YouTuberに判定負けした、かつての統一ヘビー級チャンピオン
マイク・タイソンが致命的なケガを負わずにリングを降りることが出来、ホッとした。2005年6月11日、無名のホワイトヘビーに一方的に殴られ、7ラウンド開始前にセコンドが棄権したIRON(鉄の男)・タイソンの姿を記憶しているだけに、19年5カ月ぶりの“公式戦”は悪い冗談としか思えなかった。
ファーストラウンド、そして第2ラウンドに、ピーカブースタイルで頭を揺らしたタイソンにほんの少し、かつての面影を感じた。が、3ラウンドに入ると彼は失速した。
ボクシングの素人ながらUFCではスーパースターとして崇められるコナー・マクレガーは、その後削除したX(旧Twitter)への投稿で、今回のファイトを「デカいグローブを着けた16分間のスパーに過ぎない」と記した。「もうやめろ」とも付け加えていた。
パウンド・フォー・パウンドでナンバーワンの座を争う、前4冠統一ウエルター級チャンピオンのテレンス・クロフォードは、「Netflixの実況チームが、タイソンを過大評価している」と吐き捨て、「彼はゴミのように見えた。あんなに長い間トレーニングをして、たった97発のパンチしか放てなかったとは、試合全体が狂っている。ただ、彼がケガをしなかったことを本当に嬉しく思う」と、胸の内を明かした。
結局、27歳のYouTuberが80-72、79-73、79-73のスコアで勝者となった。ダラス・カウボーイズのホームであるAT&Tスタディアムには7万人のファンが詰め掛けた。YouTuberもノックアウトは決して狙わず、あくまでもポイントを稼ぐボクシングに徹し、危な気なく勝利を収めた。
タイソンは試合前に右膝を負傷したことを認めたが、それをパフォーマンスの言い訳にはしなかった。そして、対戦相手が恐怖を覚えていたからこそ、コンビネーションを繰り出すことに躊躇したのだと語った。タイソン自身も、「怖かった、彼も俺にダメージを与えるべく向かってきた」と話した。
今回、ニューヨークやコロラドなど、アメリカ国内のいくつかの州がタイソンvs. YouTuber戦への賭けを禁じた。一見、プロボクシングの試合に見えたものの、関係者の多くが不安を感じていた。
NBAのレジェンド、マジック・ジョンソンは「タイソンのファイト、全てを観に行っていたので、彼のこんな姿を見るのは悲しい。今夜の試合はボクシングにとって素晴らしいものではなかった」とコメントした。言い得て妙である。
筆者は何より、58歳のタイソンが自分の足でタラップを降りられたことに、胸を撫で下ろしている。