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現役弁護士に「秀岳館高校サッカー部体罰事件」について訊いた。

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:山田真市/アフロ)

 学校側が形だけの記者会見をしたものの、まだまだ沈静化しそうもない秀岳館高校サッカー部の暴行問題。さらには、日本のスポーツ界、教育現場からけっして消えない体罰指導。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20220507-00294747

 昨日に続き、現役弁護士の見解をご紹介したい。大学卒業後、一般企業へ就職しながら30歳で一念発起して法科大学院進学を経て弁護士となった浅川拓也氏(38)に話を聞いた。

浅川拓也弁護士 写真:本人提供
浅川拓也弁護士 写真:本人提供

 そもそも、学校教育法第11条において、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と謳われている。

 にも拘わらず、日本から暴力指導が無くならないことについて、浅川弁護士は次のように語った。

 「根本的な問題として、日本では体罰が躾の一環であるという考え方が根強く残っていますね。確かに法の下、体罰はダメだとしていますが、違反した場合の罰則を定めていない点も見逃せません。今回、動画が存在していましたが、証拠が残っておらず、認定が困難な場合も多いです。

 秀岳館高校サッカー部の指導者たちは、民法第709条に該当する可能性が高いと思います。『故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う』というものです。

 また、学校側の管理体制については、民法715条の1、『ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。』そして同2の『使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う』に問われるように思います」

提供:イメージマート

 しかし、在学中の学生や保護者が秀岳館高校を相手に民事訴訟を起こした場合、進学に影響を及ぼさないか、また、レギュラーを外されることにならないか?等の不安を拭い切れず、泣き寝入りするケースがほとんどであろう。

 中高生アスリートを抱える保護者たちは、常々「子供を人質に取られている」と話す。哀しいかな、これが日本人の共通認識だ。

 「記者会見を見る限り、秀岳館高校のあの対応では被害者側と学校側に信頼関係を構築するのは難しく、当事者間による解決が困難なように見受けられます。ですので、刑事責任を追及する方法もあります。既に暴行を働いたコーチが書類送検されたようですが、動画で上がった件については被害者が負傷していた場合、傷害罪の適用も考えられます。また、監督が選手たちにお詫びの動画を作成させたことに関しては、強要罪として扱われる可能性もありますね。

 街中で、一般人を乱打した場合、罪に問われるのが通常です。でも、教育の現場だとそれが見逃されてしまう。監督や教師が自分の立場を利用し、弱い立場の学生を苦しめている。明らかな矛盾です。が、彼らには刑事罰に値する行為をしている意識が希薄であるように思います。そのような指導を行う学校は暴力指導が常態化していることが多いです」

―――常態化―――。まさにその通りだ。

写真:イメージマート

 本稿をご覧になっている皆さんは、2012年12月23日に大阪市立桜宮高校男子バスケットボールでキャプテンを務めていた17歳の少年が、連日繰り返される監督からの暴行に耐え切れず、自ら命を絶った事件を覚えていらっしゃるだろうか。

 後にこの監督には、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡された。遺族から損害賠償を請求された大阪市には、7500万円の支払いを命ずる判決が下った。

 私は、某月刊誌でこの事件に関する記事を書いたが、17歳を自殺に追い込んだ無能監督の大学の先輩にあたり、一般社団法人近畿バスケットボール協会会長の椅子に座っていた男との会話を覚えている。彼は悪びれた様子もなく、しゃあしゃあと言ったものだ。

 「我々の頃は、もっと厳しい指導を受けましたよ。あの監督は、非常に熱心なんです」

 この男も桜宮高校男子バスケットボール部の監督も、少年の亡骸と対面した遺族が、どんな感情を持つかなど、想像したこともないのだろう。こういう輩が蠢く社会だからこそ、暴行・パワハラ事件が消えないのだ。

日本社会も、もっと暴力撲滅の声を上げるべきではないか
日本社会も、もっと暴力撲滅の声を上げるべきではないか写真:ロイター/アフロ

 米国で公立高校の講師を経験している私は、暴力で集団を率いる教師に、人間としての価値は感じない。最も安直な方法であり、教育者の姿ではないからだ。

 また、サッカー界のスーパースターであるペレやディエゴ・マラドーナ、リオネル・メッシ、バスケットボール界ならマイケル・ジョーダン、レブロン・ジェームズなどは、殴られて育っていないことを叫びたい。そして、体罰指導を受けた被害者家族には刑事告訴を勧めたい。

写真:アフロ

 浅川弁護士は結んだ。

 「暴力指導は刑事罰にも問われる重大な行為であると認識してほしいですね。学校側も管理者としての責任を問われ得ることをきちんと自覚すべきです」

 暴力は犯罪なのだ。それが分からぬ人間は教育現場、スポーツ界から去れ。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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