最大輸送密度38,000人で赤字額71億円の札幌都市圏 垣間見えるJR北海道の危機的状況
JR北海道は閑散線区が多いから経営が厳しい。このように考えている読者の方は多いのではないだろうか。しかし、JR北海道が発表した資料から必ずしもそうとは言えない現実が浮かび上がっている。
最大輸送密度38,000人で赤字額71億円の札幌都市圏
JR北海道は、2023年6月9日「2022年度 線区別の収支とご利用状況について」という資料を発表した。この資料にはJR北海道全路線の収支状況と輸送密度が公開されている。札幌都市圏以外の大半は輸送密度が1000人未満の閑散線区で、全路線が赤字であるのは当然なのであるが、輸送密度が30,000人を大きく超える札幌都市圏の路線でも71億円という巨額の赤字額を計上していることが判明した。
2022年度は、コロナ禍による行動制限が緩和されたことで鉄道旅客は回復基調となり、大都市圏を中心とした株式を上場する鉄道会社は全社黒字決算となるなど、鉄道業界にとっては追い風の1年となった。にもかかわらず、十分な輸送密度のある札幌都市圏でも黒字経営ができないJR北海道の体質はかなりの問題があるのではないだろうか。
公表された札幌都市圏の路線と輸送密度は、札沼線(学園都市線)桑園―北海道医療大学間が14,475人、函館線の札幌―岩見沢間が32,776人、千歳・室蘭線の白石―苫小牧間が38,410人、函館線の小樽―札幌間が36,353人でこれら4線区の赤字額の合計が約71億円と記載されていた。
そもそも輸送密度が30,000人という数字は、鉄道事業単体でも十分に黒字経営が可能な水準だ。例えば、輸送密度が約12,000人の愛知県の愛知環状鉄道や、約5,000人の山梨県の富士急行線など、JR北海道の札幌都市圏よりもはるかに少ない輸送密度にも関わらず安定した黒字経営を行っている路線は全国各地にある。
JR北海道の離職者は年間200人を超える
札幌市の人口は195万人を超え、江別市や小樽市なども合わせた近隣の都市圏人口は250万人に迫る。こうした恵まれた経営環境にある札幌都市圏の鉄道すら満足に黒字経営ができないJR北海道の企業体質には疑問符が付く。
JR北海道の離職者は年間200名を超え、深刻な人材流出を招く結果となっている。こうしたことからも、JR北海道内部からは鉄道経営ができる人材がすでにいなくなってしまっていることが危惧される。
(了)