベノマスク」が配布された上に、増産体制が整って不織布マスクも手に入りやすくなった。介護現場でも、マスク不足はほとんど解消されている。
今、介護現場を悩ませているのは、手に入りにくい上に価格が高騰している使い捨ての手袋だ。排泄介助や口腔ケアなど、介護現場では様々な場面で使用し、その都度交換する必要がある。
しかし、この使い捨て手袋、感染予防のためスーパーや飲食店など、これまで使用していなかった業種でも使用するようになり、圧倒的な品薄になっているのだ。
このほか、手洗い後に使用するペーパータオルや感染予防のための医療用ガウンなどの備蓄が乏しいという声も多い。NCCUではこの調査結果から、国会議員を通して国に対し、現場の実情に即した物資の確保を要請したという。
「過剰な恐れ」に振り回されていないか
コロナ感染が収まらない中でケアを続ける介護職の不安が解消されない大きな原因は、それぞれの介護現場で、どこまでの感染予防策が必要なのかが明示されていないことだ。
もちろん、新型コロナは未知のウイルスであり、その全貌は今も誰にもわからない。すでに変異ウイルスも複数発見されており、今、適切と思われる対応が今後も適切だとは言えなくなるかもしれない。
それでも、1年間のウイルスとの戦いの中でわかってきたことはある。しかし、NCCUによる調査のフリーアンサーには、ウイルス感染への「過剰な恐れ」で介護現場が振り回されているのではないかと感じられる記述が目に付く。
特に多かったのは、感染予防のための「自宅待機」についての判断である。
感染者、そして濃厚接触者が出た場合の自宅待機はやむを得ない。しかし中には、職員の子どもの学校で感染者が出た、職員の家族が県外に出張に行った、というだけで、その職員に2週間の自宅待機が課される、という記述もあった。
それが必要な場合もあるかもしれない。しかし、果たして「一律」の自宅待機が必要だろうか。
「介護の現場に決してウイルスを持ち込むまい」という決意、努力は素晴らしい。しかし、科学的根拠に基づかない「過剰な恐れ」によって、現場の負担を大きくしては、感染予防を継続していくことが困難になる。法人として、現場に求めている感染予防の対策が妥当か、感染症の専門家の意見を聞き、検証することが必要ではないか。
法人は正確な情報に基づき、明確な指示を
フリーアンサーには、法人としての明確な指示、科学的根拠に基づいた説明がないために、現場で迷いや不安を感じている声も多かった。
医療の逼迫、崩壊の危機が連日伝えられている。介護の現場でクラスターが起きれば、さらに医療を追い詰めることになる。それがわかっているから、介護の現場は「自分たちが頑張らなくては」という思いで、日々を過ごしている。
ウイルスを持ち込まないよう注意を払い、高齢者を支えている現場の介護職を守るのは、法人としての責務だ。正確な情報に基づいた対策を講じ、介護職が安心・安全に働ける環境づくりに努めてほしい。
そして自治体には、高齢者を必死で守っている介護職、法人をしっかりと支援する対応を期待したい。
そしてまた、多くの人たちに、医療同様、感染リスクと戦いながら重症化リスクのある多くの高齢者を支えている介護の現場にもっと目を向け、思いを致してほしいと思う。