Yahoo!ニュース

キース・サーマン対ショーン・ポーター戦の成功は迷走するPBCの方向性を変えるか

杉浦大介スポーツライター

Photo By Ryan Greene PBC

6月25日 ブルックリン バークレイズセンター

WBA世界ウェルター級タイトルマッチ

王者

キース・サーマン(アメリカ/27歳/27勝(22KO)1無効試合)

12ラウンド判定(115-113, 115-113, 115-113)

元IBF王者

ショーン・ポーター(アメリカ/28歳/26勝(16KO)2敗1分)

実力者同士の好勝負

ウェルター級屈指の強豪対決は、事前に予想された通り、いやそれ以上の好ファイトとなった。

ポーターが持ち前のラッシングパワーを誇示すれば、サーマンもスキルとカウンターで応戦。ノンストップの打ち合いでファンを沸かせ、ともに相手をぐらつかせる見せ場もつくった。

「凄い試合になったことをショーン・ポーターに感謝したい。彼は素晴らしいウォリアーだ。彼は積極的に出てきたが、僕のディフェンスが鍵になった」

微妙なラウンドも多かったが、サーマン本人のそんな言葉通り、的確さで勝った王者が僅差の判定を握った。年間最高試合に選ばれるレベルではないにせよ、最後までファンを飽きさせない内容の戦いだったことは間違いない。

興行的にも上々の数字

PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)によって提供され、CBSで中継されるShowtime Championship Boxingという複雑な形態で催されたこの一戦。CBSが1978年以来初めてプライムタイムに中継した興行のメインイベントは、平均視聴者240万人という悪くない数字を記録(イベント全体の平均視聴者は212万人)した。

ニューヨークにゆかりのないもの同士の対戦にもかかわらず、12718人の大観衆でアリーナは満員。この数字もダニー・ガルシア対ザブ・ジュダー戦の13048人に次ぎ、バークレイズでのボクシング興行史上2位の記録だった。

昨年3月に盛大なファンファーレを浴びて開始以降、アル・ヘイモン主催のPBCはカードの弱さで批判を浴びてきた。テレビ視聴率も下降の一途で、当初のBazzも綺麗に消失した感がある。しかし、サーマン対ポーター戦が興行面で軒並み好数値を残した事実は、“良いカードを組めばファンは好反応を示す”という普遍の真理を改めて証明したと言って良い。

画像

PBC不振脱出のきっかけに?

PBCの規模縮小は進む一方で、もう止まることはないようにも思える。7月2日から始まるESPNのサマーシリーズも目玉不在の残念なラインアップになった。

「NBCをはじめとする各テレビ局は、ヘイモンが自ら大枚を叩いた当初の契約期間が終わり次第、PBCの放映から足を洗う方向らしい」

サーマン対ポーター戦のファイトウィーク期間中も、そんな噂話がメディア関係者の間でまことしやかに囁かれていた。

実際に最近のマッチメークの質の低下、予算削減ぶりを見る限り、資金をすり減らしているのは明らか。PBCが来年以降も存続するとは考え難いのは事実である。しかし、そんな悪い流れを変える絶好機があるとすれば、サーマン対ポーター戦が良いきっかけを作った直後の現在だろう。

「僕は勝ったと思った。(結果は負けになったが、)今夜は戦士らしく戦えたから満足している」

ポーターのそんな言葉通り、地上波の放映下で好ファイトを演じた後で、勝ったサーマンだけでなく、敗者の評価も下がることはなかった。

そして、ヘイモンはウェルター級周辺に多くの好選手を抱えている。だとすれば、まだPBCの契約が残った今年後半以降、彼らにハイペースで潰し合いを演じさせるのが最も理に叶った方向性に違いない。

今こそ傘下選手同士の冒険ファイトを実現させる時

サーマンがダニー・ガルシア、エロール・スペンス・ジュニア、エイドリアン・ブローナー、アミア・カーンと対戦すれば、ポーター戦以上に大きな話題を呼ぶファイトになる。また、ボブ・アラムがヘイモンとの“和解”を明言している今なら、9月に予定されるケル・ブルック対ジェシー・バルガスの勝者、あるいはティモシー・ブラッドリーとのマッチメークも不可能ではないだろう。

現実的にはサーマンにはWBA暫定王者デビッド・アバネシアンとの指名戦が義務付けられそう。ただ、27歳の王者にとって、キャリアのこの時点でアバネシアンのような相手との対戦にもう大きな意味があるとは思えない。

ポーターの方にはアンドレ・ベルト、ビクター・オルティス、もしくはサミー・バスケス対ルイス・コラーゾの勝者をぶつけ、サバイバル戦を展開させても良い。そこでポーターが勝ち抜けば、サーマンとのリマッチ(あるいは彼を破った選手との対戦)も再びビッグビジネスになる。

ファンの願いを叶えれば

ここまで記してきた好カードシリーズは、熱心なボクシングファンならすでに誰もが望んできたことではある。ヘイモンが多くのスター選手を傘下に収め、地上波のテレビ興行を始めた時、その両方を上手に活かしてビッグファイトを連発していくのだと誰もが思った。しかし、実際には結果の見えたマッチメークばかりで、ファン、テレビ関係者を落胆させてしまった。

PBCがこのまま終了となればあまりにもお粗末。ボクシングは今後しばらく地上波テレビ局から見向きもされなくなるはずだ。ヘイモンの真の狙いがいったい何だったのかという疑問も消えない。

そんな悲惨な結末を少しでも変えていくべく、PBCはここから効果的に方向転換できるかどうか。ゲンナディ・ゴロフキン対サウル・“カネロ”・アルバレス戦の来年以降への“延期”が発表され、ボクシングファンは辟易している。そんな今は、PBCが逆に少なからず評判を回復させるチャンスでもある。

これまでの経緯、現在発表されているスケジュールを見る限り、今後も好循環は考え難いが、内外で好評を博したサーマン対ポーター戦こそが、狭量になりがちな業界の視野を広げさせるターニングポイントになることを願うばかりである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事