なぜスペインは“苦戦”しながら日本との準決勝に勝ち進んだのか?いつもの問題と「プランB」の準備
決して組みやすい相手ではない。
東京五輪で、サッカー男子日本代表(U−24)はベスト4まで勝ち進んでいる。準決勝の相手はスペインだ。
先のEURO2020で4強入りを果たしたスペインだが、そのA代表から実に6名が今回のオリンピックに参加している。ペドリ・ゴンサレス、ミケル・オジャルサバル、パウ・トーレス、エリック・ガルシア、ウナイ・シモン、ダニ・オルモ、彼らはすでにルイス・エンリケ監督の下で主力になっている選手たちだ。
だが五輪には“魔物”が棲んでいる。それはスペインとて例外ではなかった。
初戦のエジプト戦で引き分け、次のオーストラリア戦では終盤のオジャルサバルの決勝点で辛くも逃げ切った。アルゼンチンとのドローでグループ突破を決めると、準々決勝のコートジボワール戦で延長戦の末にようやくゴールラッシュで快勝した。
■いつもの問題
では、なぜスペインは苦戦してきたのか。彼らが抱えるのは、“いつもの”問題だ。
グループステージ終了の段階で、スペインの1試合平均ポゼッション率は70%だった。次点にくるのが韓国(60%)で、ブラジル(52%)、メキシコ(51.3%)と続く。50%を超えているのは、この4チームのみであった。
その間、スペインは45本のシュートを打ち、そのうち16本を枠内に飛ばした。だが生まれたのは2得点だけだった。1得点を記録するのに、22.5本のシュートが必要だった。韓国(1.9本に1得点)、メキシコ(2.1本に1得点)、日本(2.2本に1得点)と比べ、驚くほどに非効率的である。
ボールは保持する。しかし、ゴールが奪えない。このいつもの問題に、スペインは直面した。
「難しかった。これほど難しくなるとは予想していなかった。勝ち進めたことに満足しているよ。ゴールが決まらず、苦しんだけど、チームとしては良いプレーができていたので自信を持って戦った。ファールが多かったり、困難な試合もあるけれど、すべてを楽しもうと思っているし、そこから学ぼうと考えている」とは準々決勝進出を決めた際のペドリの言葉だ。
「僕はプレーするのが好きだ。試合数は増えているけど、うまく休めているし、こういった経験がある選手からいろいろ学んでいるよ。僕に信頼を示してくれたすべての監督に感謝したい。僕が選べるなら、これをずっと続けていく」
■スペインの実力
苦しんではきた。だがスペインの実力に疑いの余地はない。
ルイス・デ・ラ・フエンテ監督はA代表と同様に【4−3−3】のシステムを採用している。先述したポゼッションの高さから分かる通り、このチームの柱はやはり中盤の構成力だ。
18歳にしてバルセロナでレギュラーポジションを奪ったペドリに関しては、もはや言及するまでもない。ダニ・セバージョスが大会序盤で負傷してしまったものの、マルティン・スビメンディとミケル・メリーノのレアル・ソシエダコンビがペドリを支える。この2選手はソシエダでマルティン・ウーデゴールやダビド・シルバといった創造性のある選手をサポートしてきた。つまり、ペドリ、スビメンディ、メリーノのバランスは非常に良いと言える。
前線には、オジャルサバル、D・オルモ、マルコ・アセンシオとトップクラスの駒が揃っている。それだけではない。トッテナム移籍が決定しているブライアン・ヒル、先のコートジボワール戦でハットトリックを達成したラファ・ミルがジョーカーとして控えている。彼らが“プランB”であるところがスペインの恐ろしさだ。
最終ラインにはE・ガルシアとP・トーレスのA代表のセンターバックコンビがおり、その後ろにGKシモンが構える。難があるとすればサイドバックで、とりわけ右サイドバックはオスカル・ミンゲサの負傷もあり定まっていない。
ただ、コートジボワール戦後に「選手を決めるのは監督だ。僕たちはスタメンでもそうでなくても準備ができている。この勝利は選手層の厚さを示している。このチームには資源があるということだ」とラファ・ミルが語ったように、総合力は十分である。
スペインが最後に五輪で金メダルを獲得したのは、1992年だ。母国で開催されたバルセロナ五輪で、頂点に立っている。
以降、欧州勢が最も輝くメダルを手にしたことはない。ナイジェリア(アトランタ五輪)、カメルーン(シドニー五輪)、アルゼンチン(アテネ五輪/北京五輪)、メキシコ(ロンドン五輪)、ブラジル(リオデジャネイロ五輪)とアフリカ勢と南米勢が席巻している。
日本とスペイン、いずれかが決勝に勝ち進む。アジア勢と欧州勢に金メダル獲得の可能性が残るのは、すでに歴史的な出来事だ。無論、どちらの勝利を期待するかは言うまでもない。ただ、それ以上に、この試合で生まれる興奮と熱狂に、身を浸したい。